ライフイベントなぜ少子化なのに待機児童は増え続けるのか?待機児童ゼロの実態とは

なぜ少子化なのに待機児童は増え続けるのか?待機児童ゼロの実態とは

少子化が問題視されている日本において、待機児童が増え続けています。一見すると矛盾があるように感じますが、そこには数字だけでは見えてこない、需要と供給のバランスという問題点が隠されていました。待機児童に関する様々な問題とその現状について一緒に考えてみましょう。

待機児童とは

待機児童とは

待機児童問題の原因

ネット上で一人の母親が叫んだ「保育園落ちた!日本死ね!」という言葉。この言葉が日本中を駆け巡り、ついには国会でも議論されたことをご記憶の方も多いのではないでしょうか。

保育園の定員数に対して多くの希望者がいた場合、入園できなかった児童は保育園に空きが生まれるまで待つことになります。これが「待機児童」と呼ばれるものです。

2017年の厚生労働省の資料によると、全国的な視点から保育園の定員数と児童数を比較した場合、定員数約250万人に対して児童数は約230万人となっており、数字上では十分に保育園は足りていると判断されます。

しかしこれを各都道府県単位でみてみると、東京都を皮切りとして千葉、埼玉、大阪といった大都市圏に待機児童が多く存在しています。働く人が多く保育園の需要が高い地域では、供給されている定員数では足りていないのです。

このように、各地域の状況に合った需要と供給のバランスが取れていないことが、待機児童が増えている一番の原因と考えられています。

待機児童数の推移

待機児童数の推移をみると、2005年の約2.3万人から、いったん2万人を大きく下回る年はあったものの、2010年には約2.6万人にまで膨れ上がりました。それ以降2万人を下回ることはなく、待機児童数が大幅に減っている様子はありません。

待機児童数が一番多いのは東京都で8000人超え。全体数のおよそ3分の1近くを占めています。最多の年では約12,000人だったためにわずかな減少はしていますが、日本の中心都市であり仕事が集中しているいう背景から転入数も増えているため、待機児童数が大きく減少することは難しい状況です。

待機児童問題対策の例

これらの問題を解消するため、国は受け皿となる保育園および保育士を増やすという策を打ち出しています。

特に待機児童数ワースト1となっている東京都では、2020年3月までに待機児童数ゼロを目指して、約1400億円という予算を組むことでこの問題の解決に向けて動き始めました。

そのなかでも特に注目されたのが「保育士の給与の上乗せ」です。

受け皿となる保育園だけが増設されても、実際に子ども達を見る保育士がいなければ機能しません。保育士が現場を離れる理由の一つに「実労働に対して給与が少ない」という点が挙げられます。

給与を上乗せすることで現在働いている保育士の離職を防ぐと同時に、有資格者でありつつも給与の関係で離職している「潜在保育士」の復帰に向けて働きかけ、児童に対して十分な保育士を確保し待機児童数の減少を目指すという考えです。

受け皿となる保育施設と受け入れる児童を見守る保育士の充足。この二つが揃った時に初めて、待機児童数問題は解決へ向けて動き出すことになるでしょう。

 

増える「0歳児保育」

増える「0歳児保育」

0歳児保育とは

生後間もなくの赤ちゃんを保育園に預けることを0歳児保育と言います。

受け入れ先の保育園によって基準は違いますが、正社員で働く女性が産休を取るにあたり、その休暇が明ける生後8週間を目安に受け入れてくれる保育園もあれば、生後4ヶ月を過ぎてからという保育園もあります。

赤ちゃんが保育園生活に慣れるよう、まずは「慣らし保育」といって短時間から始めていき、様子を見ながら少しずつ預かり時間を延ばしていくのが一般的です。

0歳児保育のメリット

仕事を持つ母親にとっては安心して預けることができるというだけでも大きなメリットとなるのですが、実は赤ちゃん本人にも良い影響があるのです。

保育園は集団での生活になるため、そのスケジュールは細かく管理されています。ですので、生まれて間もないゆえに不規則になりがちな赤ちゃんでも規則正しいリズムが習慣として身につきます。

