この記事の目次
生物多様性とは
40億年前から続く生命の軌跡
人類は古くから、さまざまな数の生命と地球で共存しています。また、多くの資源や生き物から生きるための「恩恵」を得て生活しています。
さわやかな空気で呼吸するためには植物の光合成が欠かせません。きれいな水や海・森からの恵みがないと生きていけません。そのほかにも、安定した気候や整った土壌・木材・微生物など、全てが「生物多様性」の恩恵です。
もちろん、私たちが生活するためにほかの生命が存在しているわけではありません。そのほとんどの生命に人間との関係性はなく、この世に生を受け、生存し続けています。
その歴史は、地球上に初めて生命が宿ったと言われる40億年も前にさかのぼります。ここから世代を重ねて、子孫へと引き継がれながら進化を続けていました。
生物多様性とは、単純に生物の種類が数多く存在するということだけを意味しているのではなく、今日に至るまでの続く長い歴史と、そのなかで育まれた生き物同士のつながりも指し示しているのです。
今だからこそ取り上げられる生物多様性
40億年もの長い間受け継がれて形成されてきた生物の多様性ですが、言葉自体が使われるようになったのはつい最近のことです。1985年に「生物的な(Biological)」と「多様性(Diversity)」という二つの単語が組み合わされて「生物多様性(Biodiversity)」という単語が生まれました。
以来、数多くの政治家や科学者・環境保全の関係者に使われることなります。その背景には、地球環境の将来への危機感がありました。
20世紀の後半になると、自然が豊かに残されていた発展途上国を中心として世界各地でさまざまな自然破壊が行われ、全世界を巻き込む環境問題へと発展し、多くの生物の減少・絶滅を進行させていったのです。
「生物多様性」という言葉が世界的に使われるようになったのは、この問題を深刻に受け止めさせ、解決に導こうとする人の強い意志が込められていからなのです。
生物多様性について考える
絶滅していると考えられていたカワウソが目撃される
2017年8月、長崎県の対馬で野生のカワウソが撮影されたと琉球大学の研究者が発表したことで注目を集めました。かつては日本でも多数生息していたものの、1979年に高知県で目撃されて以来見た人はいません。
足跡らしき痕跡が発見されることはあってもカワウソ自体の確認に至ることはなく、絶滅したものと思われていました。
絶滅の主な原因として挙げられるのは、カワウソの良質な毛皮を目的に大量に乱獲したためです。急激に個体数を減らしたため1965年に国の天然記念物に指定されたものの、回復することはありませんでした。
また、
- 生息していた川岸がコンクリートで固められてしまった
- 工業廃水や農薬・化学肥料が流入したことで魚が激減し、餌が奪われた
なども原因として考えられています。
対馬で目撃されたカワウソがもともと日本に生息していたものかどうか確かな情報はありません。というのも、中国や韓国に生息しているユーラシアカワウソが海を越えてやってきた可能性もあるためです。
実際、後々の調査でユーラシアカワウソのふんが発見されたこともあり、ニホンカワウソである確率は低いと判断されました。
さまざまな国や地域で行われる生物多様性保全への取り組み生物多様性を身近なものに
現時点ですでに絶滅してしまった生物は、日本国内でもニホンカワウソやニホンオオカミ・ナウマン象など46種類にものぼります(2017年時点)。また、ある地域にのみ生息しているニホンライチョウなどの絶滅危惧種も数多く存在しています。
この地球上にはさまざまな生き物が生息しており、その数は推定3,000万種であるとも言われています。また、それぞれの生き物が独立して生活をしているわけではなく食物連鎖の関係を持っています。しかし、都会に生活している私たちにとって生物多様性はあまり身近に感じられないのかもしれません。
私たちと生物多様性との関係性
生物多様性による恩恵
生物多様性は、私たちが生きていくうえで欠かすことのできないさまざまな恩恵をもたらします。
生命の基盤
光合成によって酸素を作り、森林は水を蓄え、微生物は豊穣な大地を作り出します。
生活の糧
衣服や食物・材木など、衣食住を支えるために必要な資源を提供してくれます。
豊かな文化の根源
各地域における多種多様な生き物は、郷土料理などの地域に根付いた文化の根源となっています。
3つの多様性
生物多様性は、「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」という3つの多様性に分けられます。
生態系の多様性
お互いに関係を持ちつつ生息している生き物とその環境自体のことを「生態系」と呼びます。地球上には、海・山岳・森林・草原・砂漠・平野など、それぞれの環境に適したさまざまな生態系が存在しています。
例えば、日本で絶滅危惧種に指定されているトキが減少した原因には
- 明治時代に狩猟を行っていた
- 田んぼに農薬を散布したことで餌であるドジョウや小魚が減少した
- 餌場になっていた田んぼ自体が減った
- 住処である森林の伐採が進められた
- ひなや卵を食べてしまうカラスなどの天敵が増えた
などが挙げられます。トキが生活できる環境が保全されていなければ野生に戻せません。このように、トキを例に挙げても生態系保全の重要性が分かります。
種の多様性
種の多様性とは、海や山などさまざまな環境において、数多くの種類の生き物が暮らしていることを意味しています。
種は「生物の単位」を表しています。子孫を後世に残せるもの同士が一つの種を形成し、同じ種同士が交わればその姿や生息スタイルは似ることとなります。例えば、秋田犬とシェパードはそれぞれ見た目は違うものの、どちらも同じ「犬」という種であるため子孫を残せます。
しかし、犬と猫・ウサギと亀では子孫を残せないため、別の種となります。
遺伝子の多様性
生き物は、一個体だけで繁殖することはできません。基本的にはオス(雄)とメス(雌)があり、その両性がそろわなければ子孫は残せません。また、全ての生き物は子孫を残す際に子どもに受け継がれていく遺伝子を持っています。この遺伝子が体の構造や働きを決定しているのです。
同じ種同士でも異なる遺伝子が配合されることで身体的・心理的な特徴に差異が生まれ、寒暖による気候の変動や病気への耐性が付き、生存の可能性を大きく広げていくのです。例えば、人間同士でもメラニン色素の量が変われば肌の白い人や黒い人のように違いが生じます。
人間が経済的に成長を遂げた影響で、約3,000万種いると言われる生き物が白亜紀などに比べて数千倍もの速度で絶滅し、さまざまな自然の恩恵を受けることが困難になっています。目先の利益だけを求めて大量に森林を伐採し・海を埋め立て・農薬散布で益虫や微生物を駆除していった結果の一つです。
また、地球温暖化が進行し、平均気温が2度上がるだけで動植物の約20%が絶滅の危機に瀕すると言われています。
私たち自身が生物多様性を守るライフスタイルに変えていかなければ、地球の未来はないのかもしれません。