地域おこし協力隊地域に住む人の想いをカタチにする 「この地域はダメだ」という声を聴くのが一番寂しい(茨城県稲敷市 地域おこし協力隊)

地域に住む人の想いをカタチにする 「この地域はダメだ」という声を聴くのが一番寂しい

茨城県稲敷市で地域おこし協力隊として活動している岡田菫さん。以前は島根県美郷町で地域おこし協力隊をしていましたが、2015年からは出身地である土浦市近くに位置する稲敷市の協力隊となり、新たなキャリアを再スタートさせています。地域づくりに生きる彼女の想いに迫りました。
【岡田 菫 稲敷市地域おこし協力隊】

岡田菫さんは茨城県稲敷市の地域おこし協力隊。これまでに、地域の昔話を地域住民と一緒に紙芝居にするプロジェクトや、移住定住ポータルサイト「稲敷の家族」の制作、古民家を活用して地域のにぎわいを作ろうとイベント企画をする主婦らのサポートなど、多岐にわたる活動を展開してきました。

2019年の茨城国体でトランポリン競技の開催地となる同市をPRしようと製作した「ジャンピング・プレジデントカレンダー2018」では、市長や市内の警察署長、医師会のトップら12人がトランポリンで飛び跳ねる姿をカレンダーにし、大きな反響を呼んでいます。

稲敷に住む子どもからお年寄りまで、多くの住民と関わりながらプロジェクトを展開する彼女に、地域に溶け込むコツや活動への想いを伺いました。

 

郷土愛を持てる地域にしたい

ー 稲敷市はどのような地域ですか?

岡田菫(以下「岡田」) 稲敷市は茨城県の県南地域に位置し、霞ヶ浦、利根川に囲まれた豊かな水資源と土壌の恵みのある地域です。

東京都心からは車でおよそ90分、成田空港からは車で30分ほどで訪れることができる、都会からちょうど良い場所にある田舎だと思います。

農作物も豊富に穫れて、各地域に多くの特産物があります。私は江戸崎かぼちゃやあずまミルキークイーン、浮島レンコンが好きでよく食べていますが、本当においしいですよ。

ただ、電車の通ってない地域なので、利便性を求めて稲敷を出てしまう人も少なくありません。今はおよそ4万1000人が住んでいるのですが、毎月50人ほどが市外へ移住してしまう現状もあります。

移住といっても、新卒で仕事に就いたり、夫婦に子どもが生まれるタイミングで電車が通っている龍ケ崎市や土浦市など近くの市に越してしまうんです。人口が流出しないためには郷土愛を育てることがとても大事だと思っていて、そのために地域に誇りを持てるような活動を心がけてます。

協力隊に入った理由を教えてください

ー 協力隊に入られた理由を教えてください。

岡田 私は茨城県の土浦市出身なのですが、島根で地域おこし協力隊の仕事を始めて、人口減少の問題を考えたり郷土愛を意識したりするうちに、地元に帰ってまちづくりの仕事に就きたいと考え始めるようになりました。

そのタイミングで、稲敷市が茨城県の県南地域で初めて地域おこし協力隊の募集をする、と知人から紹介されて応募しました。

地域活性について、稲敷市の職員の方がとても前向きに考えて取り組んでいることも決め手となりましたね。

 

身近にいる人が話題になることで人と人のつながりが増えていく

身近にいる人が話題になることで 人と人のつながりが増えていく

ー 紙芝居やホームページの制作から、主婦グループとのイベントづくりまで幅広い活動をされていますが、特に印象に残っているプロジェクトは何ですか?

岡田 「ジャンピング・プレジデント」という企画です。稲敷市は、数年前からシティプロモーション推進室を設けて、住民や稲敷市に関わりのある人が地域に愛着や誇りを持てるようなプロジェクトに力を入れています。

そのプロモーションの一つに、私が発案した「ジャンピング・プレジデント」という企画が採用され、事業化されることになりました。これは、2019年に稲敷市が茨城国体のトランポリン競技の開催地となることをPRするもので、市長や警察署長、消防署長、医師会長、農協組合長といった普段固いイメージのある人がトランポリンで飛び跳ねる姿をカレンダーにする企画です。

企画段階で「おじさんが跳ぶ姿を誰が見たいんだ。かわいい女の子を起用した方が良いんじゃないか」という声もたくさんいただいたのですが、この方が「自分の地域にいる偉い人がこんなに面白いことをしているんだ」と地域に親しみを持ってもらえると考えました。ですから、「偉いおじさん」を跳ばすことにはこだわりました。

結果的に明るい話題が多く生まれて喜んでもらえたので、本当にやって良かったと思います。

 

地域にいる方と距離があると何もうまくいかない
大事なのはオープンに接すること

ー 本当に面白い企画をたくさん手掛けられていますね。逆に、活動で失敗してしまったことや苦労したことは何ですか?