また、同じ年齢の友達ができるのも赤ちゃんにとって良い影響です。一緒に遊ぶにはまだ難しい月齢ではありますが、触れ合ったり笑いあったりするなどのコミュニケーションを取ることが、お互いの発達をうながします。保育園では年齢を超えた触れ合いもありますので、小さいうちから社会性を身につける良い機会にもなるでしょう。

これだけのメリットがある0歳児保育ですが、その反面いくつかの問題点も指摘されています。

0歳児保育の問題点

免疫力のない赤ちゃんにとって、多くの人と出会う機会が増えるということは、それだけ感染症になる危険性も高まるということです。ほとんどの保育園では赤ちゃんが37.5度以上の熱を出した場合にお迎えを要請しますので、職場には理解を得てもらう必要性があります。

赤ちゃんを保育園へ預けることへの理解が不十分な職場もありますので、戸惑われる方も少なくありません。

また、お金の面でも問題が発生します。

0歳児を保育するにあたり、1ヶ月間にかかる必要経費は全国平均で1人当たり約16万円ほど。このうちの約12万円が公費で賄われています。もしこれから0歳児保育が急激に加速すると、その不足分を補うために保育料の値上げが懸念されます。家計を助けるための共働きで、逆に高額な保育料を払うことにもなりかねません。

望まれている0歳児保育の増設ではありますが、そのためにクリアしなければならない問題点にも目を向ける必要性がありそうです。

0歳児の待機児童

結婚をしても共働きとして正社員で働く母親が増えています。そして、これにともない増加しているのが0歳児の待機児童です。

2014年時点では全国で約3,500人にのぼる0歳児の待機児童がおり、その数は増加傾向にあります。産休が明けていざ働き出そうと思っても0歳児の定員に空きがなく、保育園に入れることが難しくなっています。

その背景には、0歳児保育が可能な保育園の数や定員数の少なさがあります。

赤ちゃんの世話は多岐に渡るため、どうしても保育士を確保できなければ定員数を増やせません。仮に保育士を確保できても、保育施設がなければ預かることは不可能です。

女性が安心して働き続けるためにも、その土台となる0歳児の受け入れ体制を整えることは早急の課題と言えるでしょう。

 

認知されない待機児童「隠れ待機児童」問題

認知されない待機児童「隠れ待機児童」問題

隠れ待機児童とは

待機児童としてデータ上に出てくる数値は「すでに働いている状態で保育園に申し込みをしたが、入園できずに空きを待っている児童」を指します。「働くために保育園に入れたいけれど申し込みをしていない、もしくはあきらめている」数は含まれていません。

この、データに現れていない児童のことを「潜在的待機児童」「隠れ待機児童」と言います。

家庭の事情でこれから働きたいと思っても、まず預けることができなければ職探しも難しいうえに、保育園の申し込みではすでに職のある人が優先されることがほとんど。このような家庭の児童は社会で認識されにくいという現状があります。

隠れ待機児童による問題

上記のように、政策を打ち出す時に基準となるデータは、すでに待機児童として認識されている数を元にしています。もし、この数値にさらに待機児童が加わると、どのようになるのでしょうか。

待機児童ゼロを目指した政策として、保育園を増やしたり保育士を確保したりするなどの動きはすでに始まっていますが、これまで表に出てこなかった隠れ待機児童が増えることでその数は大幅に増加します。これにより予定されていた確保数をさらに増やす必要性が出てくるため、一見すると政策が全く意味のないものととらえられてしまうのです。

潜在的な待機児童の数を完全に把握することは難しいのですが、今後さらに増えていくであろう保育園の入所希望者も視野に入れたうえで、受け皿となる保育園の増設や保育士の確保が急がれます。

 

単純に待機児童数を把握しただけでは解決できない点が多い待機児童問題ですが、これから変わっていくライフスタイルの流れを読み、需要と供給のバランスを考えることが解決へとつながるのではないでしょうか。