RPAの導入
RPAの導入が進む背景
労働人口の代替
日本では、労働力である15歳以上65歳未満の生産年齢人口が1990年代をピークに減少し続けています。その速度は、外国人労働者の増加数を上回るほど急速です。
そのため、不足する労働力の代替として、圧倒的に高速の処理速度による生産性向上を目指せるRPAの導入が注目されています。しかし、人間にしかできないと思われていた職場にRPAの導入を進めると、人間の職場が奪われるとの憶測もあります。
働き方改革の推進
「働き方改革」は、「働き方改革実行計画」によって以下の3点の目標が掲げられています。
- 正規と非正規の不合理な処遇の差を埋め、労働者のモチベーションを誘引することで労働生産性を向上させる
- 長時間労働が常識化している状況を変え、ワーク・ライフ・バランスを改善することで労働参加率を向上させる
- 単線型のキャリアパスを変え、転職に寛容な労働市場や企業慣行を確立することで労働の付加価値を向上させる
労働時間の短縮が目的ではなく、労働力増強と生産性向上が本来の目的となっています。
働き方改革によって時間外労働が制限されるため、時間外手当を給与の一部として見込んで生活をしていた従業員にとっては大きな痛手となる場合があります。
そのため、経営者は労働時間あたりの報酬を増やして労働者をつなぎ止める必要があります。しかし、労働生産性が向上しなければ報酬を上げることができず、報酬が上がらなければ労働者のモチベーションは上がらないため労働生産性の向上にも期待できない、という矛盾に陥ってしまいます。
RPAの導入によって「労働生産性を向上させて報酬を上げる」という循環を生み出すことができれば、働き方改革も成功へと向かう可能性があるのです。
RPA導入のメリットとデメリット
RPAのメリット
RPAの導入にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
人間以上の労働能力
人間にはないRPAの特徴として、
- 辞職をすることがなく24時間365日働き続けられる
- ルール化された業務であれば圧倒的なスピードで処理できるため、複数人で行っていた業務を一台で処理することができる
- 正しいルールさえ教えることができれば間違うことがない
があります。上記はルールとフローが決まっていて、それを正しく教えることができればという条件付きです。
人間はRPAとの共存環境において、労働時間の短縮や割り込み作業の削減による労働生産性の向上を達成することができます。そして、コスト面の問題で人海戦術に頼っていたルーチンワークの削減を行える可能性もあります。
生産性の向上
RPAを導入することで2人~5人分の仕事をこなせるため、大量の事務作業を相当な速度で処理できるようになります。また、エラーが起こる可能性を限りなく0に近づけてくれる正確性も魅力の一つです。
コスト削減効果
RPAの導入コストと運用コストは簡単に手を出せる安価なものではないものの、作業スピードや正確性・連続稼働時間の長さといったさまざまな強みを生かすことで、人件費の削減と高いパフォーマンスの両立が可能となります。
人間とRPAとの間で作業スピードに著しく差が出る業務・ヒューマンエラーが目立つ業務をしっかりと見極めてRPAの導入を行うことで、コスト削減の効果を最大限に受けられるようになるでしょう。
顧客とのトラブル防止
RPAを導入することによって作業品質が向上すると、顧客とのトラブル防止につながります。さらに、ユーザーから問い合わせがあった際にも、内容を正確に分析して質問の意図を正しく把握したうえで適切な回答を瞬時に導き出します。
RPAの安定した処理能力と高度なAI技術は、顧客の満足度の向上にも大きく貢献するでしょう。
リスク管理
RPAが業務を管理することで、ヒューマンエラーによる機密情報・個人情報の漏えいを未然に防ぐことができます。また、一従業員の独断と偏見で引き起こすコンプライアンス違反の心配もありません。
新たな経営戦略の構築
これまで担当していた業務をRPAが受け持つことにより、さまざまな業務を受け入れることができるようになります。例えば、イノベーションの創出・価格競争で勝つための戦略策定など、これまで以上に積極的な経営戦略を構築できるようになるでしょう。
