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土砂災害防止法による規定
土砂災害防止法では、国民の生活を守るために、土砂災害の恐れのある地域を「土砂災害警戒区域」と「土砂災害特別警戒区域」という二種類の区域に指定することで
- 危険の周知
- 警戒避難体制整備の推進
- 建物の新規立地の抑制
などの対策が行われることになっています。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)
土砂災害警戒区域とは、急傾斜地の崩壊や土砂流・地滑りが起こった場合に地域住民の生命または身体に被害が生じる恐れがある、と指定を受けた区域のことです。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)
土砂災害特別警戒区域とは、急傾斜地の崩壊や土砂流・地滑りなどが起こった場合に建築物に壊滅的な損害を与え、地域住民の生命または身体に著しい被害が生じる恐れがある、と指定を受けた区域のことです。
制定のきっかけ
警戒区域が指定されるようになった背景として、2009年の6月に広島県の広島市と呉市で発生し、31人もの命が犠牲となった土砂崩れによる災害が関係しています。
2010年、「これ以上の土砂災害による犠牲者を出してはいけない」と、土砂災害防止法に基づいて「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」が制定。2013年には広島県内の13ヵ所で初の警戒区域の指定が行われました。
警戒区域に指定された場合
では実際に、警戒区域として指定された場合にどのようなことが行われるのか見ていきましょう。
土砂災害警戒区域
市町村ごとに地域防災計画への記載を行う
土砂災害が発生する恐れのある地域は、
- 土砂災害に関する防災気象情報の把握と伝達は正確に行われているか
- 予警報の発令および伝達に問題はないか
- 避難・救助ルートの確保と確認できているか
といった警戒避難体制の整備・確立が大切です。
そのためには、その重要な役割を担う市町村防災会議によって策定される「地域防災計画」において、警戒区域ごとに警戒避難体制に関する条件を制定していく必要があります。
災害時要援護者関連施設の警戒避難体制の確立
高齢者や障害者・乳幼児など自力での避難が困難な人は土砂災害の犠牲者になりやすいため、「災害時要援護者」と呼ばれています。
災害時要援護者関連の施設が警戒区域内にある場合には、施設内に居住・滞在している人を円滑に警戒避難させるために、土砂災害に関する情報の伝達と避難経路を確立する必要があります。
土砂災害ハザードマップを周知させる
土砂災害による人的被害を防ぐためには、
- 居住している建物や利用している施設は土砂災害が起きる危険性のある区域に属していないか
- 属している場合には避難経路の確認が行われているか
という情報が地域住民に正しく伝達されているかが重要です。
そのためには、地域防災計画に基づいた区域ごとの警戒避難体制に関する事項が記載されているハザードマップ(被害予測地図)を配布し、周知させる必要があります。
宅地建物取引における措置
宅地建物取引業者は土砂災害警戒区域内の建物を売買する場合、警戒区域内である旨を事前に説明することが義務付けられています。
土砂災害特別警戒区域
特定開発行為に対する許可制
特別警戒区域で介護老人福祉施設や分譲住宅・学校などの災害時要援護者施設を建築するには、土砂災害が実際に起こった際に安全をしっかり確保できる設計になっているかを都道府県知事が問題ないと判断した場合のみに限ります。
建築物の構造の規制
特別警戒区域では、土砂災害によって地域住民の生命または身体に著しい被害が生じないように、建築物の構造が安全であるかを判断するための建築確認制度が適用されます。
すなわち、土砂災害が起きてしまっても被害を最小限に抑えられるような基準が満たされているかどうかを、建設物を建築する前に建築主事が確認を行う必要があるのです。
具体的な構造基準としては、建築基準法に基づき以下のとおり定められています。
- 基礎:垂直方向にかかる力である人間や家具・建物そのものの重さや、水平方向にかかる力である地震や風力に対抗するための力を「構造耐力」と呼びます。建築物の基礎は、この構造耐力が問題なく作用し、構造上安全であることが確認できる構造方法を用いなければなりません。また、建築物一つに対して異なる構造方法を併用してはいけません。
- 外壁や構造耐力上主要な部分:崩壊した土砂の衝撃を受ける高さよりも下にある外壁や構造耐力上主要な部分は、厚さ15cm以上の鉄筋コンクリート造(RC造)の利用が定められています。また、災害によって破壊されないよう事前に限界耐力計算・土砂衝撃計算も行われ、破壊されないか細心の注意が払われています。
建築物の移転などの勧告および支援措置
急傾斜地の崩壊や土砂流などの災害が発生した場合に、特別警戒区域内の建築物に住んでいるために生命や身体に著しい被害が生じてしまう恐れのある住民に対して、特別警戒区域から安全な区域へ移住するなど被害防止のための措置を地方公共団体や都道府県知事によって勧告するというものです。
なお、区域外への移住に対しては以下の支援が行われています。
- 住宅金融支援機構の融資:住宅金融支援機構の融資の中に「地すべり等関連住宅融資」があります。これは、特別警戒区域からの移転や区域内での代替住宅の建設・購入を行う際に必要になる資金の融資を受けられるものです。
- 住宅・建築物安全ストック形成事業による補助:特別警戒区域内における構造基準を満たしていない住宅(既存不適格住宅)を区域街へと移転させて代替住宅の建設を行う際に、既存不適格住宅の取り壊しにかかる費用および新たな住宅の建設時にかかる費用の一部を補助するものです。
宅地建物取引における措置
特別警戒区域では、宅地建物取引業者は都道府県知事の許可を得た後でないと区域内住宅の広告掲載や売買契約の締結を行えず、また、売買契約を行う際には、取引対象の状態・権利関係・法律上の制限などを重要事項説明書に基づいて説明をしなければいけません。
警戒区域解除の基準
2017年の土砂災害防止対策基本方針の変更によって、一度は土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域に指定された場合でも、ある条件を満たすことで解除となるケースが出てきました。
土砂災害警戒区域の見直し
砂防堰堤などの整備が進んで安全性が増したことで、土砂災害特別警戒区域としての条件に適合しなくなった場合、指定が解除されます。また、警戒避難体制に手落ちがないよう区域の解除と再指定は同時に行われます。
土砂災害警戒区域の解除
盛土や切土によって地形の状態が良くなり土砂災害が起こりにくい環境となった場合には、土砂災害警戒区域から解除されます。
土砂災害防止施設などの整備にともなう区域の一部の解除
建設完了までに長い年月を要する土砂災害防止施設は、基幹的施設など一部分の整備が完了した段階で部分的には解除の要件を満たしていると判断され、解除が検討される場合があります。
土砂災害の危険から身を守らなくてはならないのは自分自身です。今住んでいる家や職場は本当に安全でしょうか。これを機に、防災情報の収集や身近な場所の点検を行うなど日ごろの備えを万全にしましょう。