この記事の目次
ホームレスへの支援
ホームレスの実態
ホームレスの人数は、2003年の25,000人越えをピークに、2014年には7,500人にまで減少しています。しかし、実はこの数字には理由があるのです。
日本では2012年に「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(以下「ホームレス自立支援法」)」という法律が施行されました。
この法律では「ホームレスは、路上などで野宿をしている人のみを指す」と捉えられているため、
- 住居を持たずに、ネットカフェやファーストフード店など24時間対応の店舗で夜をしのいでいる
- 日雇い労働で一時的に与えられた宿泊施設にいる
- 家賃の滞納によりアパートを退去寸前である
- 病院や刑務所から出ると帰る場所がない
このような人びとは人数として数えられていません。
そのため、住む家も安定した雇用や貯蓄もなく、不安定な日常生活を送っている人も含めて考えるのであれば、その数はむしろ増加傾向にあると言われています。
事実、「長期にわたる不景気で職を失った」「病気によって解雇となり、その後も仕事が見つからなかった」という理由でホームレスになるケースも数多くあります。そして、これらはいつ誰の身に起きても不思議ではないのです。
ホームレス支援の現状
路上で生活をしているホームレスは、その生活環境の過酷さから常に死と隣り合わせの状態です。食事に困り、病気になっても診察してもらえず、孤独に耐え、ホームレスを狙った襲撃事件にも怯えながら十分に休むこともできません。
これらの状況をふまえ、ホームレスの支援を目的とする団体が活動を続けています。支援として行われているのは、大きく分けると以下の3つの項目です。
今現在困っていることに対しての支援
炊き出しや衣類の提供、ホームレスが危険にさらされないよう夜回り(パトロール)などが行われています。直接の声かけや挨拶を交わすことで一人一人の声を拾い上げ、体調の悪い人には風邪薬を提供したり、ときには救急車を呼ぶことも。ホームレスとの信頼関係を築くためには、根気強く接触を図ることが大切です。
ホームレス生活から抜け出すための道筋作り
ホームレスの多くは、可能であればホームレス生活から抜け出したいという希望を持っています。このような要望に対し、就職するためのワークショップや直接的な就職支援なども行います。
ホームレスに対しての偏見をなくしていくための活動
間接的な支援となるのが、ホームレスに関する知識を広めていく活動です。ホームレスに対しての偏見や間違った考えが再就職を困難にしたり、ホームレスを襲撃したりという痛ましい事件へとつながっているケースも多いためです。
ホームレスが抱える悩みや苦しみ。これらの声を丁寧に拾い上げながら、地道な支援活動が続けられれています。
ホームレス自立支援施設
ホームレス支援の最大の目標は、ホームレスが自立した生活を送れるようになることです。しかしそれは、一度生活が崩れてホームレス生活を長く送っていた人にとって容易ではありません。
「ホームレス自立支援施設」は、自らの意志で自立した生活を求めるホームレスに対し、一時的に宿泊する場所や食事を提供しながら生活の改善や働く意識を促し、ホームレスからの脱却を目指すための施設です。
東京都や神奈川県・大阪府など各地方公共団体に設置されており、事前に入所相談を行わないと入所することはできませんが、利用料金は一切かからないため利用者も増加しています。
ホームレス支援全国ネットワーク
ホームレスに対しての支援活動を行なっている各団体がホームレス自立支援法の成立をきっかけにつながり、発足したのが「ホームレス支援全国ネットワーク」です。
ホームレスの自立を支援し、一人でも多くのホームレスや生活困窮者が行き詰まった生活から抜け出すことができるよう、幅広い内容で支援活動を行なっています。
自立へ向けての第一歩は、ホームレスにとってはとても高い壁となることがあります。支援施設や支援団体は、彼らの生活だけでなく心も支援しているのです。
ホームレスは生活保護を受けられる?
就労できるホームレスには就職に向けての支援が行われ、働くことが困難な場合は生活保護を受けることができ、最低限の生活が保障されます。「現住所を持たないホームレスは生活保護を受けることができない」と勘違いされがちですが、ホームレスの場合は住所の記載がなくても申請が可能です。
しかし、ホームレスのほとんどは生活保護を受給していないのが現状です。
ホームレスと生活保護の現状
ホームレスが生活保護を受給していない理由は大きく3つに分けられます。
生活保護という制度自体を知らない
社会制度に関しての知識が希薄で、生活保護という制度自体を知らない人や、知ってはいるものの自分は受けられないと勘違いしている人もいます。
生活保護の申請がうまくできずに諦めてしまう
行政の制度が理解できなかったり申請理由をうまく伝えられなかったりすると、誤解されて申請を却下されることがあります。それ以降「再度手続きするのが面倒」「どうせまたうまく伝えられない」などの理由で、保護申請をせずに済まそうとするケースもあります。
自立することへの恐怖
生活保護申請が受理されて路上生活から脱せたとしても、働くことのできない負い目や人との関わりが薄れてしまうことへの恐怖から、再び路上生活へと戻ってしまう人もいます。
自立とは、単純に一人で暮らすことを指すわけではなく、生きがいや楽しみを新たに見つけて、心も身体も路上生活から離れていくことなのかもしれません。
貧困ビジネスの実態
貧困ビジネスとは
「貧困ビジネス」とは、生活が貧窮している社会的弱者に声をかけて施設へ入居させ、生活保護を申請させてその大半を徴収するというもの。近年、このターゲットにされているのがホームレスです。
「綺麗な施設で暮らせて食事にも困らない」という甘い言葉で路上生活をしているホームレスを誘惑し、入居したホームレスに生活保護を申請させます。しかし、支給される生活保護費のほとんどを施設側が徴収するため、本来の受給者であるホームレスの手元に残るお金はわずかです。
「この生活から脱出できるなら」と喜んでついて行った先には、粗末な食事と狭い部屋に詰め込まれた生活。その苦痛から逃れるために再び路上生活へと戻るホームレスも少なくありません。
貧困ビジネスの問題点と対策
2017年1月、さいたま市のとある生活保護受給者の受け入れ施設が行政処分されました。貧困ビジネスにより入居者の生活保護費を不正に徴収していたためです。これによって、入居しているホームレスを被害者だと考える人が多く生まれました。
しかし、入居者のなかには「何の問題もなく良い生活だった」と話す人もいます。路上生活に比べると1日3回の食事を摂れて好きなこともできるため、そこに「被害者」という感覚はありません。
ホームレス支援は、生活とともに心も自立していくことが最も大きな目標です。働くことへの意欲や生きる目的、達成感を味わうといった経験を積むことが心の豊かさと自信を取り戻すきっかけにもなります。
それらを排除した施設の場合、これから自立に向けて頑張ろうとするホームレスにとって大きな障害にもなりかねないのです。
さいたま市が行政処分を下すにあたり根拠としたのは「貧困ビジネス規制条例」。施設へ入居するホームレスとの契約書を必ず提出することや、1日に提供しているサービス内容の報告、契約期間を1年以内と限定するなど、より施設を監視しやすくなりました。
一度は失ってしまった人としての輝きを取り戻したいと願う心と、その気持ちを見守り応援したいと願う心。これがホームレス問題を解決するカギとなるはずです。