東京では27円上昇し最低賃金は985円
2018年の10月に行われた最低賃金の引き上げによって、全国平均で26円の上昇。特にAランクに指定されている、東京・神奈川・大阪・愛知・埼玉・千葉では、過去最高額の27円が引き上げられました。
これによって
- 東京の最低賃金は985円
- 神奈川の最低賃金は983円
- 大阪の最低賃金は936円
- 愛知の最低賃金は898円
- 埼玉の最低賃金は898円
- 千葉の最低賃金は895円
となりました。
雇用者の所得を増やし、経済の循環を良くするために、最低賃金を毎年約3%引き上げていき最終的に時給1000円を目指す、と2015年に発表してから順調に上昇は続いています。
しかしその一方で、最低賃金が上がったことにより最低賃金そのままの時給で働く労働者が増えているのも事実です。
では、以下より最低賃金制度の概要から最低賃金の引き上げによって労働者にもたらす影響まで、詳しく見ていきましょう。
最低賃金制度とは
最低賃金制度とは、政府が決めた労働報酬の最低限度額を、企業側が労働者を雇用する際にその最低限度額以上の賃金を対価として支払わなければならない、と定められた制度です。
毎年7月を目安に、厚生労働省が今年はいくら引き上げを行うか金額を提示。各都道府県の審議会が地域内の実績を加味したうえで検討を行い、都道府県労働局長によって確定されます。
そして、その年の9月末~10月末を目安に適用されるのです。
最低賃金が決定するまでの流れ
厚生労働省によって提示された金額に対して、各都道府県の審議会では、
- 労働者の生計は成り立つか
- 労働者が適切な賃金水準を維持できるか
- 一般的な事業に対する賃金支払い能力で支障は出ないか
などの観点から、最低賃金の金額に問題がないかを考慮しています。
以前は、最低賃金でフルタイム働いたにもかかわらず、生活保護で支払われる金額を下回るという逆転現象が生じていたため、2007年に最低賃金法の一部が改訂されて生活保護受給額との整合性も取れるようになりました。
また、各都道府県によっても最低賃金・引き上げ額はもちろん異なり、これについては、
- 所得税と消費税に関する指標
- 労働者が受け取っている給料に関する指標
- 企業の経営状態に関する指標
をそれぞれ指数化して平均を取り、その経済状況に応じて都道府県をA・B・C・Dの4つに分類しています。
2018年時点では以下のように分けられています。
階級 | 都道府県 | 引き上げ額 |
---|---|---|
A | 東京都・神奈川県・大阪府・愛知県・埼玉県・千葉県 | 27円 |
B | 京都府・兵庫県・静岡県・三重県・広島県・滋賀県・栃木県・茨城県・長野県・富山県・山梨県 | 26円 |
C | 北海道・岐阜県・福岡県・奈良県・群馬県・岡山県・石川県・和歌山県・新潟県・福井県・山口県・宮城県・香川県・徳島県 | 25円 |
D | 福島県・愛媛県・島根県・山形県・青森県・秋田県・岩手県・高知県・鳥取県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・沖縄県・鹿児島県 | 24円 |
また、2018年度の各都道府県の引き上げ額は、前年度と比べてA・B・Cランクは1円上昇、Dランクは3円上昇しています。
最低賃金の推移
2018年度の最低賃金改定額(全国加重平均)は874円と、前年の848円から26円の上昇です。引き上げ額は昨年の25円に引き続き過去最大の更新となり、その伸び率は依然3%をキープしています。
時給の最低賃金を1000円にすると掲げている日本ですが、このまま伸び率3%を維持できれば、
- 2019年には時給900円
- 2023年には時給1013円
となるため、6年後にはその目標を達成できるのです。
しかしその一方で、地域格差はさらに広がりつつあります。日給ベースであった最低賃金が時給ベースに変更された2002年以降の推移を見てみると、最も高いのが東京都の708円であるのに対して最も低い沖縄県が604円であり、その差は104円でした。
しかし、2018年においては最も高い東京都が985円、最も低い鹿児島県が761円とその差は224円にまで広がっています。
農産物の地産地消や地方移住への取り組みが進むなかで、最低賃金による地域格差の解消は避けては通れない道となるでしょう。
最低賃金引き上げによる影響
未満率と影響率
最低賃金を引き上げることでどのような影響があるか示したもののなかに、未満率と影響率があります。
- 未満率:最低賃金を引き上げる前から現在支払われている金額が最低賃金額を下回っている労働者の割合
- 影響率:最低賃金を引き上げることで現在支払われている金額が最低賃金額を下回ってしまう労働者の割合
では、影響率の推移を見ていきましょう。
2006年度までは1%台をキープしていた影響率ですが、2007年に最低賃金法が改定され引き上げ額が大きくなった影響でその年は2.2%と2倍の数値をたたき出しています。
その後も、引き上げ額が増えると同時に影響率も上昇し続け、2016年度の影響率は11.0%、東京を含むAランクの都道府県では14.5%となり、約7人に1人は引き上げによって時給が上がるというデータが出たのです。
この結果からも分かるとおり、最低賃金の大幅な上昇は結果的に最低賃金労働者を増加させてしまっているのです。
また、これは雇用側からしても無視できない問題となっています。最低賃金労働者の給与が引き上げられれば、もちろん雇用側が負担するべきコストは増大してしまいます。
そのため、雇用側が最低賃金未満の金額で働かされている労働者も一定数存在しています。もちろん法律違反ではあるのですが、現に2016年度の未満数の割合は2.7%であり、37人に1人は最低賃金未満の水準で給料が支払われているのです。
雇用への影響
未満率・影響率からも分かるように、最低賃金の引き上げは、低所得者層の賃金が底上げされて就労への意欲向上に期待が持てる一方で、雇用側にとっては人件費のコスト増加となるため
- 新規雇用が難しくなる
- 現在雇用している人数を削減しなければならない
などの悪影響へとつながりかねません。
ただし、毎年20円以上の引き上げが行われてはいるものの、全国の失業率は低下を続けており地域格差も縮まりつつあります。各都道府県の有効求人倍率も順調に上昇を続けているため、雇用への悪影響はあくまで限定的なものであったと言えるでしょう。
最低賃金引き上げの効果
2016年度の影響率は11%であったと話しましたが、これによって実際に給料が上昇した労働者の数は約100万人にもなります。最低賃金労働者が増えているとはいえ、地域全体の経済水準は順調に上がってきているため、その効果は大きかったと言えます。
実際、引き上げによって増加した所得額は300億円以上にもなっています。労働者全体の給与額が126.5兆円であることを考えると、その上昇率は0.02%ほどにしかならないものの、今後も順調に伸びていけばその額は非常に大きなものとなるでしょう。
毎年3%の引き上げを行い2023年に最低賃金の時給を1000円にしたとしても、必ずしも経済効果がプラスになるわけではありません。
このような本末転倒な状況にならないためにも、各都道府県の最低賃金審議会は、最低賃金が引き上げられることによってどのような影響を及ぼすのかをより明確に把握し、引き上げ額を決定していく必要が出てくるでしょう。