この記事の目次
風力発電の仕組み
風の力を利用してエネルギーを生み出す風力発電の取り組みが日本でも注目を集めています。まずは、その仕組みから見ていきましょう。
風力発電とは
風力発電は、自然の風を利用して風車を回して発電するシステムです。太陽光発電や水力発電と同じ再生可能エネルギーの一つで、環境に優しい発電システムとして世界的に開発が進められています。
風力発電は大きく分けて以下の3つの部分から成り立ちます。
風を受ける部分
一番有名な風車の形は、ブレードと呼ばれる羽を使用したプロペラ型。ブレードで風を受けて風車を回し、それを動力源にします。風車の部分には、大型化しやすくエネルギーの変換効率がとてもよい「水平軸型」と、どの方向からでも風を受けられるため自由に設置できる「垂直軸型」の二種類があり、環境や風力によって使い分けられます。
風車の形や大きさによって得られるエネルギーの差があり、大規模な風力発電では効率の良さを重視してプロペラ型の水平軸を利用することが多くなっています。
エネルギーに変換する部分
風を受けた風車から生み出された動力は、風車につながっている動力伝達軸を通して電気エネルギーに変換される部分へと伝わっていきます。このエネルギー変換を行う部分を「ナセル」と言います。ナセル内部には発電機が組み込まれており、風車が生み出した動力で伝達軸を回転させて発電します。
電気を送り出す部分
ナセルで電気となったエネルギーは、風力発電の塔の内部を通ってトランスと呼ばれる変圧器へ送られます。ここで変圧された電気が送電線や配電線を通って電気エネルギーとして届けられるのです。
発電設備のサイズ
風力発電設備のサイズは、高いもので100m以上にもなります。風を受ける位置は高ければ高いほど上空の強い風を受けられるようになるため、発電効率が向上します。
また、後述する洋上風力発電ではさらに大きな発電設備も開発されており、180mを超えるものもあります。
普及への取り組み
日本における風力発電の普及は海外に比べると出遅れているものの、再生可能エネルギーに対する意識が高まるなか、導入の拡大に向けた動きも起こっています。
一般財団法人日本風力発電協会は、日本の風力発電の普及を図るために以下の取り組みの必要性を指摘しています。
- 発電コストの低減化による市場拡大
- 系統立てたインフラの整備と強化による風力発電の安定供給
- 風力発電で劣化した部品を交換、整備することで出力を増強する
- 良好な風資源を最大限活用し、洋上風力発電を推進・整備する
- 風力発電の部品の生産や組み立て、メンテナンスを産業として確立する
これらの取り組みから見えてくるのは、風力発電が受け入れられた新しい日本の姿です。風力発電そのものの開発だけではなく、それらを社会全体に溶け込ませるための取り組みも必要なことが分かります。果たしてこれが可能なのかを考えるために、次の見出しからは風力発電のデメリットやメリットを見ていきましょう。
風力発電のデメリット
風力発電の特徴を一言でまとめると、「簡単に始められる手軽さと継続させる難しさを合わせ持っている」と表現できるでしょう。それでは、一つ一つ解説していきます。
発電量が安定しない
風の強さや向きが一日を通して一定であれば安定した発電効率を維持できますが、そうでない場合は発電量にばらつきが生まれてしまうのがデメリットです。
具体的には、風力発電で発電をする場合、風速が平均で毎秒6.5m以上だと発電量を十分確保できますが、都心部では平均すると毎秒3.0mほどしか吹いておらず、実用的ではありません。
そのため、安定して風が吹いている場所に設置しなければならないのですが、日本では常に一定の風が吹く状況はあまり存在しません。
低周波や機械音が騒音問題になるケースも
風力発電では、ブレードが回る際の風切り音や設備内部で発生する機械音が大きいため、都心部に設置しようとすると近隣住宅の騒音問題になる場合があります。
また、人には聞こえない低周波を発している影響で耳鳴りや自律神経失調症を引き起こす可能性も指摘されているため、多くの人が生活をしていない山岳部や沿岸などに建設する必要が出てきます。
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風力発電は風の通りや風力によって発電量に差が出やすく、台風などの強風では逆に壊れてしまう可能性があります。より安定した発電量を求める場合は、年間を通じて一定の風の通りと一定の風力が確保できる場所を探さなければなりません。
風力発電では、風力が強ければ強いほど発電量が上がると思われがちですが、上述したように台風のような強い風では、風車の回転速度が限度を超えてしまいブレードなどを損傷させる恐れがあるのです。そのため、台風が発生した場合には装置の故障を避けるため、発電を一時中断します。
また、空中に設置されるため鳥類がブレードに衝突して死亡する事故(バードストライク)や落雷による故障も見られます。落雷の事故は非常に多く、発生した事故の実に25%が自然現象によるもので、その多くが落雷だったとの報告もあります。
十分な土地の確保が必要になる
