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食料自給率の低下
食料自給率の計算方法
食料自給率は国内の食料消費が国内の農業生産でどの程度まかなえているかを示す指標で、
食料自給率=国内生産÷(国内生産+輸入-輸出±在庫の増減)
で表されます。
国内の食料生産が消費に追いつかず不足分を輸入した場合に食料自給率は低下しますが、近年では食料が十分にあるにもかかわらず輸入量を拡大し、食料廃棄物が増加することによる影響が大きくなっています。
カロリーベースと生産額ベース
品目別自給率は重量をもとに単純な計算で求められますが、食料全体の自給率である総合食料自給率を表す場合は、異なる食材を共通のものさしで計る必要があります。
その基準として供給熱量(「日本食品標準成分表2020」による可食部100gあたりのエネルギー量から算出)と金額があり、供給熱量で表したものを「カロリーベース」、金額で表したものを「生産額ベース」と呼んでいます。
なお、2021年度の総合食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで63%となっています。二つの指標の数値に大きな差があるのは国産食材と輸入食材の価格差によるもので、この価格差が食料自給率を下げる原因にもなっています。
食料自給率の推移
日本の食料自給率は終戦直後の1946年度には88%ありましたが、1975年には54%(生産額ベース:83%)まで低下し、1985年(カロリーベース:53%、生産額ベース:82%)から1995年(カロリーベース:43%、生産額ベース:74%)の間に約10%の急落となりました。
その後も緩やかな低下傾向にあり、先述のとおり2021年度にはカロリーベースで38%、生産額ベースでは63%になっています。
食料自給率の低下の要因
食料自給率が低下しているのは、輸送手段の発達により鮮度の良い外国産の食材が手に入るようになったり、外食産業の発展によって加工食品を含む輸入食材が好まれる傾向が大きくなったことも影響しています。
また、ほぼ100%が自給可能な米中心の食生活から肉・乳製品指向へと食文化が変化しており、自給率の低い高脂肪・高カロリー食材の需要が伸びた結果、これらの食材の輸入量が増え、カロリーベースでの食料自給率の低下につながっている面もあります。
食料自給率低下の問題点と課題
異常気象などで輸入量が制限される場合も
外国でも農産物は国内消費向けの生産を優先させているため、異常気象などで不作になった場合は輸出量を制限します。そのため、食料を輸入に頼っていると、輸出国の都合により輸入国で消費可能な量が制限されることがあります。
世界各国で起きているさまざまな異常気象また、これは自然条件によるものだけではなく、輸出国が価格上昇を目的として輸出量を変動させることによっても起こり得ます。
そのため、日本では「緊急事態食料安全保障指針」というマニュアルが策定されており、
- 自然災害や家畜の伝染病などの自然的要因
- 食料サプライチェーンの寸断などの社会的要因
- エネルギー供給価格や為替変動などの経済的要因
- 他国との競合や輸出国の政情などの政治的要因
による国内食料供給量の変動に備えています。
耕作放棄地の増加
食料自給率の低下で懸念されるのが耕作放棄地の増加です。国内農産物の需要の変化や農業従事者の高齢化によって耕作放棄地が増えると、その土地の生産能力を従来の水準に戻すには時間を要するという問題点があります。
特に石段を積み上げる棚田はその傾向が顕著で、最低限の維持が行われていない棚田が生まれています。「棚田オーナー制度」という対策も進んでいますが、必ずしも十分な管理人員の確保や安定的な作物の供給ができているとは言い切れないという課題もあります。
棚田オーナー制度のデメリットとメリット
国内備蓄を増やす対策には根本的な問題が存在
海外からの食料輸入量が急変した場合には、国民の生存を維持できなくなる危険があります。もちろん、食料自給率の計算には食べ残しや消費期限切れにより廃棄される食料も含まれているため、すぐに危機的な状況になるわけではありませんが、食生活の変化は必要とされます。
例えば、自給率の高い米を中心とした食生活に戻し、食料以外の栽培は減少させ、飼料の多くを輸入に頼っている畜産・酪農を縮小させるという方針が採られる可能性もあります。
そして、食料自給率が低いままでは、輸入量不足を想定して国内備蓄を用意しなければなりません。しかし、国内備蓄を高めることのみに注力してしまうと国内の食料生産に異常があった場合に対応できなくなるため、1993年に起こった米不足の際に緊急輸入を行った教訓をもとに、国内外からの食料供給バランスを取ることが必要とされています。
食料自給率を上げるための企業の取り組み
企業や消費者が一体になる「フード・アクション・ニッポン」
農林水産省は、和食への回帰による自給率の向上を目指しているだけではありません。
自給率の高い米の消費量は年々減っており、それにつれて備蓄に回される余剰米が増えていることが知られています。そこに着目し、余剰米の生産を止め、空いた水田を輸入量の多い小麦や大豆などの国内生産に転用するための規制緩和が推進されているのです。
また、米粉用の米を生産してパンなどに使用するための技術開発を行うことで輸入小麦の使用量を抑える取り組みも行われています。さらに、消費の面からは「フード・アクション・ニッポン」という企業・団体・行政・消費者が一体となった取り組みを行うことにより国産農林水産物の消費を進めています。
トマト収穫機で高齢化する生産者をサポート
具体的な企業の取り組みとして、カゴメが農業機械メーカーとの共同開発を行ったトマト収穫機の事例があります。
トマトは数十年にわたって携わっている農業従事者が多いため、その多くは高齢化が進んでいます。さらにトマトは真夏に収穫時期を迎えるため体力的に収穫の負荷が高く、後継者がいないことも相まって離農するケースも発生しています。
そこでカゴメがトマトの収穫機を開発することで、手作業に比べて約3倍もの効率化が図れるようになりました。この機械は、運送業者に運転作業を委託することで稼働が図られ、取り組みの拡大が進んでいます。
食料の海外依存度が高く深刻な状態とされている食料自給率ですが、食料自給力の向上や食料生産と食生活の乖離の是正、流通の強化といった改善の成果もあり、2000年以降はその数値を約40%で安定させることに成功しています。
しかし、この先にある食料自給率の向上を目指すためには、就業者を増やして食料自給力を高めることが求められています。このような問題は日本で稲作文化が発生して以来続いているものなので、歴史に学び、解決へと導くことも可能でしょう。