この記事の目次
電気の流通の仕組み
2003年に大規模工場やデパート・オフィスビルが契約している「特別高圧」という区分からスタートし、2016年4月1日に全面自由化された電力の小売りですが、自由化前とはどのような差があるのでしょう。
電力自由化以前の電気の供給方法
各地域の電力会社だけが販売を許されていた時代には、住んでいる地域によってどの電力会社から電力を購入するかが決まっていました。電力会社は、発電・送配電・販売の全てを独占しており、電気は発電所から一般消費者に届けられるまでに以下のような経路を通っていました。
特別高圧電力(22,000V)
発電所で発電された高圧電力は、送電線を通り一次変電所に送られます。大規模工場が利用する特別高圧電力はこの一次変電所から供給されます。
高圧電力(6,600V)
一次変電所で電圧を下げた電力は、送電線を通り配電用変電所に送られます。中規模工場が利用する高圧電力はこの配電用変電所から供給され、「キュービクル」で100Vや200Vに変圧して使われることがほとんどです。
低圧電力(100V、200V)
配電用変電所でさらに電圧を下げた低圧電力は、家庭などの一般消費者に送られます。
電力自由化までの流れ
日本の電力供給においては、1951年に設立された全国9地域の地域独占電力会社に沖縄電力(1972年に設立)を加えた10電力会社による発送電一貫体制が長らく続いていました。
しかし、2002年にエネルギー政策基本法が施行され、基本方針として
- 安定供給の確保
- 環境への適合
- 市場原理の活用
の3つが定められたことにより、エネルギー市場の自由化が国の責務となったのです。
安定供給の確保
大半を輸入に頼っている石油など一次エネルギーへの依存を減らすと同時に、エネルギー資源の多様化やエネルギー効率の向上など、日本にとって重要なエネルギーを安全に供給できる仕組みを構築する必要があります。
環境への適合
東日本大震災の影響で原子力の発電が停止状態となったため、日本の電力供給は火力発電を中心に稼働しています。また、太陽光発電や風力発電・地熱発電など化石燃料を使用しない再生可能エネルギーの重要性が認識され始めました。
再生可能エネルギーのデメリット|解決策とメリットも詳しく解説!今後はこのようなエネルギーを推進し、地球温暖化対策や環境の保全・循環型社会の実現に向けた推進を行う必要があります。
市場原理の活用
電力の自由化にともない、電力会社が魅力あふれるさまざまな料金プランを提供し、各家庭がその中から自身に合った好みのプランを選択できる仕組みを構築する必要があります。
この方針に基づいて、2003年3月に特別高圧区分において大規模工場やオフィスビルが電力会社を自由に選べるようになり、「新電力」と呼ばれる新しい電力会社が誕生しました(1999年の電気事業法改正時には2000年3月を予定していたが、3年間の先延ばしが行われ、実現はエネルギー政策基本法の後になった)。
さらに、2004年4月には高圧区分の一部、2005年4月には高圧区分の全てに自由化対象が拡大しました。
その後、東日本大震災を発端とした電力不足によって発生した計画停電により、この動きは加速していきます。そして、2016年4月からは低圧区分にも拡大し、完全自由化が達成されました。
電力自由化のプランの例
電力自由化とは、これまで地域独占の供給体制を維持していた地域独占電力会社に対する供給義務を廃止して、電力供給に自由競争の原理を導入することです。
そして、そのためには送配電の安定を維持するための送配電ネットワークの開放も必要になり、「発電」「送配電」「販売」の分離(別会社化)による自由参入が認められることになりました。
このような理由から、発電設備を持つガス会社や大規模工場などが開放された送配電設備を使って電力を販売することが可能になったのです。
電力自由化により選べるさまざまな料金プラン
自由化により選択肢が増えた料金プランですが、複雑に感じることもあるでしょう。ここでは、東京電力を例として自由化によって生まれた新しい料金プランを紹介します。
スタンダード
幅広い利用者に向けたプランで、電気使用状況に応じたアンペア契約を選ぶことができます。電気料金1,000円につき「Tポイント」などに交換できるポイントが5ポイントもらえます。関東・中部・関西が対象エリア。
従量電灯B、C(従来プランの継続)
幅広い利用者に向けた従来プランで、料金はスタンダードプランと同じですが、「スマート契約」に対応していないため利用者が使用量を予想して基本料金を設定します。関東が対象エリア。
プレミアム