ヨーロッパや中国は、その広大な土地を利用して風力発電の数を大幅に増やしています。しかし、山や海に囲まれている日本では、有効利用できる土地がなかなか見つかりません。一定以上の風が吹かなければならない点も土地の確保の難しさを上げています。
土地を確保できたとしても、多くの風力発電施設を建てると景観が損なわれてしまうと地域住民に反対され、導入に至らないこともあります。
景観を損ねず、騒音が気にならず、風の強さがほぼ一定という風力発電の条件をすべて満たす場所を探すとなると、そのポイントはかなり限定されてしまうでしょう。
建て替えの必要がある
仮に風力発電施設が設置できたとしても、それらは約20年が使用目安となっており、現在稼働している風力発電施設は次々と建て替えの時期を迎えます。このほとんどは小規模風車と呼ばれる1000kW未満のものなのですが、これを建て替えるか否かで長期安定発電へ向けた可能性が左右されることになります。
建て替えを機に高性能風車へ移行すればより大きな電力を供給することが可能になり、長期安定へ向けて前進できますが、それを行うには円滑な建て替えが必要となります。
- 現在利用している電力配電の設備との兼ね合い
- 利用している土地の契約期間
- 建て替え費用
- 新たな建設に必要な土地の確保
このような点を解決して円滑に移行していくことが、風力発電が長期的に安定したエネルギーを生み出す鍵になるでしょう。
風力発電のメリット
デメリットから紹介しましたが、風力発電による環境に優しいエネルギーは、太陽光発電や水力発電と同様に、再生可能エネルギーの一つとして注目を集めています。
将来的には世界規模での普及が期待される風力発電のメリットについて、詳しく見ていきましょう。
温室効果ガスの削減になる
火力発電は、化石燃料を燃焼させて発電を行うため二酸化炭素など温室効果ガスの発生が避けられません。また、原子力発電の場合も放射性廃棄物の処理を考える必要があります。
風力発電は、自然現象で発生する風を原料に発電を行うため温室効果ガスや有害物質を排出することなくエネルギーを生み出せます。さらに、風は枯渇しないエネルギーのため、無尽蔵に使えることもメリットの一つです。
省エネや地球温暖化への対策が求められるなか、環境に優しいクリーンな発電方法は将来に向けて非常に有益だと言えるでしょう。
地球温暖化の対策に向けてどのような取り組みが行われているか風さえあれば一日中発電できる
風は地球上を駆け回る自然の力です。地上・海上・上空を問わず風は吹いており、それは過去から現代に至るまで変わりません。風力発電は風さえあれば昼夜を問わず発電が可能で、比較的小規模なスペースで設置できるのもメリットです。
風を使って発電をするため、太陽が出ているときしか発電できない太陽光発電とは異なり一定の風速があれば昼夜を問わずに電力を生み出せるため、発電効率も良くなります。さらに、日本では季節風などで年間を通して風が吹いているため、季節によって発電量が大きく変動することなく発電ができます。
コストが低いため事業化しやすい
風力発電はこれまで、
- 初期製造費用が大きく、投資額の回収が難しい
- 風力発電によって得られる風力や売電収入の目安が分からない
といったデメリットもあり、あまり導入が進められていませんでした。
しかし、近年では導入の費用が低下し、得られる風力や売電収入のデータも少しずつ集まっているため、風力発電を始めやすい環境が整いつつあります。ブレード部分にカーボン繊維を使うことで軽量化も実現したため、発電の効率はいっそう上がるでしょう。
さらに、風力発電は電力への変換効率が非常に高く、風によるエネルギーの約30%から40%を電力に変換できます。太陽光発電のエネルギー変換効率が10%ほどということから考えると、非常に優秀な数値だと言えます。
建設工期が短い
風力発電設備は、ほかの発電施設と比べて建設工期が非常に短いことで有名です。火力発電所の場合は約3年、原子力発電所の場合は約4年かかると言われているのに対して、風力発電施設の場合、着工から完成までにかかる期間は約1年半です。
完成までの工期が短く稼働開始日も早まることに加えて導入の費用も安くなっているため、投資費用の回収がしやすいこともメリットになります。
海上にも設置できる
日本は世界で6番目の広さの海を有しています。その海を利用して行われる風力発電が「洋上風力発電」です。風力発電施設を筏で浮かべていかりで固定し、発電が行われます。
狭いうえに設置できる範囲も限られている国土に比べて、海上ではスペースを気にする必要がほとんどなく、景観を損ねる心配もありません。風の乱れが少ないため安定的に風を得られることもメリット。詳しくは次の見出しで解説します。
事故や災害が起こった際に被害を最小限に抑えられる
風力発電は、小さい発電所が個々に分散して配置され、それぞれで発電されたエネルギーを配電する「分散型電源」と呼ばれる発電方法に分類されています。都心から離れた広大な土地で発電し、大量の電力を集める「集中型電源」とは逆の方法です。
一基だけで大量に発電するのは難しいため、個々の発電量を組み合わせることで電力を生み出しているのです。そのため、原子力発電や水力発電とは違い、発電所が事故や災害によって被害を受けてしまっても被害を最小限に抑えることができます。
風力発電のデメリットを洋上で解決!
