この記事の目次
土砂災害の種類
土砂災害とは
私たちが住んでいる大地は岩石や土で構成されています。海に面した平坦な土地、山を切り崩して人工的に作られた地面、川沿いのなだらかな斜面など、その姿はさまざまです。
これらの大地は普段の生活には何の支障もないのですが、集中豪雨や地震などの影響が加わると土地のバランスが崩れ、地球の重力に従ってより低い方へと滑り流れていきます。
「マス・ムーブメント(mass movement)」と呼ばれるこの現象により、多くの土砂が流れ出して引き起こされる災害が「土砂災害」です。
この土砂災害は、大きく3つに分類されています。
がけ崩れ
集中豪雨による雨水や地震などの影響で切り立った土地の地表が緩み、突然斜面が崩れ落ちてしまう現象を「がけ崩れ」と言います。一瞬にして起こり、崩れ落ちる速度も相当なため民家の近くで発生した場合は逃げ遅れる人も多く、命を落としてしまう割合も多くなります。
地すべり
地下水の影響で地中から浮き上がった地面が、重力によって下方にゆっくりと移動していく現象を「地すべり」と言います。
緩やかな傾斜地で起こりやすく一度に大量の土が移動するため、ひとたび発生してしまうと、民家や道路・田んぼに多大な被害を与えたり川をせき止めることで洪水を引き起こしたりします。
土石流
山の土や川底に溜まった石などが、長雨や集中豪雨の影響で土砂となって一気に下流へ押し流されていく現象を「土石流」と言います。時速は40kmになることもあり、民家や田端に壊滅的な被害を出します。
表層崩壊(ひょうそうほうかい)と深層崩壊(しんそうほうかい)
山の斜面が崩れてしまうことを斜面崩壊と言いますが、そのなかで、山の表面部分の土だけが崩れてしまうことを表層崩壊、土壌における岩盤部分までが一緒になって崩れてしまうことを深層崩壊と呼びます。
がけ崩れ・地すべり・土石流の3つの災害は斜面の崩壊の仕方で分けられた分類でしたが、表層崩壊と深層崩壊は崩壊の規模によって定められる分類となります。
表層崩壊
山の表面の土は、一般的に厚さが0.5m~2.0mほどと考えられています。これが基盤層の境界に沿いながらゆっくりと崩れていく比較的規模の小さい崩壊現象のことです。
深層崩壊
厚さ0.5m~2.0mほどの表層度が崩落する表層崩壊に対して、それよりも深いところから崩れていく現象が深層崩壊です。表層崩壊と比べると崩れる土砂の量がはるかに多いため、土石流の規模もそれに比例して大きくなり、被害はさらに拡大する傾向にあります。
一方で、研究が進められたことにより、地質や地形の情報から深層崩壊が起こりやすい場所を特定できるようになりました。2010年には深層崩壊を引き起こす危険性の高い場所が示された全国の地図が国土交通省から発表されています。
土砂災害の原因
土砂災害が起こりやすい場所
土砂災害が起こる可能性が高い場所には、いくつかの特徴があります。
例えば、火山灰などの蓄積により形成されているシラス台地や地下水が豊富な土地、砂が多く含まれていたり木々が伐採された跡地など、大雨や地震の影響を受けやすい土地は注意が必要です。
- むき出しとなったガケが住宅の近くや道路の脇にある
- 山を切り開いて作られた住宅地のなかで水が染み出している場所がある
- 断層が通っていたり過去の地震の際に地面のヒビ割れや段差ができた地域がある
このような状態の土地は土砂災害が発生する可能性を含んでいるので、よく観察してみましょう。
「昔起こったことを後世に伝えるための手段」として土地名に名残を残したり、その土地に住むお年寄りが過去の災害を伝承していることもあります。地域の図書館などで調べてみるのも良いでしょう。
土砂災害が起こる前兆
一瞬にして命を奪う可能性のある土砂災害。その前兆となる小さなサインを見逃さないことは、最悪の事態を避けるために大変重要となります。
土砂災害の前兆を、各種類別に見ていきましょう。
がけ崩れの前兆
- がけにヒビが入っている
- がけから小石がパラパラと落ちてくることがある
- がけのヒビから湧き水が流れ出している、または湧き水が急に濁ったり枯れたりする
- 地鳴りがする
地すべりの前兆
- 地面にヒビ割れや陥没が見られる
- 地面から水が湧き出している
- 井戸水が枯れてきている
- 樹木が傾いている
土石流の前兆
- 急に川が濁り、流木が混じって流れるようになる
