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子ども・子育て支援新制度とは
急速に進む少子化
日本では少子化が急速に進んでいます。2016年の合計特殊出生率は1.44であり、人口を維持できるとされる2.07(人口置換水準)を依然として大きく下回っています。
生まれる子どもの数が少ない要因の一つとして挙げられるのは、子どもや子育てをめぐる環境の厳しさです。現代の日本では核家族化が進み、地域におけるつながりも希薄になっています。そのため、子どもを育てようとした時に周囲の手助けが得られず、不安や孤立を抱えている家庭が多くあります。
また、両親が共働きで子どもを保育所に預けたいと考えていても、条件に合う保育所がなかったり、あったとしても満員で預けられなかったりする場合も多く、「保活(保育園に子どもを入れるために行う活動)」という言葉も生まれているほどです。
この結果、仕事と子育てを両立できる環境が十分に整わないことによって複数の子どもを持つことを諦める家庭が多くなっています。
少子化は日本という国の将来を左右する大きな問題であり、子育てしやすい社会の構築には急いで取り組まねばなりません。このような背景から、従来の幼児教育・保育制度を大幅に拡充する「子ども・子育て支援新制度」が2015年にスタートしました。
子ども・子育て支援新制度の概要
子ども・子育て支援新制度は、2012年に成立した「子ども・子育て支援法」「認定子ども園法の一部改正」「子ども・子育て支援法及び認定子ども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の子ども・子育て関連3法に基づいて作られた制度で、幼児期の学校教育や保育、地域の子育て支援の「量の拡充」や「質の向上」を進めることを目的としています。
量の拡充では、子育て支援を必要としている全ての家庭が利用できる支援を目指して、受けることのできる教育・保育や子育て支援の選択肢を増やしたり、待機児童の解消に向けて受け皿を増やしたりと、さまざまな取り組みが行われています。
質の向上では、教育・保育施設の職員数を増やせるようにするなど、職員の待遇改善を行って人材の確保や定着につながる取り組みが行われています。
なぜ少子化なのに待機児童は増え続けるのか?待機児童ゼロの実態とは子ども・子育て支援新制度の目的
新制度では、以下の3つの目的が設定されています。
- 質の高い幼児期の学校教育・保育の総合的な提供
- 地域の子ども・子育て支援の充実
- 保育の量的拡大・確保
地域型保育の新設による教育・保育の場の拡大
新制度においては幼児期の学校教育・保育の質を高めることが目指されています。その一環として「認定子ども園」の普及が図られているほか、新たな保育の場として「地域型保育」が生まれるなど、教育・保育の場が増えました。
教育・保育施設
新制度における教育・保育施設は以下のとおりです。
幼稚園
小学校以降の教育の基礎を作るための幼児教育を行う学校です。
- 年齢:3歳〜5歳
- 利用時間:昼過ぎごろまでの教育時間が基本。園によっては午後や土曜日、夏休みなどの長期休業中の預かり保育を実施している場所もある
保育所
就労などのため家庭で保育できない保護者に代わり保育を行う施設です。
- 年齢:0歳〜5歳
- 利用時間:夕方までの保育が基本。園によっては延長保育を実施している場所もある
- 利用対象:共働きや親族の介護などの事情があり、家庭で保育が行えない保護者
認定子ども園
幼稚園と保育所の機能や特徴を併せ持ち、地域の子育て支援も行う施設です。
- 年齢:0歳〜5歳
- 利用時間:0歳から2歳は夕方までの保育が基本で、園により延長保育も実施されている。3歳から5歳は昼過ぎごろまでの教育時間が基本で、保育を必要とする場合には夕方まで実施されることもある。園によっては延長保育を実施している場所もある
- 利用対象:共働きや親族の介護などの事情があり、家庭で保育が行えない保護者
地域型保育(新設)
保育所(原則20人以上)より少人数の単位で、0歳から2歳の子どもを保育する事業です。
- 年齢:0歳〜2歳
- 利用時間:夕方までの保育が基本。園によっては延長保育を実施している場所もある
- 利用対象:共働きや親族の介護などの事情があり、家庭で保育が行えない保護者
なお、地域型保育には以下の4タイプが設定されています。
- 家庭的保育(保育ママ):定員が5人以下できめ細かな保育を行う
- 小規模保育:少人数(定員:6人〜19人)できめ細かな保育を行う
- 事業所内保育:会社の事業所における保育施設で、従業員の子ども・地域の子どもの保育を一緒に行う
