社会目をそむけてはならない「社会インフラ」「公共施設」の老朽化問題

目をそむけてはならない「社会インフラ」「公共施設」の老朽化問題

トンネルの天井落下、水漏れする上下水道、ヒビが入り危険を感じる団地や学校といった建物。高度成長期に作られた建造物が老朽化して新たな社会問題となり、早急な対策が必要となってきています。

社会インフラの老朽化

社会インフラの老朽化

社会インフラの意味

インフラとは「インフラストラクチャー(infrastructure)」という英語からきています。直訳すると「下の構造」となりますが、日本語では基礎・基盤という意味合いで捉えて「社会基盤」「経済基盤」という使い方をしています。

「国民の生活や社会を支えるための基礎となる施設」が「社会インフラ」と呼ばれるもので、具体的な例としては以下のようなものがあります。

  • 学校、病院、公営住宅といった建物
  • バスや鉄道の路線、道路
  • ガス、水道、電気
  • その他の公共施設や公共事業等

社会インフラの老朽化問題

国民の生活を支える社会インフラですが、整備されたものが次々と老朽化することで問題となっています。

1960年代、東京オリンピックをきっかけにそれまで整っていなかった社会インフラを一気に整備する動きがありました。高度成長期です。この時に整備された社会インフラが40年以上の耐久年数を過ぎ、次々と補修や建て替えを必要としています。全国一斉に整備された社会インフラですが、その老朽化も一斉に迎えてしまったのです。

公共施設の老朽化問題

学校や公営団地といった建物も例外ではありません。

人口増加により増設された団地や学校ですが、それらのインフラもすでに耐久年数を過ぎて老朽化しています。しかし、自治体の財源確保が難しいため、老朽化したからといってその全部を修復、建て替えるわけにはいきません。

人口減少により少人数となった学校の統廃合や数戸しか人が居住していない団地などの場合、そもそも存続させるかどうかという岐路に立たされています。

財政難の中で迎えた社会インフラの老朽化。どの施設が必要でどれが必要ではないのか、取捨択一が迫られています。

 

南九州地区に見る公共施設の老朽化問題

南九州地区に見る公共施設の老朽化問題

公共施設の老朽化の状況

九州南部、宮崎県と鹿児島県を合わせて「南九州地区」と呼びます。

2013年3月の株式会社鹿児島県経済研究所の資料によると、公共施設の老朽化に関しては全国的な比率と比較してもさほど変わりはなく、一見特別な問題点があるようには見えません。

しかし、人口減少や住人の生活状況という面から南九州の公共施設保有数を見てみると、また違った一面が現れます。

公共施設は老朽化もさることながら耐震基準が満たされていないこともあり、補修・建て替えが必要となります。これには自治体の財源が不足しているため、保有する全ての公共施設に手を加えることはできません。

学校に関しては児童数の減少から統廃合を進める一方、廃校となった施設がその地域で避難所としての役割がある場合、ある程度の補修が必要となってきます。

人口は減少傾向にあるのですが、不況により収入が低く公営団地への居住を求める住人は増えており、老朽化による閉鎖・取り壊しを簡単には決断できません。

必要な施設が足りず不要な施設が多いという、住人のニーズと合っていない状況があるのです。

 

南九州地区の自治体による老朽化への取り組み

南九州地区の自治体による老朽化への取り組み

市町村の合併が多く行われた南九州地区では、合併された後に重複した公共施設が存在したままであったり、より住みやすい場所へ住人が移動して状況に変化が起こったりなど、自治体も把握しきれていない情報が多く存在しました。

  • 合併したことで市民ホールや市民体育館などが2つ以上存在する
  • 市町村役場の統合が進んでいない
  • より住みやすい場所へ住人が移動することで、中心部の公営住宅には申し込みが殺到しているが周辺地域の公営住宅は空室が多数存在する
  • 住民の理解が得られず公共施設の統合や処分に至らない

このような情報が集まりにくかった原因の一つに、市町村の合併によりデータが一元化しにくい状況であったという点が挙げられます。それまでも、各自治体は住民の声を拾いながら可能な限りの統廃合や対処を行っていました。しかし、それでは追いつかないほどの厳しい現実があったのです。

老朽化問題への今後の課題

問題点を明らかにしたことで、南九州地区では今後の課題が見えてきました。

  • 所轄となる部署だけではなく、全体的に見ることで必要とする公共施設の在り方を検討していくこと
  • 公共施設を経営する視点から見ることで管理、処分を検討するマネジメントを念頭に置くこと(施設の使用率から優先順位を定めるなど)
  • 自治体と住人、その両方が同じ危機感を持ち理解を深めること
  • 財政状況から長期的な保全計画等を実施、さらに数年ごとの計画見直しを行うこと

これまであった公共施設や提供されてきたサービスがなくなってしまうのは、住人にとって大きな痛手となります。そこで南九州地区では、公共施設の老朽化問題を解決するためのチャレンジが始まっています。

 

「問題山積み」老朽マンション

「問題山積み」老朽マンション

老朽マンションの現状

インフラの老朽化は、個人の所有するマンションにも暗い影を落としています。高度成長期に建てられたマンションのほとんどは耐久年数を迎え始め、そこに居住している人に厳しい選択を迫っています。

マンションを存続させるのに必要となってくるのは修繕工事です。これには各所有者が毎月積み立てた修繕費用が充てられるのですが、耐久年数を伸ばすために必要となる工事費用にはとても追いつきません。

各所有者から追加で集金しようにも、居住している住人の経済状況はさまざまなので、その金額を決めるのも難しい状況です。

それならばと売却しようにも、そもそも老朽化したマンションには買い手が付きません。付いたとしても思ったような高値では売れず、その後の生活が維持できない可能性も出てきます。

どうにかしたいと思っていても、なかなか思い通りには進まない。それが老朽マンションが抱えている現状です。

老朽マンションの建て替え問題

それでは、老朽マンションを建て替えた場合はどうなるのでしょうか。実はここにもさまざまな事情が隠れています。

マンションは広い土地に大きな家を建て、それぞれの部屋が個人所有されている状態ですので、オーナーや管理会社の意見によって勝手に建て替えることはできません。建て替えるためには所有者の5分の4以上が合意をしなければならないのですが、それがとても難しい問題なのです。

高齢となった所有者はその場から離れることを嫌がる傾向にあり、管理組合が上手く機能せず話し合いが全く進まないということもあります。話し合いができたとしても所有者それぞれの価値観がぶつかり合い、なかなか合意に至らないケースも出てきています。

さらに頭を悩ませるのが建て替えに関わる資金です。

当然それまでの修繕費用は建て替え費用に充てられますが、マンションの解体、建て替えが行われる期間の仮住まいなどを全てまかなうとなると、一戸につき数百万円〜数千万円の費用がかかるということもあるのです。

これらの事情から、老朽マンションの建て替えが進んでいる例は非常に少ない状況となっています。

 

私たちの生活を支える社会インフラですが、その老朽化はそのまま私たちに返ってくる問題でもあります。まずは知ること。それが一番大切なのかもしれません。