ビジネスこれからも日本の外食産業は発展を続けていくのか?

これからも日本の外食産業は発展を続けていくのか?

日本の経済成長とともに流行した「外食」は、経済停滞期に入ると「中食」へと発展していきます。そして、国内での成長が困難となった外食は「和食」というブランドを活かしてインバウンド消費や海外進出に活路を見出しています。

「外食」と「中食」

「外食」と「中食」

一般に、自宅以外で食事をすることを「外食」、自宅以外で調理された惣菜・弁当などを購入して自宅で食べることを「中食」と呼びますが、ファーストフードのテイクアウトなど店舗外で食べることも「中食」に含まれるなど、不明確な部分もあります。

フードサービス業界における外食・中食

室町時代の茶屋の発生が起源だと言われる日本の外食ですが、ファミレスがチェーンストア展開を始めた1970年代に「食事と食事をする場所を提供する業態」として、「外食産業」という言葉が生まれたとされています。このころはレストランが少なかったため、出店してすぐに繁盛店となるケースも多く、出店数の増加とともに一般家庭の外食率が増加していきました。

1990年代に入って経済が停滞を始めると、外食産業の中心はレストランから価格の安いファーストフードへと変わっていきました。そして同時に、さまざまなテーマを持ち、内装やメニューに工夫を凝らした店舗が増えていきました。なかでも海外からのコーヒーチェーンの進出により、外食産業は単に食事をする場所ではなく、サービスやその場の雰囲気を楽しむ空間へと変化していきました。

さらに、リーマンショックによる金融危機以降の2010年代になると、低価格を求める外食利用者は、安さが売りのコンビニ弁当やスーパーの惣菜といった「中食」へと流れていきました。中食は以前から「仕出し」「出前」といった形で存在していましたが、1980年ごろから研究を重ねていたコンビニの弁当のおいしさが増した2000年代から急激に「中食」市場が拡大し始めました。

 

外食産業の市場規模の推移

外食産業の市場規模の推移

1970年代から1980年代にかけて急激に増加した食の外部化率は、1990年代になると40%程度で安定しています。しかし、その内訳を見ると外食は減少傾向にあり、中食が堅調に伸びている実態がうかがえます。そして、その原因を探るためには、定義の不明確な中食の内容を詳細にとらえる必要があります。

 197519801985199019952000200520102015
食の外部化率28.433.435.441.241.744.844.943.643.5
外食率27.831.833.537.737.537.836.635.134.5
中食率1.61.93.54.27.08.38.59.0

※単位は%
※公益財団法人「食の安全・安心財団」の推計値(金額による割合)
※中食率は食の外部化と外食の差とした(頻度は高くとも単価が安いため比率は低い)

外食産業の市場規模は縮小しているか

外食の店舗数は横ばい状態ですが、顧客が中食に取られており、客数は減少しています。したがって、赤字店舗の撤退と新しい人気メニューを持った店舗の進出がバランスして横ばい状態となっているのであって、同じ店舗が安定的に存続しているわけではありません。

外食は、店舗が過剰気味で赤字店が多くなっているのが現状です。これは、店舗数を競っているフランチャイズ企業が新規開店の敷居を低くして「念願の自分の店舗」を持ちやすくしていることが大きな要因で、このケースでの店舗経営者は運営経験も集客ノウハウも不足していることが多く、3年以内に廃業する店舗が増えています。

一方の中食は、高齢者の増加や婚姻率の低下によって単身世帯が増加したことを背景に、「孤食ならば調理をするよりは中食を利用した方が食料費を抑えられる」という理由で利用者が増えています。

また、中食に分類されている弁当・おにぎり・惣菜・調理パンなどの中で突出して拡大を続けているのは飲料です。これは、東日本大震災以後、飲用水を貯えるようになった家庭が増えた影響もあるとされています。

外食産業の抱えている課題

食品廃棄物の問題

一般世帯の食べ残しが1%なのに対して、その割合はレストランで3.6%、結婚式で12.2%、宴会で14.2%(農林水産省 2015年度の食品ロス統計調査)となっています。一般世帯以外の食べ残しが多いのは、純粋な食べ残しによるものよりキャンセルによって廃棄されるケースが目立って発生しているからです。そして、食材価格の高騰と相まって、この廃棄損失がレストランの経営を圧迫しているのです。

フードバンクは食品問題解決の糸口になるか? フードバンクは食品問題解決の糸口になるか?