- 雨が続いているにもかかわらず川の水位が下がっている
- 山の木々が裂けるような音や川の石がぶつかり合う音が響く
- 土が奇妙な匂いになる(腐ったような匂い)
このほかに、それぞれの土砂災害の前兆として共通しているのは「地鳴りがする」という点です。雷が鳴る前の「ゴゴゴ…」という音が地面から響くようであれば、土砂災害の可能性が高まっている状態であると判断し、警戒しましょう。
土砂災害の原因
土砂災害の原因として一番に挙げられるのは長雨や集中豪雨です。大量に降り注ぐ雨は地面へ染み込み、地面を緩ませることになります。緩んだ地面は重力に従って下方へ流れ、土砂災害となるのです。
また、地震による土地の変化が土砂災害へとつながることもあります。
地震による地殻変動は地面に大きな影響を及ぼします。亀裂や段差のある地面にさらに雨水が染み込むことで、ただでさえ危うい地面はさらに緩く流動的なものとなり、最終的には土砂災害へとつながっていきます。大地震の後の大雨で被害が拡大するのはこのためです。
土砂災害への対策
土砂災害から身を守るための対策
土砂災害に対して、事前にどれだけの対策をしておくかが命を守るカギとなります。
地震大国であり毎年台風の被害に遭っている日本では、土砂災害を最小限に食い止めるために「砂防えん堤」「がけ崩れ防止工事」、そして新たに「地すべり防止工事」にも力を入れています。
国土交通省は土砂災害警戒区域のハザードマップを公開し、私たちは事前に情報を得られるようになりました。これらの情報をまず確認することで地域の危険度を知り、万が一の時の避難場所や必要な避難用具を用意しましょう。
実際に大雨によって危険度が高まった際には土砂災害警戒警報が発令され、天気予報や気象庁のホームページなどで確認することができます。早めの情報が命を救うことにつながるため、電波障害や停電に備えてラジオや懐中電灯を用意しておくことも重要です。
もしも土砂災害に巻き込まれたら
どれだけ準備をしていても、状況によっては土砂災害を免れない場合もあります。
避難する際には早めの行動を心がけ、ラジオなどで最新情報を集めるようにしましょう。避難が遅れた場合は頑丈な建物の2階以上に避難するようにします。これは、木造の建物の1階が最も危険であるためです。
避難した建物が土砂に埋まった場合、生存を知らせるためにラジオを最大音量にしたり、サイレンや笛・防犯ベルを鳴らしたり、懐中電灯を点滅させたりしましょう。可能であれば携帯電話やスマートフォンを使いて早急に救助を求めます。
また、土砂に埋まった人命を救助する際には「サイレントタイム」が非常に重要です。一定期間ヘリコプターや重機の使用を停止し、話すのを止めて耳を澄ませることで救助を求める人の声を聞きます。これにより場所を特定して救助作業を行う方法です。
平成26年度 広島の土砂災害
局地的な大雨による土砂災害
平成26年8月20日未明、広島市安佐南区と安佐北区を襲った集中豪雨が土石流を引き起こし、人々を襲いました。
死者77名・全壊家屋を含めた建物被害が3000棟を大きく越えたこの災害時、避難勧告が遅れたことやその後の対応の不手際に対して行政には批難の声が集まりました。
記録的な集中豪雨であったこと、夜中から明け方4時にかけてという暗く動きの取れない時間であったこと、新興住宅地で人家が密集していたこと、という3つの悪条件が重なった結果起こってしまった「都市型土砂災害」です。
これまで報告されてきた土砂災害とは違い、都市計画・地域計画・防災計画の面での問題点が浮き彫りとなったのです。
災害からの復興活動
過去最大とされる被害を受けた町は、防災と復興に向けて大きく舵を切りました。
広島市は平成26年10月7日に復興まちづくり本部を設置、住民説明会などを開いて意見を取り入れた「復興まちづくりビジョン」を打ち出します。
- 都市計画と防災計画の面から災害予防工事を行う
- 土砂災害警戒区域指定をして住民参加による警戒避難体制をとる
- 住宅の再建や共同施設再建など、インフラの整備を行う
- 自主防災組織を支援する体制を整えるために防災基金を設立する
復興まちづくりビジョンは2015年から10年計画でスタートし、災害に強い町、災害が起こっても死傷者が出ない町を目指して活動が行われています。
過去に起こった災害から多くを学び、後世に伝えていく。これが災害を経験した時代を生きている人にとっての大切な使命でしょう。