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今だから知ってもらいたい「統合報告書」
上場企業の発行数が急激に伸びている統合報告書。投資家であれば目にする機会が増えているでしょう。
この統合報告書は、利益や資産などの財務情報とノウハウや強みなどの非財務情報とを組み合わせた報告書のことを指します。
日本での統合報告書の発行は義務ではありませんが、上場企業に発行が義務づけられている国も存在します。
統合報告書とは CSR報告書とは違う?
そもそも「統合」という用語自体は、企業(組織)の社会的責任を経営戦略や事業活動に組み込むことを表し、ISOではCSRの定義としても使用されています。CSRレポート(サステナビリティレポート)と統合報告書の違いは何でしょう?
統合報告書で求められている大事な内容は、企業が自社の知識や強みを利用して、いかにして長期的な価値を創造していくかという点です。想定される読者は投資家となります。
これに対して、CSR報告書は一部の投資家が見るものの、想定されている読者は幅広いステークホルダーになります。お客様や社員、地域社会などの読者が求めている情報に統合報告書は応えられないのです。
言い換えると、これまでの環境や社会に対する取り組みを伝えるCSRレポートでは将来的な企業価値に与える影響を判断しづらい、という投資家側の要請に応えたものが統合報告書になります。
IIRCによる国際統合報告フレームワーク」の公表
CSRレポートにGRIスタンダードやISO26000などの国際的なガイドラインや規格があるのと同様、統合報告書にも一般的な枠組みがあります。
国際統合報告評議会(IIRC)が2013年に公表した国際統合報告フレームワークでは、短期的な利益の追求ではなく、長期的に見た安定的な資本市場の形成と持続可能な社会の発展が目的とされています。
GRIとは違うもの?
上記でも述べましたが、GRIはCSRレポートにおけるガイドラインになり、統合報告書のガイドラインとは別のものになります。
しかし、IIRC自体は、GRIとA4S(チャーチル皇太子が設立)の二つの組織によって立ち上げられたものなので、一見、非財務的に見える取り組みが長期的な企業の価値創造に結びつくという根本的な思想は共通しています。
なぜ統合報告書は必要なのか
「CSR」や「サステナビリティ」という概念だけが一人歩きしては本末転倒で、それらは経営に組み込まれ、企業価値の創造に寄与すべきものです。
CSR・ESGからの観点
企業行動は環境や社会に影響を与えていると同時に、企業そのものの環境や社会から影響を受けています。
これが何を表すかというと、現在、環境問題や社会問題とされていることであっても、中・長期的に経済問題になり得るということです。そのためESG(環境・社会・ガバナンス)の面から企業を評価していく動きが進んでいます。
IIRCは価値創造プロセス(オクトパス・モデル)を公表しており、ここでは「統合思考」と統合報告書の8つの「内容要素」が示され、ESG評価に備えるための考え方が詰まっています。
知的資産の見える化
上記の「統合思考」を推進するため、IIRCが公表した国際統合報告フレームワークで特徴的なのが、企業が保有する資産を以下の6つに分類したことです。
- 財務資本
- 製造資本
- 知的資本
- 人的資本
- 社会・関係資本
- 自然資本
大切なのは、これら6つに区分された資産はそれぞれ独立したものではなく、事業活動を行う過程で変換されながら最終的な価値の創造に結びつくという点。
例えば、企業が持っているお金(財務資本)で設備投資(製造資本)を行い、その設備を使用して社員(人的資本)が商品を製造して販売する。など企業はさまざまな資本を活用することで価値を創り出しています。
統合報告書の今後の課題
統合報告書のフレームワークが公表されてからまだあまり時間が経っていないということもあり、多くの課題が指摘されています。
環境問題に対する対応の弱さ
環境問題など持続可能性に関わる問題が将来的に企業に影響を与えると認識されてはいますが、現状の統合報告書では、そのような視点ではなく、ビジネスモデルを通じた価値創出の向きが大きく、環境問題に対する対応や議論が弱まっているのでは、という指摘があります。
統合報告書の内容を経営者は理解しているのか
統合報告書は会社のビジョンやミッションと明確に連動します。そのため、統合報告書(CSRレポートも含む)では、会社のトップが目指す未来について自分の言葉で語る必要があるでしょう。
ステークホルダーに理解されているのか
また、CSRレポート(サステナビリティレポート)と統合報告書の区分けが明確に行われていない企業も目立ちます。
統合報告書を発行する代わりにCSRレポートの発行を中止したり、統合報告書が決算報告書とCSRレポートとの単なる合冊になっている例があったりと、本来の統合報告書の発行意図から逸れているケースが存在するのです。
統合報告書とCSRレポートは発行目的や対象となるステークホルダーが異なるため、構成や内容も異なるべきです。
2013年に公開されたIIRCによる国際統合報告フレームワーク、まだ統合報告書を公開している企業は世界的に見ても少ないですが、これから増えていくことが予想されます。
しかし、本当の意味で統合思考を実践する企業が多数になるにはまだまだ時間がかかるでしょう。