空き家を活用した「古民家ふるさと」
江戸末期ごろに建てられた稲敷市の古民家「古民家ふるさと」は、主婦グループ「ひだまりのまちプロジェクト」や市の地域おこし協力隊によって親子向けのワークショップやバーベキューを行うイベントスペースとして利用されています。
以前はそば屋として利用されていた古民家ふるさとと主婦グループの出会いは、地域おこし協力隊の岡田菫さんを通じてでした。大家の大島四郎さんは「そば屋の廃業後に空き家となった古民家を地域のために役立ててほしい」と考え、市の地域おこし協力隊に相談。
同隊員の岡田さんの橋渡しで、活動する場所を探していたひだまりのまちプロジェクトと大島さんの想いがつながりました。
新しいつながりで、ママが楽しめる空間を
ー 「古民家ふるさと」をイベントスペースとして使った決め手は何ですか?
本多恭子(以下「本多」) メンバーのみんなが懐かしい雰囲気のある古民家に憧れを持っていたんです。それに、キッチンや広い庭・駐車場も自由に使えるので、私たちがやりたいことを実現できる、まさに思い描いていた場所でした。なので、岡田さんからこの場所を教えてもらった時は二つ返事で「使わせてください」と伝えました。
ー どのようなイベントを開催してきたか教えていただけますか?
本多 最初に開いたのはおにぎりのワークショップです。地元産の有機米をかまどで炊いておにぎりを作りました。そこからは月に一度ほどのペースで、近場で活躍するアーティストを講師に招いたヨガ教室や染め物・手仕事のワークショップを開いています。
バーベキューやクリスマスリース作り、正月飾りのイベントなどもあって、その時の季節を感じることができる催しも多いです。
ー 活動のコンセプトについて聞かせてもらえますか?
本多 私たちは主婦を中心に活動していて、稲敷市のほかにも取手市や龍ケ崎市でもイベントを開いていますが、共通するのは「ママが楽しめる」企画にすることです。
今までは親子で一緒に楽しむことができるイベントが少なかったんです。ですから、大人向けや子ども向けのイベントではなく、できるだけママと子どもが一緒の目線で体験を共有できる空間を作りたいですね。
ー 参加者の反応はどうでしたか?
本多 「思い出になった」「また開いてください」と声をかけてもらえることも多く、イベントを開いて良かったと思います。
そういった声を聞いて、「○○君のママ」という、学校ベースのつながりだけではない共通の価値観でつながれる場所を多くの人が求めているのだと感じました。
ー 今後の目標を教えていただけますか?
本多 このペースで活動を長く続けていくことです。
無理はしない。メンバーはみな仕事をしていたり主婦だったりするので、あれもこれもと活動を広げすぎないことは意識しています。まずは自分たちが楽しむことを忘れないようにしたいと思います。
私でもできる、ママでもできる
稲敷市江戸崎に住む主婦の中村志津さんは、同協力隊の岡田さんの紹介で「古民家ふるさと」で開かれる「ひだまりのまちプロジェクト」のイベントをサポートしています。それまで稲敷にはなかった新しい形式のイベントに、中村さんは感銘を受けたと言います。
「私たちでも、ひだまりさんみたいなイベントをできるかもしれない」
中村さんは地元の主婦らと「mama works」を立ち上げ、商店街を拠点にイベントを開くようになりました。
ー 「ひだまりのまちプロジェクト」に関わって変化はありましたか?
中村志津(以下「中村」) 「ママでもこんなにすごいことができるんだ」と感動しました。それまでは「主婦をするだけでも大変なのに、ママがこんなにも人に喜んでもらえるイベントをできるわけがない」と思っていたんです。
でも、古民家ふるさとでひだまりさんのイベントをお手伝いさせていただくうちに、地元の自分たちにもできるかもしれないと思うようになりました。
今では、ひだまりさんから学んだイベントのノウハウや人との関係づくりを生かして、「mama works」として稲敷市の江戸崎でイベントを開くようになりました。
ー 反応はいかがでしたか?
中村 嬉しいことにとても喜んでもらえました。「楽しかった」と言ってくれる人がとても多く自信が付きました。これからやりたいこともたくさんあり、また開きたいという気持ちがどんどんと湧き上がっています。
イベント当日に商工会の婦人部の方が心配して見に来てくださったことも嬉しかったです。
ー いざ自分たちだけでやるのは大変ではなかったですか?