家族が多い利用者に向けたプランで、月20,000円以上を支払っている場合にお得になります。月の使用料が400kWhまでは定額で、それ以上は従量電灯B、Cに比べて割安の料金設定になっています。
また、電気設備のトラブルがあったときに駆けつける「生活かけつけサービス」が無料で受けられます。関東・中部・関西が対象エリア。
スマートライフ
オール電化住宅に向けたプランで、「夜間蓄熱式機器」または「オフピーク蓄熱式電気温水器」の利用者が契約できます。午前1時から午前6時までの時間帯の料金を割安に設定しているのが特徴で、住宅設備の修理サービスも付いています。関東・中部・関西が対象エリア。
夜トク
関東を対象エリアとした、日中不在がちで夜間電力を活用する利用者向けのプランで、夜間の電力料金が安くなる代わりに日中の料金が少し割高になります。30分ごとに計測した電力使用量の最大値をもとに料金が決定されるのが特徴です。
アクアエナジー100
関東が対象エリアの再生可能エネルギーを希望する利用者向けのプランで、水力発電100%(水力発電による発電量と利用者の使用電力量が同じになる)の電力を利用できることが特徴です。基本料金はスタンダードプランの2倍程度に設定されていますが、環境保全を優先させたいという利用者には人気のサービスです。
電力自由化による電力の「見える化」
省エネルギー施策として国が推進しているHEMS(Home Energy Management System)による電力の見える化ですが、電力会社から供給される電力だけではなく、家庭用新エネルギー設備・蓄電池・電気自動車などの電力を総合管理できるようになると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
電力の見える化によるメリット
電力の「見える化」といっても見えただけでは何の効果もありません。見えた情報を具体的な取り組みにつなげることで初めてメリットが生まれるのです。
例えば、家電製品ごとの電力使用量を把握した結果、日中のピーク時間帯に冷房の電力使用量が急増していることが分かったとします。その場合、冷房の設定温度を変えるのも良い方法ですが、太陽光発電の利用を考えてみてはどうでしょう。おそらく冷房に多くの電力を必要とする暑い時間帯は太陽光発電にとっても条件の整った時間帯であるはずです。
HEMSによって家庭内の電力が見える化されていれば、太陽光発電の電力をエアコンに使うことで電力会社からの買電量を減らすことも可能です。また、一日の電力利用量が分かっていれば、それに合わせた家庭用蓄電池を導入して電気料金の安い夜間に一日分の電力を蓄えておくことも可能になります。
見える化導入の例
電気料金メニューの多様化が実現されましたが、見える化されたデータを人が判断して活用することには限界があります。そこで、これらのデータをよりよく活用するためのさまざまな機器が存在しています。
スマートメーター
導入により30分ごとの電力使用量を把握できるため、時間帯別・曜日別の電力使用傾向を把握できます。それにより、今までイメージだけで実行に結びついていなかった電力使用量の適正化やピークシフトなどの具体的活動につなげることができます。
照明制御ソリューション
照明のオンオフをスケジュール化、または人感センサーの利用によって、不用な照明の消し忘れ防止やエリアを絞った照明管理が行える機器です。一例として、オフィスの照明をスケジュール化して一斉に消灯することで帰るきっかけを作り、残業の抑止に効果を発揮した取り組みもあります。
スマートコンセント
外出先から家電のオンオフができるスマートコンセントは、外出時に消し忘れた暖房機器のオフや帰宅前に室温を調整したいときなどに役立つ機器です。
2011年の東日本大震災による電力不足を背景に一気に加速したイメージのある電力自由化ですが、それ以前から、諸外国に比べて割高となっていた国内電力料金や送配電設備を電力会社が独占するために進まない自然エネルギーの活用の観点から電力自由化が検討されていました。
しかし、電力の自由化には全国規模で電力を融通し合うための送配電施設の調整機能の強化が必要となるため、実現には至っていませんでした。ところが、大震災による電力不足から全国規模での電力融通や電力会社以外からの電力調達が必要になったことで技術開発が進み、スマートメーターなどの新規技術の普及も後押しする形で電力の完全自由化が達成されました。
このことは、どんな難題でも、きっかけさえあれば、人びとの目標を一致させることができれば解決できるということを示しているのではないでしょうか。