今や日本人に欠かせなくなったパーム油の危険性

今や日本人に欠かせなくなったパーム油の危険性

「パーム油」という言葉を聞いてピンとくる人はどのくらいるでしょうか。知らず知らずのうちに私たちが摂取しているパーム油。しかし、便利さと危険性が表裏一体となっています。

パーム油とはどんな油?

パーム油とはどんな油?
ファーストフード大国のアメリカで、心疾患などの健康リスクがあるとしてトランス脂肪酸が規制されたというニュースは記憶に新しいでしょう。トランス脂肪酸に限らず体に悪い油、そのような油に限って商品に明記されていないことがほとんどです。

例えば、ポテトチップスやカップラーメンには、明記されていないものの共通して「ある油」が使われています。それが今回紹介するパーム油です。

パーム油とは

アブラヤシの果肉から抽出された植物油脂をパーム油、種子から得られるものをパーム核油と呼びます。元々アブラヤシは熱帯地方に生息している植物で、20世紀の半ばごろにプランテーション方式による栽培が東南アジアで行われるようになってから、その生産量は爆発的に拡大していきます。

特にインドネシアやマレーシア・タイが多く、菜種油の原料となる菜種の約70倍もの収穫量を誇り、年間を通して安定的に収穫が可能なため栽培面積も増加しています。その量は、上記の三つの国でパーム油の総生産量の約8割を占めているほど。

パーム油は、ほかの植物性油脂に比べて安価で手に入れることができ、冷えて固まった状態でも使用することが可能なため、年間70万トン近くが消費されています。

かつては主に石鹸の原料として使われていたものの、精製法が向上し食用油として広く使われるようになると、その安価さからインスタント食品やスナック菓子をはじめ、ケーキやクッキーといった幅広い分野で取り入れられ、世界でもトップを争うほどの生成が行われる植物油脂となりました。

日本でも菜種油(キャノーラ油)に次いで2番目の消費量を誇っているのですが、日本の食品表示法において植物油脂の内訳は記載を義務付けられておらず消費者の目には直接見えないため、私たちの身の回りに大量に流通していることはほとんど認識されていないというのが現状です。

パーム油に含まれる成分

オレイン酸・アルミリン酸

パーム油の成分のほとんどはオレイン酸とアルミリン酸という脂肪酸。この2つの成分は人間の皮脂にもともと含まれているものです。ビタミンEが豊富なことから、肌の保湿効果やアンチエンジングといった効果が期待されています。

βカロチン

パーム油の精製方法によってはβカロチンも大量に含まれていることがあります。

βカロチンは、体内でビタミンAに変化して健康を保つほか、ガンや動脈硬化を予防するといった効果があります。ビタミンAを安定させるパルミチン酸も大量に含まれているため、老化防止にも役立ちます。

「脱色精製」という方法で精製されたパーム油はβカロチンを大量に含むため、これをより多く摂取する方法として注目されているのです。

パーム油が使用されている品物

手にする製品に安全性を求める声が高まりつつある現代において、表示を確認してから商品を購入する人は多いでしょう。しかし、パーム油という表示を目にすることはほどんどありません。パーム油が含まれている商品の表示には「植物油脂」と書かれています。

パーム油が含まれる商品には主に下記があります。

  • ポテトチップスやカップラーメン、スナック菓子
  • ファーストフードのフライドポテトやスーパーなどの揚げ物類
  • チョコレートやアイスクリームなどの菓子類
  • マーガリンや菓子パン
  • ベビーローションやアンチエンジングクリームといった化粧品

これらの例が全てではありませんが、コストが抑えられて食感が良くなることから特に揚げ物向けの需要が高く、さまざまな商品にパーム油が使用されています。

 

パーム油が抱えるさまざまな危険性

パーム油が抱えるさまざまな危険性

パーム油で森林破壊が加速する

パーム油を抽出するにあたり必要になるのは、熱帯林にあるアブラヤシの果実。収穫後24時間以内に搾油する必要があることから広大な農地全てを網羅できる搾油工場を併設することが求められており、その規模は数千から数万ヘクタールになるとも言われています。

しかし、搾油工場の開発のためには森林を切り開かなければならないため、熱帯林に多大な被害を及ぼしており、1990年~2010年の間に九州ほどの面積となる約360万ヘクタールが消失してしまいました。

商業による栽培で森林が部分的に荒廃してしまった場合には、時間をかければある程度は再生するものの、工場設置の場合は森林を皆伐してその上に作られることから、生息していた森林生態系は全て失われてしまいます。