中村 はい。まず「怖さ」がありました。主婦が本業のはずなのに、「中村さんのお嫁さんが変なことをしている」と噂が立ったらどうしようと考えることもありました。
ただ、私だけではなくほかのメンバーもいますし、協力隊の岡田さんが協力してくれたことも心強く、「怖い」という気持ちを持ちながらも最後までやり通せました。
最初は商店街の方にイベントのことを話すと「やろうとしていることがよく分からない」と言われることもありました。それでも、イベントの回数を重ねていくうちに「一度だけではなくて二度、三度と続けていってね」と声をかけてもらえるようになりました。
中村 以前は、ひだまりさんのようなイベントが稲敷の外に行かないとなかったんです。そのため、私の周りでも「稲敷市にもあったら良いのに」「誰かやってくれないかなぁ」という声を多く聞いていました。
そこで数年前に、私が「江戸崎でこんなことがしてみたい」と岡田さんに話したことがありました。その一年後に岡田さんがひだまりさんを紹介してくれて、自分の世界がとても広がったんです。
今では私たちでもイベントを開いていけるようになったので、「あったら良いな」が少しずつ「ある」に変わっていくのがとても楽しいですね。
地域の人の想いをカタチに 人をつなげることで刺激が生まれる
ー 古民家をはじめ、さまざまなプロジェクトで「つなぎ役」をしていますが、人をうまくつなげるコツはありますか?
岡田菫(以下「岡田」) シンプルですが、人に興味を持つことが大切だと思います。そして、相談してきた方の立場になって真剣に考えることです。そうすると新しい気づきがあるんです。
相談してもらった内容をずっと覚えておくことも大事ですね。中村志津さんから相談をもらった時も、すぐに良いお返事はできなかったんです。でもその一年後に「古民家ふるさと」とひだまりさんの話があって、「中村さんも誘わなきゃ」と思い出したんです。
これも、人に興味を持っていたからこそできたのだと思います。
ー 今回のように人がつながって生まれる化学反応は非常に面白いですね。これは地域に対して影響を与えていますか?
岡田 人から人へと刺激が広がっていくと思います。「ここに住んでいるからできない」ではなくて、「稲敷にいてもこんなに面白い人とつながることができる」という気づきが生まれると嬉しいです。
今回の例で言うと、イベントに訪れるお母さん方が本当に楽しそうなんです。そのママさんが「普段はコミュニティーが限られている」と話しているのが印象的でした。
それから、「○○さんのママ」という存在だけではなくて、ママも楽しめる居場所が必要なのだとと思うようになりました。
お母さんが元気だと家庭の仲がうまくいくと思うので、地域のママさんがずっと元気でいられると良いですね。
岡田 もう一つは郷土愛ですね。古民家で開かれるイベントやワークショップは、染め物や昔ながらの料理など昔懐かしいものを扱うことが多いんです。
今の子どもは、昔の遊びをしたり地域でおばあちゃんが作るような料理を食べることが少なくなってきていると思っています。
もちろん近代化で生活が便利になっていくことは否定しないのですが、昔から地域に残る「味」や「感覚」も次世代につないでいきたいですね。それが郷土愛につながっていくと考えています。
【プロフィール】
岡田 菫(おかだ すみれ)
稲敷市 地域おこし協力隊
大学卒業後、島根県美郷町の地域おこし協力隊として活動。2015年5月からは出身地である茨城県土浦市に近い稲敷市で地域おこし協力隊に着任し、キャリアを再スタートさせた。
商店街を歩けば「菫ちゃーん」と多くの住民が手を振りながら声をかけてくれる。「あの人なら何かやってくれそう」ではなく、「あの人となら一緒に何かできるかもしれない」と思ってもらえるよう、自分を飾らずオープンに住民と接することが地域に溶け込むコツ。
趣味は旅行。少しでも休みがあれば稲敷市から近い成田空港に車を走らせ、海外へ旅行に出かける。
「地域の人の想いをカタチにする、そのお手伝いをするのが地域おこし協力隊」を信念に、稲敷市ではこれまで、地域の方とともに稲敷の昔話を紙芝居にするプロジェクトや市の移住定住ポータルサイト「稲しき家族」を制作したほか、築100年以上の古民家を活用し、地域を活気づけようと季節にあわせたイベントを企画する主婦グループらのサポートも担当している。