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地球温暖化対策を目的とした課税制度
いまや地球温暖化への対策は、世界各国で取り組まれるべき課題であり、子どもの未来を守るためには必要不可欠です。再生可能エネルギーを導入したり省エネに向けて運動したりと、地球温暖化対策を強化するための取り組みが日々行われています。
平成17年ごろから、日本では環境税の導入が提唱されています。環境税とは、環境問題の解消を目的として、環境にマイナスの影響を与えている物質に課される税金のことです。そのうち、平成24年度(2012年)の税制改正において創設された「地球温暖化対策税」について詳しく取り上げます。
地球温暖化対策税(正式名称:地球温暖化対策のための税)
地球温暖化対策税とは、温室効果ガスを排出する化石燃料(石油や天然ガスなど)に二酸化炭素(CO2)の排出量1トンあたり289円を上乗せして課税するものです。税金は化石燃料を使う企業や、その製品を買う消費者が負担します。
電気やガス、ガソリンへの税負担を減らそうという志向が強まり、電気使用量や自動車の排気ガスが減少することでCO2排出量が削減されることが目指されるものです。
地球温暖化対策税の仕組み
上記のとおり、地球温暖化対策税は製品やサービスの価格にCO2排出量に応じた税率(289円/CO2トン)が上乗せされる課徴金制度ですが、具体的には石油石炭税などの現行税率に上乗せされる形で課税が行われます。日本では2012年から3段階で施行され、2016年に最終税率への引き上げが完了しました。
地球温暖化対策税を導入することで化石燃料の価格が引き上げられると、消費者はより省エネ型の製品を志向するようになり、
- エネルギー価格の上昇により低コストで汚染制御を可能にする技術の開発など、技術革新や生産性の向上につながる
- 地球温暖化対策税による税収が温暖化対策の補助金に充てられ、CO2の削減が進む
- 政策の発表により国民の意識が変わり、省エネに向けた動きが活発化する
といった効果が期待されています。
地球温暖化対策税の問題点
産業界からは地球温暖化対策税のCO2削減効果に対して以下のような疑問の声も挙がっています。
- 地球温暖化対策税を導入すると「価格効果」が見込まれるとされていたが、2012年から2年半の間に起こった原油価格の高騰によるガソリン価格の上昇の際に、日本のガソリン消費量は抑制されなかったガソリン価格の上昇の際に、日本のガソリン消費量は抑制されなかった
- 地球温暖化対策税の税収は地球温暖化対策の補助金に充てられているが、すでに1兆円の予算が使われている今でも効果は検証されていない
- 税の導入で設備投資や研究開発に資金が回らなくなり、国際競争力に大きな影響を与える
日本の温室効果ガス排出量はどのくらい?
日本の二酸化炭素排出量は中国・米国・インド・ロシアに次いで5番目に多くなっています。
日本では東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故をきっかけに各地で原発が停止されたため、石油などを使う火力発電が増えてCO2排出量が増加したと言われていますが、同時に省エネの動きも進んでいます。BP統計によると、地球温暖化対策税が導入された2012年以降の排出量は減少傾向を示しているのです。
しかし、日本はパリ協定に批准し、温室効果ガスの削減目標として「2050年度に2013年度比から80%の温室効果ガスを削減する」という長期目標を掲げています。この長期目標の達成のためにはさらに高いハードルを超えていかなければなりません。
海外でも導入が進められる環境税
欧州では1980年代後半から北欧諸国で環境税の導入が進んでおり、導入された国は京都議定書による温室効果ガスの排出量削減を実現していることから、まだ導入されていない国々でも高い効果が期待できると検討が進められています。
さらに、欧州では税収が必ずしも温暖化対策だけに活用されているわけではなく、ドイツやイギリスなど社会保険料を減額して納税者の負担を軽減している国もあります。
欧州で導入されるさまざまな環境税
フィンランド
1990年に世界で初めて炭素税が導入されました。1997年および2011年にはエネルギー税制改革がなされ、所得税や企業の社会保障費用を減らし、その税収減の一部を炭素税収で補填するようになりました。
スウェーデン
1991年に税を導入し、CO2税の導入や法人税の大幅減税を行う環境税制改革を実施。 結果として、CO2排出量の削減とGDP成長の両立を達成しました。
デンマーク
