この記事の目次
火力発電とは?
日本の火力発電の現状
日本で主力となっている火力発電ですが、まずは発電全体から見た現状を押さえていきたいと思います。
高度成長期から日本の発電量は右肩上がりになり、その量は2010年に11.142億kWhにまで達しました。この時点で火力発電による発電量の割合は全体の約6割だったのですが、2011年に起こった東日本大震災によってその割合に変化が現れます。
それまで全体の発電量の約4割を担っていた原子力発電が減少し、代わって太陽光発電などの新エネルギーが普及し始めます。しかし、全体の発電量としては水力・新エネルギー・原子力発電を合わせても全体の3割程度で、2021年の段階で火力発電が71.7%の発電量を占めています。
火力発電は需要の増減に合わせて発電量を調節しやすいため、自然エネルギーによる発電量の変動を吸収する役割を担っています。そのため、火力発電は自然エネルギーの普及を支える発電方法と考えることもでき、現在でも中心的な役割を果たしているのです。
2030年に向けた取り組み
化石燃料という限りある資源を利用した火力発電は、次の見出しで詳しく説明しますが、化石燃料の価格の変動や枯渇の可能性、二酸化炭素の排出といったデメリットがあります。
そこで、これらの課題を解決するためにクローズアップされているのがエネルギーミックスという政策です。2021年12月時点では、2030年を目標に以下の割合での発電が目指されています。
- 太陽光や風力などの再生可能エネルギー:約36〜38%
- LNG火力:約20%
- 石炭火力:約19%
- 石油火力:約2%
- 原子力:約20〜22%
エネルギー政策の基本となっているのは、全体的な安全確保(Safety)を前提とした
- エネルギーの安定供給(Energy security)
- 経済性(Economy)
- 環境保全(Environmental conservation)
をバランスよく行うことで、それぞれの頭文字から「3E+S」と呼ばれています。
発電のためのエネルギー自給率が低い日本にとって「いかに効率よく経済的に発電するか」という点は大変重要な課題です。火力発電に再生可能エネルギーを組み合わせた発電方式や、時間帯や季節によって需要に合わせた細やかな発電を行うなど、未来へ向けた取り組みが始まっています。
火力発電のデメリット
日本の発電量の多くを担っている火力発電ですが、まずはそのデメリットから見ていきます。
燃料の価格(電気代)が安定しない
火力発電で使用される石油・石炭・天然ガスといった化石燃料は、そのほとんどを海外からの輸入でまかなっている状態です。特に、石油は原油国との軋轢や世界情勢の悪化により価格の変動が激しく、その影響がそのまま日常生活に及ぶ可能性もあります。
2022年から2023年にかけての電気代の高騰は、まさにこのデメリットによるものと言えるでしょう。
温室効果ガスによる地球温暖化への懸念がある
かなり改善されてきたとはいえ、火力発電所から排出される二酸化炭素や窒素酸化物は決してゼロではありません。稼働している発電所の中には、効率が悪く温室効果ガスの排出量が高いものもあるため、このまま稼働を続けることを問題視する声も多くあります。
火力発電に使われる燃料のライフサイクル全体での二酸化炭素の発生量は以下のとおりで、いずれも高い水準となっています。
- LNG:0.599kg/kWh
- 石炭:0.943kg/kWh
- 石油:0.738kg/kWh
化石燃料の枯渇の恐れがある
化石燃料は無限ではありません。すでに埋蔵量の低下が指摘されている石油をはじめ、石炭や天然ガスも使い続ければいつかはなくなってしまいます。しかし、火力発電を完全に無くすことは現実的ではないため、デメリット自体の解決策も探りながら、この資源の問題とのバランスを上手く取っていく必要があるのです。
火力発電のメリット
日本で火力発電が主流になった理由として、以下のようなメリットが挙げられます。
発電所を設置しやすい
