気候変動とは
気候とは一般に「十分に長い時間について平均した大気の状態」のことです。地球の気候は、太陽からの熱エネルギーを吸収し、これを宇宙空間に放出することで熱平衡状態(吸収する熱と放出する熱が同じ量)を保っています。
しかし、地球全体では平衡状態でも、熱を過剰に吸収している地域(赤道付近)と熱を過剰に放出している地域(北極・南極)があり、持っている熱エネルギーの地域差が生じます。
その地域差を解消するために海洋が熱エネルギーの多い地域から少ない地域へ熱を運びますが、熱を吸収してから放出するまでに時間差が発生してします。このとき、一時的に海洋に溜められた熱エネルギーが温度上昇を引き起こし、エルニーニョ現象に代表されるような「気候変動」が定期的に起こることになるのです。
これらの現象をまとめて「気候システム」と言います。
この気候システムをモデル化してスーパーコンピュータで解析することで、気候変動を予測することができます。日本では神奈川県横浜市にある「地球シミュレーター」でこの作業が行われています。
気候変動の原因は何か
地球の気候は安定したものではなく、氷河期のような数万年単位の変動や冷夏・暖冬のような年ごとの変動など、長い期間で見ると常に変動しています。そして、地球規模の気候変動は気候システムに外部からの強制力が加わることで発生します。
主な強制力は下記の3つとなります。
- 大気組成の変化:二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスによる大気中濃度の変化
- 地球の軌道要素:太陽からの距離、地軸の傾きの変化
- 大陸の配置:地殻変動の活性化による火山活動や入熱・放熱の地域差の変化
これらの強制力のうち「地球の軌道要素」と「大陸の配置」には、人間が関わることはできません。
IPCCによる気候変動の議論
人間が関わることができるのは、残る一つの「大気組成の変化」のみ。「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」で議論されている気候変動の問題も、この「大気組成の変化」に関するものです。
地球の大気組成(変動の大きな水蒸気を除く体積基準)は、窒素が78%、酸素が21%となっており、その他の気体の割合は1%以下です。しかし気候変動の議論では、この1%以下の気体が主役になります。それは言わずもがな「二酸化炭素」です。
氷床コアの分析から、過去80万年間の気温の変化と二酸化炭素の大気中濃度の変化が一致することが分かり、二酸化炭素は「温室効果ガス」と呼ばれるようになりました。
この二酸化炭素の濃度は18世紀後半の産業革命までは約280ppm(1ppmは容積比で100万分の1)で安定していましたが、2015年時点では約400ppmにまで増加しています。この間に世界の平均気温は約1度も上昇しています。
温室効果ガスには、二酸化炭素のほかにメタン、一酸化二窒素およびフロン類があり、それぞれに地球温暖化係数(温室効果に果たす割合)が決まっています。
温室効果ガス | 温暖化係数 |
---|---|
二酸化炭素 | 1 |
メタン | 25 |
一酸化二窒素 | 310 |
フロン類 | 数千~1万 |
これは、メタン1kgの排出で二酸化炭素25kgを排出したのと同じ温室効果があることを指しています。
フィードバック機構
また、気候変動が加速している背景には下記のような「フィードバック機構」という働きも関わっています。
- 気温が上昇すると、北極域の永久凍土が溶けて氷河期に閉じ困られた二酸化炭素やメタンが放出され、それによってさらに気温が上昇する
- 気温が上昇すると、これまで太陽光を反射していた極地の氷が溶けて太陽熱の吸収量が増えるため、さらに気温が上昇する
気候変動が抱えている問題
気候変動が常に起こっている現象ならば、なぜ世界中が国を挙げて対策に取り組む必要があるのでしょう。それは、気候変動が人間の活動による大気組成の変化を原因として自然の変動に追加される要素だからです。
二酸化炭素の排出量は産業革命以後急激に増加しています。つまり工業の発展による増加です。これに連動して、工業化により二酸化炭素を排出しながら利益を享受している人々と、その結果起こった気候変動により不利益を被っている農業・漁業に従事している人々との対立も起こっています。
気候変動による影響
日本では「気候変動」と「地球温暖化」がほぼ同様の意味で認識されることが多く、気候変動による一番の影響は平年気温の上昇です。
例としては下記のようなものがあります。
- 冬期の降雪量減少が起こり、夏期の渇水につながる
- 気候が熱帯化し、短時間豪雨が頻発する
- 植生が変化し、農産物の供給が悪化する
- 気温とともに海水温度が上昇し、漁獲量に影響する
- 継続的な高温や熱波の頻度や持続期間が増加する
- 熱帯雨林地方に生息する感染症を媒介する生物の生息地拡大により、感染症の発生地域が拡大する
さらに、海面上昇による影響としては下記が挙げられます。
- 高潮、高波の発生リスクが高まる
- 陸地の面積が減少し、水没する国がある
- 巨大台風、巨大ハリケーンの発生頻度が高まる
気候変動への対策
気候変動枠組条約
世界的な気候変動への対策を取り決めたものとして「気候変動枠組条約」があります。
この条約に基づいて1997年には京都で「京都議定書」が採択されました。そして、議定書における第1約束期間(2008年~2012年)中に、日本は1990年比で6%の温室効果ガスの排出削減を約束しました。
しかし、自国の努力だけでは達成できず、1600億円の購入費を払って二酸化炭素の排出権を購入してなんとか目標を達成しました。さらに、公平性・実効性に欠けるとの理由で第二約束期間(2013年~2020年)には参加していません。
2020年以降の新しい枠組みを決めた「パリ協定」は、世界共通の目標を「産業革命以前の水準と比べて世界全体の平均気温の上昇を2度より低く保つこと、加えて同気温上昇を1.5度に抑える努力をすること」と定めています。
日本は京都議定書の目標達成に向けて「地球温暖化対策の推進に関する法律」を施行し、国の「地球温暖化対策計画」、都道府県の「地球温暖化対策実行計画」および市町村の「地球温暖化対策率先実行計画」という体制で臨んだにもかかわらず、排出権の購入という手段に頼らざるを得ない結果になってしまったことを良しとしてはいません。
この反省から「パリ協定」に際しては、2050年ごろを見据えた「エネルギー・環境イノベーション戦略」を立ち上げて、新技術の開発に注力しています。
産業革命という大きな技術革新によって始まった気候変動という問題に対して、さらに大きな技術革新をもって立ち向かうことになったのです。
気候変動対策のための技術
行き詰まりを見せている気候変動対策ですが、打開策の一つとして「人工光合成(水や空気中の二酸化炭素を原料として太陽エネルギーにより化学製品を合成する技術)」というものがあります。そのキー技術として注目されているのが、2017年に文化勲章を受けた藤嶋昭が研究を進めてきた「光触媒」です。
この光触媒を応用した新技術が量産可能になれば大量に安価な水素エネルギーの供給が可能となり、気候変動のみならずエネルギー問題の解決にもつながる可能性があるのです。