歴史ある日本の伝統工芸岩谷堂箪笥の特徴と歴史|作り方やお手入れ方法もチェック

岩谷堂箪笥の特徴と歴史|作り方やお手入れ方法もチェック

飾り金具などが特徴的な岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)という歴史ある伝統工芸品をご存知ですか?タンスを持っている人は多いでしょうが、この言葉はあまり聞かないかもしれません。そこで、今回は岩谷堂箪笥について、作り方やお手入れ方法も合わせてお伝えします。

岩谷堂箪笥の特徴

岩谷堂箪笥とは

岩谷堂箪笥は岩手県の奥州市(江刺区)や盛岡市で作られている箪笥で、1981年に伝統工芸品に指定されました。ケヤキや桐などで作られ、漆塗りの上に手打手彫りの重厚で優美な金具が取り付けられています。金具には鍵がかかるようになっていて、金庫の役目も果たしてきました。

手打彫りと南部鉄器金具

岩谷堂箪笥の種類は三尺、三・五尺の整理箪笥が基本となっていますが、現在ではニーズに合わせて、洋服・衣裳・整理箪笥の3点セットや、茶箪笥、書棚、小箪笥、座卓など多くの種類の箪笥が生産されています。

ポイント
岩谷堂箪笥は漆塗りで、拭き漆塗りと木地蝋塗りの2種類があります。どちらも多くの手間がかかりますが、この漆塗りの工程が岩谷堂箪笥の木目の美しさを保つポイントで、時間が経つほどに独自の風合いが出てくるのも岩谷堂箪笥の魅力です。

さらに大きな特徴は飾り金具です。金具は「手打彫り」と「南部鉄器金具」の2種類があります。

手打彫りには鉄製と銅製があり、使用される地金の厚さは0.8mm以上で、引手、蝶番、錠、鍵などはすべて手作りで作られています。一棹の箪笥には60~100個程度の金具が使用され、美しい絵模様はもちろんのこと、重厚な美しさを感じさせてくれます。

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使用される材料

岩谷堂箪笥に使用される木材は主に、ケヤキ、桐、栗、杉です。このなかでも特にケヤキは木目に重厚さがあり、岩谷堂箪笥によく使用されています。岩手県内には良質のケヤキが豊富で、これが岩谷堂箪笥のデザインの基本になったとも言われています。

箪笥の内部には桐の無垢材が使用されています。岩手県は南部桐と呼ばれる桐の産地でもあります。桐は木目が美しいだけでなく歪みがなく火に強いので、衣類や大切なものを長い間保管するのに最適です。

 

岩谷堂箪笥の歴史

岩谷堂箪笥の歴史

米への一辺倒から脱却するために商品化

岩谷堂箪笥の歴史は1780年代にさかのぼります。岩谷堂城主であった岩城村将が米だけに頼る経済から脱却しようと、家臣に車付箪笥や長持、塗装の研究、箪笥の製作をさせ、木工家具を商品化させたのが始まりと言われています。

現在の奥州市江刺区にある岩谷堂は、平泉文化を築いた藤原清衡が平泉に移るまで約30年間、本拠地として栄えていたこともあって、古くから京より招かれた木工・漆工・金工などの職人が多く、鋳金や木工といった伝統工芸が伝えられていったのです。

1820年代前後には彫金金具が考案され、鍵のかかる丈夫な金具が用いられるようになりました。当初の図柄は桐が多かったのですが、次第に虎や竹、龍、花鳥などさまざまな種類のデザインが開発されるようになります。

明治期には一般家庭に浸透

その後、伊達藩の政策で他藩から多くの人が出入りするようになり、岩谷堂箪笥の製作は盛んになりました。さらに明治になると箪笥も一般家庭に広まり、漆塗りと飾り金具が美しい岩谷堂箪笥は評判を呼びます。

昭和になり戦争中は岩谷堂箪笥の製作が中断され、さらに西洋風の家具が広まるようになったことで、岩谷堂箪笥の共同組合は一度解散せざるを得なくなりました。しかし、伝統の技術を守っていく大切さが見直され、再び伝統家具の良さが認められるようになったのです。

年に一度のビッグイベント「岩谷堂箪笥まつり」

岩谷堂箪笥の歴史はもちろん現在にも続いています。岩谷堂箪笥まつりは、岩谷堂箪笥生産協同組合が主催する、年に一度の岩谷堂箪笥のお祭りです。 会場となるのは岩手県奥州市にある「えさし藤原の郷」です。

箪笥、食器棚、テーブル、サイドボードなどが展示販売され、コースターやお盆、写真立てといった岩谷堂くらしなシリーズもあります。進化した洋風デザインの岩谷堂箪笥も展示され、幅広いニーズに対応しています。