- 居宅訪問型保育:障害・疾患のために個別のケアが必要、または施設がなくなった地域などにおいて保育の維持が必要な場合に、保護者の自宅において保育を行う
施設を利用するために必要な認定
新制度により運営されている保育園・幼稚園・子ども園などの施設に預ける場合、認定を受ける必要があります。認定は、子どもの年齢や保育の必要性により1号から3号までの区分が設定されています。
1号認定:満3歳以上で、教育を希望する場合の認定(以前の幼稚園児に相当)
利用先:幼稚園、認定こども園
2号認定:満3歳以上・保育認定(以前の年少から年長の保育園児に相当)
利用先:保育所、認定こども園
3号認定:満3歳未満・保育認定(以前の0〜2歳の保育園児(いわゆる未満児)に相当)
利用先:保育所、認定こども園、地域型保育
さらに、2号認定および3号認定の子どもは、保育が必要な時間によって以下の二つに分けられます。
- 保育標準時間:1日11時間まで
- 保育短時間:1日8時間まで
上記いずれかの認定を受けると「認定証」というカードが子ども一人につき一枚ずつ発行されます。認定証には、その子どもがどの区分かに加えて一ヵ月あたりの保育時間の上限も記載されます。認定証が発行されるまでの期間は認定を受けてから30日以内と法律で定められているため、余裕を持って準備する必要があります。
保育料の軽減措置
利用者の負担額は所得に応じた負担(応能負担)が基本であり、国が定めた基準をベースとして市町村が定めます。多子世帯やひとり親世帯などについては保育料が半額や無料になるなどの軽減措置が設けられています。
地域による子育て支援
利用者支援事業
利用者支援事業とは、教育・保育・保健その他の子育て支援の情報提供および必要に応じて相談・助言を行うとともに、関係機関との連絡調整などを実施する事業です。この利用者支援事業には以下の三つのタイプがあります。
基本型
利用者支援と地域連携の二つの柱で構成されます。利用者支援では、日常的な相談、子育て支援事業や保育所の利用にあたっての助言・支援などを行います。
地域連携では、より効果的に利用者が必要とする支援につながるよう地域の関係機関と連絡・調整を実施するなど、ネットワークを活かした支援を行います。
特定型
「保育コンシェルジュ」とも呼ばれ、市区町村の窓口で保育サービスに関する相談・情報提供・支援を行います。
母子保健型
市町村の保健センターで、保健師などの専門職が妊産婦に対して、妊娠期から子育て期にわたるまでの母子保健や育児に関する相談・支援を行います。
地域子育て支援拠点事業
本記事の冒頭でも述べたとおり、核家族化が進んで地域のつながりが希薄になっていることや男性の子育てへの関与が少ないことなどから子育てが孤立し、不安と負担を抱えている母親が多くなっています。
子育て中の親子が気軽に集い、相互交流や子育てにおける不安や悩みを気軽に相談できる場所を整備する事業が「地域子育て支援拠点事業」です。この拠点は公共施設や保育所、児童館などの身近な場所に設置され、乳幼児がいる子育て中の親子の交流や育児相談・情報提供を行います。
この事業により、各地に「地域子育て支援センター」が整備されました。しかし、気軽に多様な相談ができることもあって利用が伸びる一方で支援をする職員には多くの分野の知識や専門性が必要となり、人材確保が課題となっているケースも生じています
また、拠点で実施している事業であるため、本当に支援を必要としている人がその拠点を利用しているか否かを把握できていないという点も課題として挙げられています。
海老名市立子育て支援センター(愛称:すくすく)
子育て支援センターの例として、神奈川県海老名市の事例を紹介します。
- 開館日および時間:月〜土 8:30〜17:15
- 事業内容:主な事業内容は下記のとおり
相談
子育てに関する悩みや不安などについての相談を、電話や来所により受け付けています。
サロン・広場など
年齢別や年齢に関係なく遊べるものを選んで親子で遊んだり、親子同士の交流を深める場として開かれています。
ファミリー・サポート・センター
保育園の送迎や保護者が病気などの際に預かり保育などをする有償ボランティア制度の事務局が置かれています。
病後児保育
子どもが病気やケガの回復期に、施設内にある専用の部屋での保育が受けられます。
「子ども・子育て支援新制度」によって教育・保育の選択肢が広がり、相談窓口も充実したことで子育てにおける不安も少しずつ小さくなりつつあります。今後もこれらの取り組みが定着して改善されていくことによって、親子が安心して生活できるようになることを期待したいと思います。