風力発電のデメリットの解決策として期待されているのが洋上風力発電です。洋上風力発電とは、遮るものがなく豊富な風が吹く洋上に着目し、その風を利用するために洋上に設置された風力発電のことを指します。海に限らず、湖・フィヨルドなどの大河・沿岸部に近い港湾内に設置されたものも洋上風陸発電になります。
洋上風力発電のメリット・デメリット
洋上風力発電は陸上における風力発電よりも確実に多くの風を受けられるため、年間を通して安定した電力量を期待できます。また、陸上の風力発電で問題となっている騒音問題や設置場所の確保といった点も解決できることから、新たな風力発電の形として大きな関心が寄せられています。
しかし、洋上風力発電には以下のデメリットがあるとも指摘されています。
- 海洋環境の悪化
- 海洋生物への影響
- 渡り鳥や回遊生物の移動ルートの阻害
人間にとってのメリットは十分備わっている洋上風力発電ですが、同じ自然で生きる動植物への配慮や共存に向けた模索も必要となるでしょう。
北海道で行われている洋上風力発電
洋上風力発電に必要なのは、十分な風量と風速です。全国的に見ると北海道・東北・九州の順で風速が高いのですが、そのなかでも北海道は群を抜いて優れています。
この風の力に国も着目し、北海道では洋上風力発電へ向けた動きが進んでいます。2014年には北海道石狩湾で「石狩湾新港長期構想」が策定。食料とエネルギーの供給拠点となるプロジェクトが開始され、6社の有力企業が洋上風力発電事業へ参加することになりました。投資費用は約630億円、発電規模は100MWの構想で、発電施設の対象区域は石狩湾新港の沖合にある北防波堤の外側約500万平方メートルとなっています。
北海道の沿岸部は日本の中では風量に恵まれており、風力発電に必要な風速が毎秒6.5mなのに対して、石狩湾新港の沖合では平均で毎秒8.0mを超える強い風が年間を通して吹いています。
また、一般的に洋上風力発電の電力への変換効率は30%ほどですが、毎秒8.0mを超える風速の場合、その数値は40%にまで上昇します。発電量を100MWとして考えると、変換効率が30%の場合は年間の発電量が2.6億kWhなのに対して、40%の場合は3.5億kWhとなります。
一般家庭の電力使用量を3600kWhと仮定すると、約10万世帯分ほどの電力を供給できることになります。これは、石狩市の総世帯数の4倍以上に相当します。
石狩湾新港にはすでにLNG(液化天然ガス)基地や火力発電所が建設されているため、洋上風力発電の運転が開始されることで火力・風力を中心に大エネルギー都市としての構想が実現します。国・企業・地域が一体となって「次世代の理想的な社会作り」へと進んでいくのです。
これまで見てきたとおり、風力発電は枯渇の心配がなく有害物質の心配もないことから、地球に優しい再生可能エネルギーとして注目を集める一方で、風量・騒音・景観など多くの課題も残されています。
小さな島国の日本ではなかなか受け入れる土壌が整わなかった風力発電ですが、このようなデメリットを解決し、風力発電の持つメリットを最大限に引き出すための施策や技術開発がどこまで進められるか、洋上風力発電の取り組みも含めて今後の動向から目が離せません。