ベーシックインカムとは?日本での導入は行われるか

ベーシックインカムとは?日本での導入は行われるか

2017年に行われた衆議院議員選挙で、ある政党がベーシックインカムを公約として打ち出しました。いま、世界中でこの制度を巡って議論が行われています。本記事では、ベーシックインカムがどのような政策なのか、メリットと問題点は何なのかを考えていきます。

ベーシックインカムとは

ベーシックインカムとは

「無条件に誰でも」が特徴のベーシックインカム

「ベーシックインカム」は英語で「Basic Income」と表記され、日本語では「最低所得保障」と訳されます。これは「働いているかどうかに関係なく国民に無条件で一定の所得を支給する」という制度です。

日本で現在実施されている社会保障制度は、何か特定の状況におちいった場合にのみ給付されるものしかありません。労働が可能な健常者は基本的には給付の対象にはならないのです。

例えば、

  • 65歳以上(申請によっては60歳以上)で受け取れる「年金」
  • 失業した際に発生する「失業保険」
  • 障害などによって生活が困難な人に対して支給される「生活保護」
  • 病気になった際に医療費の一部を負担してくれる「健康保険」

などがあります。

ベーシックインカムがこれらの既存の制度と決定的に違うのは「無条件に誰でも」という点にあります。生活保護や児童手当の給付を受けるためには収入や家族構成などの条件があり、審査を受けて認定されなければなりません。

ベーシックインカムにはそのような条件がなく、収入があろうがなかろうが、子どもなどの扶養家族がいようがいまいが、とにかく無条件で一律に支給されるという制度なのです。

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ベーシックインカムが注目されている背景

ベーシックインカムが注目されている背景には、仕事を取り巻く環境の激変があります。

2013年、オックスフォード大学が発表した一つの論文が世界に衝撃を与えました。その内容は、米国の702の職業について、機械に取って代わられるかどうかの確率を試算したものでした。この論文によると、今後10年〜20年以内に半数近い約47%の職業が機械に取って代わられる可能性が高いとされたのです。

近年、団塊の世代の大量退職によって、さまざまな産業で人手不足が深刻化しています。これと歩調を合わせるように、AI(人工知能)とそれを応用したロボットなどの技術はめざましい進歩を遂げています。

例えば、ホテルの受付業務や飲食店での調理や配膳、さらには病気の診断といったこれまでは高度な知識や技術が必要とされてきた分野にまで、機械化の波が押し寄せています。

人間の仕事が機械に取って代わられれば、その仕事をしていた人は職を失うことになります。近い将来にそのような時代が到来する可能性が高いなか、国民の最低限の生活を保障する制度としてのベーシックインカムが注目されている面があるのです。

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ベーシックインカムのメリット

ベーシックインカムのメリット

貧困から脱出できる

最低限度とはいえ、生きていくのに必要なお金が入ってくるというのは、お金がなくて飢えるという恐怖からの解放を意味します。

また、一度貧困に陥ってしまうと、長時間働いてもそこから抜け出すのは容易ではありません。ベーシックインカムがあることによって貧困から抜け出せる可能性が高まり、より自由に生きられる希望がもたらされます。

恥辱感の払拭

生活保護を受けている人のなかには、生活保護を受給していることに関して劣等感や恥辱感を感じている人も多いと言われます。働く意欲はあるのに保護を受けていることに対して、負い目を感じてしまうのです。

ベーシックインカムは条件に関係なく一律の支給であるため、そのような負い目や恥辱感も払拭できます。

クリエイティブな活動ができる

食べていくためだけに今の仕事を続けているという人も多いのではないでしょうか。

ベーシックインカムは、そのような「ライスワーク(食べるための仕事)」による収入に置き換わるので、自分が心からやりたいと思っている仕事や活動(ライフワーク)に力を注ぐことができます。

起業をしたり、創作活動をしたり、あるいは社会貢献などの活動を行う人が増えていくことが期待されます。

少子化対策

子どもが2人・3人と欲しい人でも、経済的な不安から諦めてしまうこともよくあります。経済環境がある程度しっかりしていれば何とかなる可能性もありますが、そうも行かないケースも多くあるでしょう。

世帯収入を増やすために共働きを選択すれば金銭面では楽になるかも知れませんが、今度は保育所の問題が生じてしまいます。待機児童の問題などから認可保育園には入園できず無認可保育園に預けるとなった場合には、保育料の負担は大きくなるばかりです。

ベーシックインカムが導入されれば子どもに対しても一定額が支給されるため、その分を保育料に回すことも、貯金に回しながら自宅で子どもを保育することも選択できるようになり、子育ての選択肢は大いに広がります。

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行政の負担が減る

これは行政側のメリットです。生活保護や児童手当の給付には申請者の収入や家族構成などを審査する必要があり、そのためのコストが掛かります。

無条件での一律給付となれば審査にかかる人手が必要なくなり、行政の負担軽減につながります。

 

ベーシックインカムの問題点

ベーシックインカムの問題点

バラ色に見えるベーシックインカムですが、当然ながら問題点もあります。

財源をどうするのか

仮に日本の国民一人に対して月15万円を支給したとすると、そのために必要な財源は200兆円を越えるほどになります。しかし、財源はどこから確保するのか。これが一番の問題です。

「ベーシックインカムを導入すると社会保障給付が不要になるのでは?」という意見もあります。ただ、2016年度の社会保障給付費は総額118.3兆円のため、これだけでは足りません。