RPAのデメリット
しかし、RPAの導入が良いことばかりではないのも事実です。
システム変更による誤作動のリスク
RPAはロボットソフトウェアであるため、与えられた指示を休むことなく実行できる反面、既存システムを変更した場合に、今まで正しく行われていたものが間違った動作となってしまう恐れがあります。
また、外部によるクラウドサービスを使用している場合にも、バージョンアップにともなってフィールドの配置や順番が入れ替わってしまうことも十分にあり得ます。エラーが表示されれば良いのですが、関数の値が一致している場合にはエラーとならずに実行を続けてしまうこともあるのです。
業務停止のリスク
RPAをインストールしているサーバーに障害が発生し処理が停止してしまった場合や、修正モジュールの適用によってパソコンが自動で再起動してしまった場合に、システム障害を起こして業務を停止させてしまう恐れがあります。
システム障害を検出できる仕組みを用意してないと、気付かないうちに業務が停止してしまうことも考えられます。
業務内容のブラックボックス化
新入社員が入社した際、「このRPAを実行するだけで良いよ」という指示を出してしまうと、業務の内容を正確に理解できない人が増える恐れがあります。もともとは重要な意味を持っていたプロセスが実行ボタンを押すだけの単純作業に変わってしまうのです。
何らかの確認・変更が必要となった際に、業務内容を誰も理解していないため変更ができない、という状況は会社としても大きな問題となるでしょう。
誤処理でも実行し続けてしまう可能性
単純作業の中にも、これまでは担当者が条件によって無意識のうちに処理を変えていたような場合には、その点も含めてRPAに組み込まなければなりません。1%以下の非常にレアなケースであってもそれは同様です。
もし設定漏れによって業務内容に軽微なミスが発生してしまっても、システム上エラーが起こらなければRPA自体がそれに気付かずに実行し続けてしまう恐れがあるのです。
不正アクセス
RPAでは各システムやアプリケーションのログインを自動で行えるようIDとパスワードを埋め込んでいます。そのため、本来権限を持たないユーザーでもアプリケーションの実行が行えてしまう場合があります。
自動化にともない消える職業
RPAの導入は農業の機械化に似ています。農機具の機械化により農業従事者の割合は減りましたが、就労人口自体は減らず人手不足が深刻化しているように、RPAの導入により人間の職業がなくなることはないと見られています。しかし、人数が減る職業は確実に存在します。
なくなる職業
RPAは全ての知的労働に適用できますが、コスト面で実現可能なのは、事務・管理、販売管理、経理処理(発注書や伝票の処理)です。
しかし、これらの職業もRPAのメンテナンスのためにはその職業に詳しい人間が必要となるため、人数は減るものの全くなくなることはありません。特に「おもてなし」のような柔軟な現場対応が必要とされる日本では浸透しにくい面もあります。
なくならない職業
人とのコミュニケーションを必要とする職業ではRPAは人間の補助として導入されます。したがって、このような職業はなくなりません。しかし、RPAの処理速度に追い立てられる形で業務をこなしていくという状況は、人間にとって厳しいものとなります。
自動化に向けて
RPAの導入が進むと、人間にとって分かりにくい形での情報伝達が行われることになります。そして、その情報を収集して正しい判断を教えていく職業が必要となります。RPAの導入対象業務に精通し、RPAのことも分かっている職業です。
RPAは与えられる情報によって結果が変化するため、入力には専門の人材が必要になります。見た目は自動化されていてもRPAを支えていくには多くの人間の関与が必要になるからです。
RPAが事業判断まで行うようになると、「人間が考えている目標とRPAの判断が一致するか否か」という問題が起こりそうですが、その社会の実現にはまだ時間がかかりそうです。
もちろん、自動化の前には職場改革による不要業務の削減を行い、そのうえでRPAの導入を進めることが望ましい順序でしょう。自動化は人間の業務を軽減するものであり、人間に取って代わるものではないということを忘れてはいけません。