水力・原子力といった発電所と比較すると、火力発電所は設置する規模が小さくて済むことから、多くの電力会社が火力発電所を設置・運営しています。国家的なプロジェクトでない分、設置・運営までの流れがスムーズなことも利点の一つです。
燃料の取り扱いがしやすい
燃料の種類にもよりますが、基本的に火力発電に必要な燃料は貯蔵・運搬がしやすく安定しています。これにより、一定の電気の供給が可能となっているのです。また、災害時でも被害を最小限に食い止め、リスクが少ないというメリットもあります。
エネルギーの変換効率が高く出力も調整しやすい
火力発電は、燃料が燃えた際の熱をエネルギーに変換するという分かりやすい仕組みになっています。熱が持つエネルギーをそのまま出力に変換するので効率が大変よく、使用する燃料を調整することで必要な分だけ発電できます。
火力発電の燃料ごとのメリット・デメリット
現在の日本で火力発電に使われる燃料には主に以下の三つがあり、それぞれ特徴が異なります。ここからは燃料ごとの具体的なメリットとデメリットを見ていきましょう。
石油火力
石油火力は、石油により発生した火力を利用して発電する方法です。運搬や貯蔵方法といった面で優れていることから、日本でも多くの発電所で採用されていました。
しかし、地球に埋蔵されている化石燃料の中でも特に枯渇が心配されている石油は、ほかの燃料価格と比較すると割高です。必要な量を必要な分だけ使用するという点で石油は優れた柔軟性を持ちますが、日本で使用される石油のほとんどを海外からの輸入に頼っており、世界情勢にともない価格も変動するため安定的な供給が途切れる不安もあります。
- メリット :貯蔵が容易で供給の調整がしやすい
- デメリット:資源の枯渇の可能性があって価格が高い。中東諸国への依存度が高く、地域情勢の影響で価格の変動が大きい。環境負荷も高い
ただ、価格については、シェールガスやシェールオイルが採掘可能になったことで、今後は低下が期待されています。
石炭火力
石炭は、植物が堆積して地中に埋もれ、長い期間にわたって熱や圧力を受けて変質した植物化石です。国内消費量のほぼ100%を輸入に頼っている日本の石炭産業は第二次世界大戦前後が生産の最盛期で、当時の輸入比率は約25%、生産量のピークは5730万トン(1940年)でした。
その石炭を燃やした火力を利用し、タービンを回して発電する方法が石炭火力です。石炭による火力発電は、酸化窒素化合物・酸化硫黄化合物といった温室効果ガスの排出が問題視されてきました。
現在日本で稼働している火力発電では排出ガスのクリーン化が進んでおり、なかには90%もの排出ガスを低減させることに成功した火力発電もあります。また、石炭を燃やしたあとに残る石炭灰はセメントの材料として再利用され、石炭火力から生まれた副産物も生活の中で役立てられています。
しかし、海外の火力発電所に目を向けると、環境汚染源とされるところもあり、石炭による火力発電は世界的に縮小してきているのが現状です。
- メリット :調達先が分散しており資源量も豊富なため、価格が安い
- デメリット:二酸化炭素の排出量が多く、環境負荷を抑えた設備への置き替えが求められている
LNG火力
LNGとは、天然ガスを冷却して液体化することで凝縮したものです。石油・石炭と比較すると燃焼時の温室効果ガスの排出量が少なく、クリーンな化石燃料として注目されています。
埋蔵量も多く長期間の使用が見込めるものの、天然ガスの貯蔵・運搬には特殊なタンクや輸送用の船舶・タンクローリーが必要になるため、柔軟性や容易性といった面に関しては課題が残る燃料です。
- メリット :調達先が分散しているため供給が安定している。二酸化炭素の排出量も比較的少ない
- デメリット:貯蔵・輸送が難しく、インフラ整備も必要なので価格が高い
火力発電のデメリットの解決策:石炭ガス化複合発電
石炭産業衰退の象徴として知られる長崎県の軍艦島(端島)が世界遺産になり、過去のものと思われている石炭ですが、製鉄の原料や火力発電の分野ではいまだにその優位性は失われていません。そればかりか、石炭の燃焼で発生する石炭灰は私たちの足元を支えています。