社会保障給付費を基準に考えると国民一人あたり月8万円の支給となりますが、これで最低限の生活を保障するのは難しいでしょう。

つまり、ベーシックインカムだけで生活が可能になるレベルを保障するためには、税制の工夫など何かしらの仕組み・制度を大きく変えていかなければなりません。

税制の工夫によって財源を確保する例としては、所得に応じて税率が上がる累進課税(所得税や相続税など)の税率を最大45%から45%での固定に変更するなどが考えられます。低所得層に厳しくなりそうなイメージはありますが、増税分よりもベーシックインカムで支給される金額の方が上回るため、影響は少ないと見られています。

働く意欲の低減につながらないか

ベーシックインカムへの反対意見として多いのが、「何もしなくてもお金がもらえるのなら、働く意欲を失うのではないか」というものです。

しかしこれは、どのくらいの給付があるかによって変わってきます。

スウェーデンでは月7万円を支給するという実験が行われましたが、この金額は生活費としては最低限であり、より豊かさを実感するためにほかの仕事をして収入を得ようと考えて実行した人が多いという結果になりました。

一方、2016年にスイスで行われたベーシックインカムの是非を問う国民投票では、月28万円という提案が多くの反対によって否決されました。

28万円という金額では多くの人が働かなくなる、というのが反対の大きな理由でした。

人手不足に拍車がかかる?

ベーシックインカムで収入が保障されると、職種によっては人手不足がいっそう進み、深刻化する懸念もあります。

例えば、介護業界は体力的・精神的にも過酷なうえに給与水準が低く、人手が集まりにくい業種となっています。ベーシックインカムが導入されれば、このような業種はますます敬遠されてしまう可能性があります。

人を集めるために給与水準を上げるという方法も考えられますが、それによって利用料金が高くなれば、サービスを受けたくても受けられない人が多く出てくるという悪循環に陥りかねません。

AIやロボットに置き換えにくい人手を必要とする職業は、このような問題に直面する可能性が高いと考えられます。

 

日本はベーシックインカムを導入するのか

日本はベーシックインカムを導入するのか

日本の動向

2017に行われた衆議院議員選挙は、ある政党がベーシックインカムを公約として打ち出したことで注目を集めました。

現実的には、問題点でも挙げたように財源の確保は簡単には行えないことから、実際に導入されるまでには時間が掛かるものと考えられます。

しかし、仕事を取り巻く環境は急激に変化していることから、社会保障はどうあるべきかという議論のなかでベーシックインカムについてもますます注目が高まっていくことでしょう。

海外の事例

2017年11月時点で正式に採用をしている国はありません。

しかし、社会実験を通じて問題の克服に向けた試みが複数の国で行われています。その状況を見てみましょう。

フィンランド

失業者2,000人に対して2年間の期間限定で月7万円を支給するという社会実験が、2017年1月にスタートしました。

開始から半年時点での影響として、支給を受けた多くの人が働くことでベーシックインカムとは別の収入源を確保し、貧困から脱する手応えを得ているということが報じられています。

失業者の多くは、これまでは失業手当の給付を受けていました。仕事を見つけて働き始めると失業手当はもらえなくなるなど、社会保障面でのデメリットがありました。

ベーシックインカムにはそのような制限がないため、安心して職探しをして、意欲的に働けるケースが見られています。

スイス

ヨーロッパの永世中立国スイスでは、2016年6月に制度導入の是非を問う国民投票が実施されました。

内容は、大人には月約28万円、子どもには月約7万円を支給するというもの。

しかし、支給される額が高く、働く意欲が低下するのではないかとの慎重派が多数を占めたことから、反対多数で否決されました。

しかし、投票者の23.1%は賛成票を投じたことから、世界的な議論の行方に一石を投じるものとして注目されました。

ケニア

アフリカのケニアでは、2016年10月から非営利組織によるベーシックインカムの実験が行われています。

この実験は、ケニアの農村に住む95人に対して月22ドルが12年間支給されるというものです。支給を受けている人の多くは、プログラム開始前は一日当たり0.75ドル以下の収入で暮らしていました。

このプログラムを受けることで、新しい漁の道具や家畜を買うなど、より積極的に仕事に取り組む人が増えたと報告されています。

実験を行っている非営利組織は、支給方法を変えたり、支給しない村との比較を行ったりするなどのベーシックインカムに関するデータの収集に取り組んでおり、その結果が注目されます。

アメリカ

カリフォルニア州のストックトンは、2018年8月までに全米初の市レベルでの社会実験を行うことを発表しています。

実験は、市民31万5千人のうちの一部を対象に月500ドルまたは年間6,000ドルを最大3年間支給するというもの。

ストックトンは2012年にアメリカで初めて破産法の適用を受け、再建中の自治体です。ストックトンの世帯の平均年収はカリフォルニア州の平均の約72%程度にとどまっているほか、失業率も全米の倍近くの水準となっており、経済的苦境のなかにあります。

実験を主導するマイケル・タブス市長は27歳と若く、この意欲的な取り組みは注目を集めています。

 

働いても働かなくても生活に最低限必要な収入が保障されるベーシックインカム。この制度が実際に導入されると、働くことに対する人の意識も大きく変化し、生き方そのものが根底から変わる可能性すらあります。

仕事環境が激変するなかで、この制度が今後どのようになっていくか、今を生きる全ての人びとにとって注目に値するテーマであることは間違いありません。