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生物多様性に迫る危機
私たちが生活していくうえで欠かせない生物多様性ですが、実は今、世界各国でこの多様性が失われ続けています。
地球上には判明しているだけでも175万種類、正確には分かっていないものも全て含めると3,000万種類もの生き物が生息していると言われており、人間のさまざまな活動が原因で一年間に約4万種もの生き物が絶滅しているのが現状です。
過去にも火山の噴火や氷河期などによって多くの個体が死滅してきてはいたものの、現在の絶滅の速度はそれをはるかに上回るスピードで起こっており、社会的な問題となっています。
生態系はさまざまな生き物が共存することでバランスが保たれています。そのため、ある種が突然絶滅してしまうとそのバランスは崩れ、ほかの種も絶滅する恐れがあるのです。また、一度絶滅した種は二度と復活することはありません。
では実際に、生物多様性が抱える4つの危機について見ていきましょう。
最近よく耳にする生物多様性とはどんな意味?第1の危機:土地開発や乱獲による種の減少・絶滅や生息地の減少
人間のさまざまな活動の中で最も直接的に生き物の場所を奪っているのは、以下をはじめとする開発事業です。
森林伐採
広大な森林を必要としている生き物のすみかを奪い、湧き水などの水分環境をも変化させます。
沿岸部の埋め立て
沿岸部沿いには稚魚の成育場が多く、開発によって破壊されることで漁業においてもダメージが発生します。
護岸建設
ダムなどを建設したことで、水辺に住む生き物が死滅しています。
農地の整備
用排水路を整備したり農道・耕地区画を増やすことで、森林や緑地が減少しています。
このように、開発にともなう環境の変化は多くの生き物の生息環境を悪化・消失させてきました。
同じ種の乱獲、鑑賞・商用目的での希少種の捕獲・盗掘など、その生き物の持つ繁栄力をはるかに超えた利用も、生き物を減らしている人間活動の一つです。登山客や観光客による無意識の踏み荒らしなども成長の遅い高山や湿地で植生している植物には深刻な問題となり得ます。
第2の危機:里山を利用しなくなったことによる質の低下
少子高齢化による急激な人口減少が起きている日本。生活様式や産業構造の変化による都心部への人口集中や農産業の衰退という問題も抱えており、これによって新たな問題が発生しています。
集落周辺にある森林、いわゆる里地里山は古くから人間によって多くの利用がなされ、そのなかで維持されてきた環境では数多くの種が生息していました。
燃料である薪を採ることで木々を適度に間引き、家畜の飼料や畑の肥料・牧場の維持のために草刈りを行うことで、森林・草原やそこで生息する生き物は長い間、人間と共存してきたのです。
しかし、エネルギー革命や化学肥料への転換が進められたことで里地里山に人が入らなくなっていきます。その結果、いままで維持されてきた里地里山は荒廃して同時にその地で生息していた種は絶滅、土砂災害も発生しやすくなりました。
また、これまでは人間活動によって個体数が抑えられてきたクマやイノシシ・シカなどの大型の哺乳類が農林業の衰退や狩猟数の低下などの影響で数を増やし、農作物を荒らしたり植物を食い荒らしたりして、人間とのトラブルを引き起こしています。
起こる前に知っておくべき土砂災害の種類とその対策第3の危機:外来種の持ち込みによる生態系の乱れ
人間は、電車や新幹線・飛行機・フェリーなど短時間で長い距離の移動を可能にした交通・輸送手段を生み出してきました。これらの手段は人間のみならずさまざまな種を世界各地に運んでいます。
例えば、
- 穀物に混ざった植物の胞子・種子や害虫
- ペットとして取り引きされる魚や昆虫・犬や猫などの哺乳類
- チューリップやヒナゲシなどの花々
などの多くも海の向こうから渡ってきています。
これら外来種と呼ばれる生き物は、飼育・栽培下でのみ生きられるものがいる一方で、野外へと飛び出して在来種を食い尽くしたりすみかを荒らしたりして繁栄し、ほかの生き物が成育できないようにするものもいるため、多くの脅威を抱えています。
外から来た新たな病原体も、抵抗力を持たない在来種には深刻な症状をもたらします。逆に、日本から海外に輸出されたことで脅威をもたらした「イタドリ」やマメコガネなどの例もあります。
また、殺虫剤や除草剤を含むさまざまな化学物質も人間が生態系に持ち込んだ外来種であると言えます。近年、ネオニコチノイド系の殺虫剤の影響でマルハナバチなどの送粉昆虫をはじめとした数多くの昆虫が減少している可能性があるとして、対策が求められています。
外来種が増える理由は?かわいいけどカメなど被害が深刻なケースも第4の危機:地球温暖化による危機
世界の平均気温は絶え間なく上昇を続けており、地球温暖化が起きていることはもはや疑う余地がないところまで来ています。また、地球温暖化による気温の上昇は気候変動を引き起こし、これによって海水へ誘拐する二酸化炭素の濃度を高め、海洋の酸性化をも引き起こします。
気候変動によってこれまで生育していた地域の気候環境が変化し、今のすみかが生育に適さない環境となってしまった生き物は、どこか別の適した場所へと移動しなければならなくなります。
例えば、ニホンジカはこの気候変動によって国内の生息範囲を広げているものの、地球温暖化による気候の変動はかなりの速度で進行しているため、多くの生き物にとっては地域の移動が間に合っていません。
特に、海水面の上昇の影響をじかに受けてしまう沿岸部の植物や、逃げ場のない高山帯にのみ生息しているライチョウは絶滅してしまう恐れが非常に高いと見込まれています。
地球温暖化の対策に向けてどのような取り組みが行われているかこれら4つの危機が、日本の野生生物の約3割を絶滅させてしまう状況を作り出しているのです。
生物多様性を守るために何をすれば良いか
では、私たちの暮らしを支える生き物を守るために、何をすれば良いのでしょう。
食品廃棄物を減らす
日本では一年間におよそ1,900万トンもの食品が廃棄されていると言われています。必要な分だけ食材を買い、食べられる分だけ料理を作り、食品廃棄物を減らすことは、生態系を維持するための大切な取り組みとなります。
省エネなど地球温暖化防止対策に取り組む
地球温暖化が進行して世界の平均気温が2度上がるだけで、約20%もの生き物が絶滅する恐れがあるとの予測があります。省エネ対策などの地球温暖化防止対策に取り組むことは、生き物の生育環境を守り絶滅の危機から脱することへつながるでしょう。
省エネで地球を大切に 身近なことから始めよう環境に配慮した製品を選ぶ
近年、水産物や農産物・木製製品について、「生物多様性が配慮された方法」で生産されている製品を推進する取り組みが行われています。私たち消費者がこの製品を進んで利用することで、生物多様性の保全が行えます。
地域の食材や旬のものを選んで食べる
その地域で採れたものをその地域で消費するという「地産地消」は自然本来の姿です。地産地消の推進は、農地の生態系を保全したり輸送に必要なエネルギーを削減することにもつながります。
地産地消の取り組み事例は地域活性化や経済効果をもたらす?
私たちの暮らしを支える生物多様性。いま、それを人間自ら危機的な状況へと進行させています。これからも生き物の恩恵を受け続けていくためには、一人ひとりが行動し、さまざまな対策を行っていかなければなりません。