この記事の目次
フードバンクの意義
【前記事:フードバンクと行政の関わり方】
日本では、およそ6人に1人が一般的な経済水準の半分程度(貧困線)に満たない環境で暮らしています。この人びとが明日の食事に困る状況になったとき、どうすれば良いのでしょう。逆に、これらの困窮者に満足な食事を提供できれば社会にとってどれだけのプラスになることでしょう。
その一方で、不要になってしまう食品も多く存在します。
食品の廃棄をなくすことは容易ではありません。配送の過程で包装に傷が付く、正確に予測して仕入れたつもりが急な天候の変化で空振りに終わる、商品のラベルを貼った後にそのラベルに不備が見つかった、など、商品の流通においては必ずと言ってよいほどロスが発生します。
このような双方の事情があるなかで、貧困問題の解決を一つの目的として、メーカーや輸入業者などと提携して余剰食料を寄付するフードバンク。その寄付先は福祉施設や女性向けのシェルター、さらにはコミュニティーセンターや炊き出しまで多岐に渡ります。
フードセーフティーネットとフードライフライン
「安全に外に出られる」「飲める水がある」。私たちが不自由なく日常を過ごせているのは、日本においてインフラが有効に機能しているから。これは、警察や消防署といった公共施設に十分な専門知識を持つ職員や設備が整っているからこそ実現できることです。
社会福祉や公的扶助は、老齢や失業、さらには病気等のリスクに事前(かつ互助的に)に備えるものとして生まれたもので、世界中でほぼ共通して受け入れられています。
フードセーフティーネット
それは、食べ物についても同様です。毎日を健康に生きられるだけの満足な食事が得られることもインフラの一つとして当然に提供されるべきでしょう。
事実、アメリカなど一部の国においては交番と同じほどのフードバンクの拠点があり、困窮者にとってのセーフティーネットとなっています。
十分な水準の栄養を含む安全な食事をいつでも適切な方法で得られる仕組み、これが「フードセーフティー(フードセキュリティー)ネット」です。
「明日から食べるものがなくなってしまうかもしれない」。このような状況になったとき、力強い支えとなるのがフードセーフティーネットです。そして、フードバンクはフードセーフティーネットを確立させるための活動の一部を指します。
考えられる活動としては
- フードバンク
- 配食サービス
- 低所得者に向けた食費の補助
などのさまざまな方法が考えられ、この仕組みの構築が求められています。
フードセーフティーネットの構築に向けて
フードセーフティーネットの構築のためには、一般的な事業開発と同じく綿密な計画と調整が必要となります。
分析
フードセキュリティーが確保されていない世代をはじめとして、多くの視点から情報を分析する。
地域特性の理解
その地域に住むキーパーソンとの対話を通じて地域の住民や地理的特性を理解する。
行政や関連機関との連携
行政や社会福祉協議会、警察や農協などと議論を行い、安全かつ継続的な取り組みの実施に向けた関係を構築する。
実施・改善
取り組みを行い、そのなかで改善すべき点が発見された場合は適切な改善を行っていく。
フードライフライン
フードバンクは、食品の寄付をうけて適切な場所に送り届ける、という一つの大きな流通システムと捉えることができます。この間の効率的な食品の流通を確立するためには、各関連機関の密接な連携が必要となります。
例えば、フードバンク団体の活動が比較的弱い地域に関しては社会福祉協議会に協力を要請して窓口機能を担ってもらうといった形が考えられます。
電気・水道・ガスといったライフラインと同様に、食品を広範囲に行き届かせるための根幹の仕組みが「フードライフライン」と呼ばれるものです。
食品メーカーが保有する自社の配送網を利用したり、物流業者の協力を要請したり、あるいは近年ではネットで需給をマッチングさせる取り組みも行われており、利便性が高まっています。
どうしたら寄付をうけられるか
個人が食品の寄付をうけようとする場合は、まずは居住地域にある対象窓口に相談することから始まります。行政やNPO、社会福祉協議会など多くがありますが、それぞれ支援対象が異なるため、事前の確認を行った方が良いでしょう。
また、食品の提供をうけられるか口頭や書面での調査が行われることもあります。
学校での取り組み
学校がフードバンクを利用する事例も生まれています。福岡市の一部の小中学校では、生徒に朝食を摂る習慣を身に付けさせるため、フードバンク団体や地元の生協からバナナやパン、牛乳の寄贈をうけ、始業前に生徒に提供する取り組みが行われています。
他県でも同様の事例が生まれており、子どもの成長を促すだけでなく、地域のコミュニティーを形成する効果も期待されています。
郵便局員による子どもへの配達
学校に通っている子どもにとって朝食とともに大きな問題となっているのが、長期休暇中の食事習慣です。
日本と同じくこの問題が深刻になっているアメリカにおいては、6月の夏休みを控えた5月に郵便局員が配達を行いながら各家庭から提供される食品を回収し、必要性のある子どもに寄付しています。
フードバンクを取り巻く課題
慢性的な活動費の不足
「食品を無償で支援する」という性質上、多くのフードバンク団体は少ない運営費で業務を行っています。
活動費の多くは支援金や一部の補助金・助成金でまかなわれ、そこから事務所の家賃や通信費、さらには配送費が捻出され、場合によってはスタッフの持ち出しで行われることもあります。なかには倉庫を持たず、年間で数十万円規模の予算で業務を行っている団体も存在するほど。
運営スタッフは無給であることが多く、ここにボランティアも加わります。特定の曜日だけスポットで参加する人の割合も多く、継続的な運営のハードルが高くなっています。
このままの仕組みで継続的な運営は可能か
ほとんどの団体の年間予算は1000万円にも満たず、次年度以降の事業計画を立てることに苦労しているケースも多く見られます。
フードバンクには「無償」での食材の提供という理念があるため、予算はその多くを助成金に頼ってきた現状があります。しかし、これからも増え続けると予想されている需要を変動の多い寄付によってまかなうことはリスクをともないます。
支援の範囲も、従来のようにただ食材を届けるだけでなく、弁当を作っての提供や大規模な炊き出しなど、これまで以上に多くの人手が必要なものになっています。
しかし、フードバンク団体が受益者に対して受け取る食品の量に応じた任意の「運営協力金」の提供を求めたことに対する反感の声も上がっているなど、東日本大震災を一つの契機とする社会的な認知度の高まりとは裏腹に、日本におけるフードバンク活動のハードルは依然、高いままとなっています。
米の支援量の不足
食品の提供依頼のなかで多くを占める米、しかし、この提供量が足りない現状があります。
というのも、一般の流通過程で米はほどんど余らないことに加え、家庭からの精白米の提供は衛生上の都合で制限されているケースがあり、玄米が望ましいとされているからです。このため、お米券の寄付を受け付けているフードバンク団体も存在します。
認知度が少しずつ高まっているフードバンクですが、実務上は多くの問題点や課題を抱えています。そして、これらの問題の解決のためには多くの人の理解と協力が不可欠となります。次記事では、実際にフードバンクの活動に参加する方法について紹介します。
【次記事:フードバンクにボランティアとして協力できること】