お買得割引券が配布されたり、じゃんけん大会で勝ち抜いた人には50%割引券がプレゼントされたりするなど、お得なイベントも開催されています。

また、日替わり入札販売や伝統工芸師による技の実演のほか、制作体験コーナーでは伝統工芸士が直接、彫金体験や桐の引出し箱、階段棚、マガジンラックなどの作り方を教えてくれます。

岩谷堂箪笥に興味を持ったら、一度は足を運んでみたいお祭りですね。

 

岩谷堂箪笥の作り方

全体の製作工程

まず原木を製材します。木が狂わないように「木枯らし」という、材料と材料の間に桟をはさみ風通しを良くしながら何年も自然乾燥させる工程を行います。十分に乾燥させた狂いのない木から用途に応じて材料を切り出します。「木取り」と呼ばれるこの作業は、現代になっても一貫して手作業で行われています。

次に漆塗装が行われます。漆塗りには拭き漆塗りと透明の木地蝋塗りがあり、塗っては拭き、塗っては磨くという工程が何度も繰り返されます。岩手県は日本を代表する漆の産地でもあり、漆塗装の技術は今も岩谷堂箪笥に生かされています。

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飾り金具は、まず唐草や龍などの下絵を描きます。このデザインは長く伝えられてきたもので、龍、花鳥、虎、竹、唐草、松竹、桐、牡丹のほか、時代に沿った新しいデザインも生まれています。この下絵を鉄板に貼り、鉄板を金槌と鏨(たがね)で裏から打ち出し、表から絵模様を浮かび上がらせ、最後にやすりをかけて錆止めをします。南部鉄器金具は手打金具を元に作った鋳型に鉄を流し込んで作られます。

塗り上がったものに引手などの金具、蝶番、錠前金具を付け、完成です。

商品例

中型からくり箪笥

岩谷堂箪笥の中型からくり箪笥には各箇所にからくりがあり、順番に沿って解除していかないと最後の隠された引き出しまで到達できないというものがあります。

間茶棚

「間茶棚」という食器棚が145万円程度で販売されています。職人が長い時間をかけて手作りで製作するということ、伝統の工夫が各所に凝らされていることなどを考えると、決して高い買い物ではないかもしれません。

お手入れ方法

漆は湿度や温度の変化に応じて、呼吸するように弾力性を保ち続けることができます。 木も生きているので、置かれる環境によって変化します。使っていくうちにだんだんと落ち着きが出て、使えば使うほど木目の美しさと漆の味わいが引き立ちます。

蝶番の緩みや釘の打ち付けを時々点検し、緩んでいる場合は締め直し、打ち直しをします。また、置く場所はカビやダニの発生を防ぐため、箪笥の裏側にも空気が流れるように壁から少し離すのがポイントです。

光や熱の温度変化によって変形したり変色したりすることがあるので、直射日光に当たる場所やストーブ・エアコンの風が直接当たる場所には置かないようにします。

桐は湿度の変化によって膨らみ、引き出しがきつくなることがあります。その場合には天気の良い日に引き出しを抜き出して、風通しの良い日陰で風に当てると元に戻せます。

金具が鉄の場合は、錆びを防ぐために表面に椿油などを少量塗って柔らかい布でしっかりと拭くと、錆止め・艶出しの効果があります。

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岩谷堂箪笥生産協同組合のお手軽シリーズ「岩谷堂くらしな」

岩谷堂箪笥生産協同組合のお手軽シリーズ「岩谷堂くらしな」

岩谷堂くらしなとは

岩谷堂箪笥の製造・販売元である「岩谷堂箪笥生産協同組合」から、箪笥よりお手頃で、気軽に使える身近な暮らしの道具「岩谷堂くらしな」が生み出されました。

伝統的工芸品「岩谷堂箪笥」の伝統的な和の雰囲気を、もっと身近な暮らしの道具として楽しめるようにと生まれた「岩谷堂くらしな」シリーズ。お手頃な価格であることで、幅広い年代の人が気軽に「和モダン」を取り入れられるようになりました。

原材料や技術・技法などの昔ながらの伝統を継承しながらも、現代の暮らしや産業環境に適した改良が加えられ、時代のニーズに合わせた製品作りが進められています。

丸時計

岩谷堂くらしなシリーズには、鍋敷き・花瓶・時計・小物入れのほか、写真立てなど毎日使う小物もそろっています。

例えば、丸時計「唐獅子」は8,100円。ケヤキと桐化粧合板に漆が使用されています。時計の中心に唐獅子が踊るように舞っている姿が印象的です。

ティッシュボックス

岩谷堂くらしなのティッシュボックスケース(8,640円)には、箪笥の引き出しに使われる引き手金具が使用されています。引き手を持ち上げるとフタが取れ、なかにティッシュボックスが入れられるようになっていて、岩谷堂箪笥の雰囲気を身近に感じられます。

岩谷堂箪笥のくらしなシリーズにはさまざまな小物があるので、「箪笥は買えないけれど岩谷堂箪笥の雰囲気を味わいたい」という人におすすめです。