1992年CO2税が導入されたことで、過去20年と比べてCO2排出量は減少し、実質GDPは増加。風力発電などの再生エネルギー関連技術の輸出が全輸出額に占める割合は11%程度(2015年時点)で、EUの中でも最大を誇っています。
スイス
2008年にCO2税を導入。税収の約3分の1は建築物改装基金や一部技術革新ファンドへ、残りの3分の2は国民・企業へと還流されています。
アイルランド
2010年に炭素税を導入。経済危機からの再建を目指し、炭素税の税収は一般会計に充当。2010年以降の財政健全化に寄与しました。
フランス
2014年に炭素税を導入。炭素税収の多くが競争力確保・雇用促進のための所得税・法人税控除、交通インフラグリーン化のための資金調達、エネルギー移行に資するプロジェクトなどに充当されています。
ポルトガル
2015年に炭素税を導入。所得税の引き下げを実施しました。一部は電気自動車購入費用の還付などにも充当されています。
カナダBC州
2008年に炭素税を導入。法人税等の減税により納税者に還付を行っています。
ドイツ
環境課税により省エネ製品の需要が増加、軽減措置によりコジェネレーションが普及し、社会保険料としての税収の還元額が増加しました。
アメリカ
自治体レベルで炭素税が導入されたコロラド州ボルドーなどがありますが、地球温暖化対策よりも石油産業と雇用を重視するトランプ大統領に対して、大企業において温暖化ガス排出削減を求め炭素税の導入を支持する動きが見られます。
これは、炭素税による税収を米国民に「配当」として還元し、炭素税の「国境調整」を設け、中国のような温暖化ガス排出量が多い国からの輸入品には税を課すというものです。
排出権取引で排出量の削減
温暖化を阻止する対策の一つに「排出権取引」があります。排出権取引は全体の環境汚染物質の排出量を抑制するための仕組みで、地球全体で排出量を管理して排出削減を図ることを目的としています。
あらかじめ国や自治体、企業などの排出主体間で排出する権利を決めて割り振っておき(排出権制度)、許容排出量を超えた国や企業は上限に達しなかった国や企業から余った分を売ってもらうことで超えてしまった排出量を減らしたとみなす、という制度です。
排出権取引の現状
世界銀行によると、2015年の世界の排出量取引市場は約3兆7千億円に達しています。しかし、欧州連合(EU)では域内の排出量取引が積極的に行われているものの、日本は468億円にとどまっており、経済産業省や経団連が排出権取引の導入に対して慎重姿勢を崩していません。
一方で、個別の日本企業では排出量取引を活用する動きが広がっています。これは、パリ協定の発効で企業にも排出量の削減が迫られていることが背景にあります。
自治体では東京都が2010年から導入され、2030年までに温暖化ガスを3割減らす計画を掲げて、排出権取引を後押ししています。
排出権取引の課題
日本はパリ協定に批准し、温室効果ガスの削減目標として「2030年度に2013年度比26%削減」という中間目標と「2050年度に2013年度比80%削減」という長期目標を掲げています。そして、この目標に対して経済産業省と環境省が別々に検討を進めています。
経済産業省は企業の負担増による投資の抑制が国際競争力を阻害することを懸念して炭素税や排出権取引の導入に関して否定的ですが、環境省は賛否両論の立場です。
環境省は、
- 電力の90%以上を再生エネルギーや原子力に置き換える
- 新築建物には省エネ製品を使う
- 自動車も電気自動車や燃料電池車にする
としており、このような転換を促すために「炭素税」や「排出権取引」などの方法を採ることを提言しています。

排出権取引のメリット・デメリット
政府のメリット
許容排出量を企業や工業に割り当てるため、二酸化炭素などの温室効果ガスの削減を計画通りに進められます。
また、途上国は排出権を先進国に売ることで経済を成長させることができ、先進国は排出権を買い取ることで産業や経済の発展を抑える必要がなくなります。
政府のデメリット
排出量取引にともない、企業との目標設定・モニタリング制度の確立・排出量取引所の設立などにコストがかかってしまいます。
産業界のメリット
目標量よりも排出量を削減できれば、余った分を売ることで利益を出すことができます。
産業界のデメリット
排出量購入や二酸化炭素削減プロジェクトの実施などにも費用が発生してしまいます。
地球温暖化対策は喫緊(きっきん)の課題ではありますが、その対策としての温暖化対策税や排出権取引には課題も多く残されており、単独で温暖化を防ぐ効果を上げるには不十分なものです。
各国は温暖化対策の重要性を認識しつつも、地域間では制度の違いもあり、一国だけで行うのでは効果は限定的なものとなります。それぞれの長所を生かしつつ、環境税を核とした政策や対策を組み合わせることで温暖化防止の効果を高めていくことが重要です。