生物多様性の喪失

パーム油は主に「生物多様性の宝庫」と言われる熱帯地方で集中的に生産されています。搾油工場併設にともなう森林破壊によってオランウータンやテングザル・ゾウなどの絶滅危惧種に加え、熱帯林特有の動植物も生息地を失っています。

例えば、ボルネオ島では、

  • ピグミーゾウの生息数は1500頭以下にまで減少
  • オランウータンは生息地の約80%が失われる

こととなりました。

スマトラ島でも、

  • オランウータンの生息数は6600頭以下に減少
  • トラの生息数は500頭ほどにまで減少

しています(2013年時点)。

パーム油の製造によって人間が森林に入り込んだ結果、野生生物はアブラヤシ生育の際の害獣として殺害・捕獲されてしまうことも原因の一つと考えられます。インドネシアでは、このような被害を減らすためにオランウータンを保護・救出する取り組みが行われてはいるものの、野生復帰するための森林自体が減少し続けているため、対症療法にしかなっていないのが現状です。

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地域住民との社会面での影響も

熱帯林に暮らしている先住民族も例外ではありません。

それまで熱帯林を利用して暮らしていた人びとは、パーム油のための農園と工場を広げるために土地を追われ、立ち退きを強制されています。さらに、その際に賠償金が支払われるなどの措置はほとんど行われていません。

2010年にはインドネシアで土地紛争に関わる事件が600件以上も報告されており、その後も改善されない状況です。

熱帯林と共存していた人びとは、土地を追われた後、生活苦から工場で働かざるを得なくなり、過酷な労働を強いられることになります。生活をするために言われるまま働くしか選択肢がない人びとの姿は、強制労働や児童労働といった社会的問題として浮き彫りになっています。

人体への影響

一見何も問題がないように見えるパーム油ですが、危険が潜んでいるという声もあります。

「パーム油は熱帯地方の植物なので日本人の体には合わない」
「ラットによる実験でパーム油の危険性が指摘された」

といった内容も無視できないのですが、注目すべきは「製造過程での添加物」です。

アブラヤシの実は独特な風合いがあるので、そのままでは商品になりません。風味や色合いを調整するために、製造の段階でさまざまな化学物質が使用されています。

そのなかで特に危険性があるのが、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)とBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)です。

この2つは発ガン性のある危険な添加物として厚生労働省が使用を禁止しているのですが、欧米では使用されています。パーム油には酸化防止剤としてこのどちらかが入っており、国際的な摩擦を避けるために日本は「パーム油と乾燥魚介類に限り」使用を許可して輸入しています。

さらに問題となるのは、製造過程で使用された加工助剤(加工を助けるために使ったもの)を商品に表示する義務が日本にはないことです。

もし危険な添加物が入っていても、それが表示されていなければ消費者は選択することができません。パーム油に潜む一番の危険、それは、消費者が判断できる方法がほとんどないという点でしょう。

 

バイオマス発電にも利用されるパーム油

バイオマス発電にも利用されるパーム油

燃料としてのパーム油

「バイオマス」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、実は、日本ではほんの数十年前までは当たり前のように使用されてきた、生物を由来とする有機物を再利用したエネルギーです。

  • 枯葉や糞尿から肥料を作る
  • 里山を手入れした際に出る木を廃棄せず薪にしたり、木炭を作って生活に役立てる

このような資源の活用からエネルギー変換を行って発電を行うのがバイオマス発電です。このエネルギー源として、パーム油が注目されています。

パーム油は液体にも固体にもなるため扱いやすく、既存のシステムにエネルギー源として簡単に流用することができると考えられています。

パーム油の元となる実を付けるアブラヤシは発育が早く、約20年にわたって実を採取できることから、エネルギーの安定供給という面でも期待されているのです。

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パーム油発電における問題点

自然に配慮したクリーンエネルギーとしての期待が掛かるパーム油発電ですが、実現への道のりは険しいというのが現状です。

2007年の段階で日本はすでに500トンを超えるパーム油を輸入しています。現在はまだバイオマス発電へ向けての申請段階ですが、試算としては1年間に約900トンのパーム油が必要となります。

さらなるパーム油を輸入するためにはアブラヤシの農園とパーム油を作るための工場を拡大させることが不可欠ですが、すでに熱帯林の過剰な開発が問題視されているなかで、環境を守りながら開発を進めていくことは非常に難しいと言えるでしょう。

環境に配慮しながらどのようにして燃料を調達するのか、原産国との話し合いや電力会社との契約をどうするのか、パーム油発電にはさまざまな課題が山積みとなっています。

 

パーム油に関連する問題を紐解くと、そこには人間の持つ貪欲な価値観があるように思えます。人間が自然を開発するのではなく、自然に人間が寄り添う必要もあるでしょう。