岡田 前職の島根県で隊員だった時の話なのですが、地域住民との距離を埋めることには苦労しました。担当した産直市の運営では、かわいいポップを作ったり商品のデザインを変えれば売り上げを伸ばせると思って、生産者のことを全く考えていませんでした。

野菜や果物を作るおばあちゃんの顔と名前を覚えていないし、どのように作物が育てられているかも全く把握していませんでした。そんな状態ではもちろん運営もうまくいきません。

そこでハッと気づき、おばあちゃんの家を一軒ずつ回って、困っていることを尋ねてみました。ケガを機に農業を辞めてしまうことも少なくないので、時には私も鍬(くわ)を持って畑に手伝いに行ったこともあります。

 地域にいる方と距離があると何もうまくいかない 大事なのはオープンに接する事
(稲敷市の人気菓子店「東郷菓子舗」の店員と交流する岡田さん)

そうしていくうちに「他の人と出荷する作物が被ってしまう」、「価格をどう設定すべきか分からない」といった悩みを話してくれるようになって、それを解決していくことで彼女らとの距離がどんどん縮まって、売り上げも伸びていきました。

なので、稲敷でも自分をさらけ出して住民の方とオープンに接することを意識しています。「岡田さんとだったら一緒に何かしてみよう」と思ってもらえれば良いですね。

 

地域に住む人の想いをカタチにする
そのお手伝いをするのが地域おこし協力隊の仕事

地域に住む人の想いをカタチにする そのお手伝いをするのが地域おこし協力隊の仕事

ー 最後に、今後の活動を通して稲敷市にどのような変化が起こって欲しいか聞かせてください。

岡田 稲敷にいる人が抱えている想いを実現できるきっかけを作りたいです。

「人口をたくさん増やそう」といった大きい枠で地域を見てしまうと変えられないことばかりになってしまいますが、一人一人ができる範囲で行動を起こすことで、地域は少しずつ良くなっていきます。

「この地域はダメだ」、「諦めよう」という言葉を聞くのが一番寂しいことなんです。

人との出会いやちょっとしたきっかけから新しいことがどんどん生まれて夢が実現していくこともあるので、地域でやりたいことがあれば、「どうせ無理だよ」と最初から諦めずに、アクションを起こして欲しいです。

私は、地域に対して思っていることを口に出すだけでも、それ自体が立派なアクションだと思っています。

一人だとできないことはたくさんありますが、人に話すことでそれに賛同する人が現れたりして、新しい展開を迎える可能性もあります。その声を形にするきっかけを作れたら嬉しいですし、「来てくれてよかった」と思ってもらえれば、それ以上に喜ばしいことはないですね。

 

【プロフィール】

地域に住むひとの想いをカタチにする 「この地域はダメだ」という声を聞くのが一番寂しい
岡田 菫(おかだ すみれ)
稲敷市 地域おこし協力隊

大学卒業後、島根県美郷町の地域おこし協力隊として活動。2015年5月からは出身地である茨城県土浦市に近い稲敷市で地域おこし協力隊に着任し、キャリアを再スタートさせた。

商店街を歩けば「菫ちゃーん」と多くの住民が手を振りながら声をかけてくれる。「あの人なら何かやってくれそう」ではなく、「あの人となら一緒に何かできるかもしれない」と思ってもらえるよう、自分を飾らずオープンに接することが地域に溶け込むコツ。

趣味は旅行。少しでも休みがあれば稲敷市から近い成田空港に車を走らせ、海外へ旅行に出かける。

「地域の人の想いをカタチにする、そのお手伝いをするのが地域おこし協力隊」を信念に、稲敷市はこれまで、地域の方とともに稲敷の昔話を紙芝居にするプロジェクトや市の移住定住ポータルサイト「稲しき家族」を制作したほか、築100年以上の古民家を活用し、地域を活気づけようと季節に合わせたイベントを企画する主婦グループらのサポートも担当している。

(次記事:「古民家を活用 ママが輝ける場所に(茨城県稲敷市 地域おこし協力隊)」)