この問題を解決するために、フードバンクという取り組みが始まっています。

インバウンドへの対応

邦人の外食率は伸びていませんが、外国人旅行者の増加によって外食産業の需要は確実に伸びています。メニューの多国語化や外国語でのおもてなしなどの整備が急務となっていますが、国内での人手不足の問題で、あまり進んでいません。しかし、スマートフォンの普及による翻訳アプリの活用やワーキング・ホリデーで来日する外国人労働者の存在が救いとなっています。

福島県のインバウンド復活に向けての新たな取り組み 福島県のインバウンド復活に向けた新たな取り組み

福島県など、各地域でインバウンドの取り込みが盛んに行われています。

雇用問題

2018年3月に公表された農林水産省の「外食・中食産業における働き方の現状と課題」によると、「宿泊業・飲食サービス業」への就業者数はほかの業種に比べて多いのですが、離職者数も多く、3年以内に50.2%が離職しています。慢性的な労働者不足から月間の時間外労働時間が80時間以上の職員も発生しており、繁忙期におけるその割合は、正規雇用者の4分の1に及びます。

 

外食産業のさまざまな取り組み

外食産業のさまざまな取り組み

さまざまな課題を抱えながらも発展を続ける日本の外食産業は、「食」と「農」の一体化や「食」と「文化」、「食」と「健康」という連携によって問題の解決を図っています。

地産地消や原産地の表示による付加価値の向上

農林水産省が行った農産物地産地消実態調査によると、地産地消への取り組みとしては、「採れたて」や「有機・特別栽培」といった高付加価値の地元農産物の

  • 直売所における販売
  • 学校給食や企業の社員食堂での提供
  • 農業生産者が運営する「農産加工場」「併設レストラン」での提供

が挙げられます。

この取り組みは「食料産業・6次産業化交付金」の対象にもなっており、インバウンド向けの新商品開発・観光事業者との連携の拠点ともなっています。

また、外食産業が担っている国産農作物の地産地消推進の動きは「フード・アクション・ニッポン」の取り組みともつながり、海外での国産農林水産物の消費拡大にも役立っています。

地産地消の取り組み事例は地域活性化や経済効果をもたらす? 地産地消の取り組み事例は地域活性化や経済効果をもたらす?

無形文化遺産に選ばれた「和食」が海外でブームに

ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」は海外でも人気の料理で、日本貿易振興機構が2014年に行った調査では自国の料理を除く好きな料理で1位を獲得しました。このことは、日本を訪れる外国人が日本での食事を楽しみにしていることの裏付けとなっています。

このような「和食」人気を背景に、日本の農作物を積極的に海外に売り込んでいくため、海外メディア向けに和食を紹介する番組を制作したり、海外の日本食レストランと提携したり、世界の有名シェフに対して日本の食材を紹介したりする取り組みが国を挙げて行われています。

また、海外で日本食の需要が高まった場合への備えとして「和食」の知識・技能を持った料理人を育てるべく、外国人料理人の在留資格要件を緩和するなどの対策も講じられています。

高齢者の雇用や高齢者向けメニューの考案

国産農産物の供給体制に目を向けると、過疎化・高齢化による農業従事者の減少が進む農村の姿が見えてきます。そして、これらの食材の供給のみならず外食産業においても賃金の低さから若者離れが止まらず、労働力として高齢者の活躍が期待されています。

また、消費者としての高齢者は、地元商店街の衰退や交通手段の不整備により「買い物弱者」となっており、介護サービスと連携した高齢者向け給食サービスなどの「中食」が利用される機会が増えています。

 

経済成長とともに拡大してきた外食産業は、バブル経済の破綻、リーマンショックによる金融危機以降、低価格化の流れに乗って、レストランからファーストフード、コンビニ弁当へとその主役を変えながら成長を続けてきました。

この外食産業が生み出した「和食」文化は、インバウンドや無形文化遺産への登録によって海外進出という発展の道を進んでいます。力強い発展を見せる外食・中食は、「食品廃棄物」や「雇用環境」といった問題も解決できる可能性を含んでいるでしょう。