石炭は資源量が多く安価なエネルギー源ですが、環境負荷が高いというデメリットがあります。しかし、次世代高効率石炭火力発電システム「石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)」の開発により、この欠点は克服されようとしています。
石炭の分類
石炭は、石炭化度・用途によって以下のように分類されます。
石炭化度による分類
- 泥炭:炭素の含有量が70%以下で、園芸用途に使われる。日本においては石炭に分類されていない
- 褐炭:石炭化度が低く、水分が質量の半分以上を占める。発熱量が低く輸送コストがかかるため、鉱山周辺で消費されている
- 瀝青炭:炭素の含有量が83%〜90%で、コークス原料に使われ、高価で取り引きされている
- 無煙炭:煙の少ない石炭で、炭素の含有量は90%以上。家庭用練炭の原料として使われる。発熱量は高いものの着火性に劣るというデメリットもある
用途による分類
- 原料炭:工業用に向いており、製鉄(コークス)の原料などになる
- 一般炭:燃料用途に向いており、主に発電用燃料になる
二酸化炭素回収貯留の研究が進む
燃料として石油が使われはじめたことで石炭から石油への置き替えが進んでいきましたが、石油危機を背景に発電燃料・産業燃料の石炭への回帰が起こります。世界エネルギー会議の調査結果(2007年)では約8475億トンの石炭の可採埋蔵量があるとされており、これは、生産量から計算すると133年分に相当します。
また、石炭のデメリットである二酸化炭素排出量の多さの解決に向けて二酸化炭素回収貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)の技術開発が進められており、2020年には実証実験も成功しています。
2014年のエネルギー基本計画でも「次世代高効率石炭火力発電技術等の開発・実用化を推進する」とされており、世界初となった「空気吹きガス化炉」を使ったIGCCの勿来(なこそ)発電所をはじめとして、次世代高効率石炭火力発電システムの開発も進んでいます。
燃焼で発生する石炭灰
電気事業から排出される燃え殻やばいじんなどは、全産業廃棄物排出量の約2.5%を占めています。そして、その多くは石炭火力発電所から発生する石炭灰です。石炭灰には球形の微細粒子のフライアッシュと砂に近いクリンカアッシュとがあり、これらはセメントやコンクリートの原料として土木・建築分野で活用されています。
資源有効利用促進法により電気事業の石炭灰は指定副産物とされている(政令第7条)ため、その利用促進に努めることは排出事業者の義務となっています。2003年以前は公有水面への石炭灰の埋め立てはリサイクルに該当しませんでしたが、2004年に、港湾計画に基づいて行われる公有水面への埋め立てに電気事業から排出される石炭灰を利用することがリサイクルに該当するという見直しが行われます。
さらに2007年からは、都道府県の免許を受けて行われている公有水面への埋め立てに電気事業から排出される石炭灰を利用することもリサイクルに該当するようになりました。
こうして石炭灰は、高規格道路盛土や震災復興資材、港湾工事資材のためのセメントやコンクリートへの混和材としての利用が広がり、そのリサイクル率は9割以上にもなったのです。
石炭灰の有効利用に向けて
石炭需要の増加とともに右肩上がりの増加を続けている石炭灰用は、ほとんどがセメントの材料としてリサイクルされています。
- 人工海底山脈プロジェクト
- 河川底質改善技術
- 舗装ブロック
がこれに該当します。しかし、用途がセメント分野へ集中しているため、セメントの生産量そのものが落ち込んできている状況では他の分野への拡大が課題となっています。
しかし、物性値の情報に乏しく安定しないために土木工事の設計ができないことや、石炭灰は産業廃棄物なので取扱に免許やマニフェストの発行が必要とされることから、あまり導入が進んでいません。
戦後の日本を支えてきた火力発電は、いま、デメリットと向き合うために新たな分岐点を迎えようとしています。その転換期に立ち会う現代の日本も、火力発電をとおしてエネルギーとの付き合い方を改めて考える必要があるのかもしれません。