環境今だからこそ振り返るヒートアイランド現象

今だからこそ振り返るヒートアイランド現象

夏の暑い日に、アスファルトで舗装された道路やコンクリート造りのビルに囲まれた大都市の中心部へ行くと、住宅地や農地がみられるような郊外よりもいっそう暑く感じることがあります。本記事では、大都市中心部が暑くなる「ヒートアイランド現象」について考えます。

ヒートアイランド現象とは

ヒートアイランド現象とは

都市特有の環境問題

大都市の中心部の気温が郊外に比べて島状に高くなる現象を、ヒートアイランド(Heat Island=熱の島)現象と呼びます。ヒートアイランド現象は、都市特有の環境問題です。

近年、地球の平均気温が上昇する地球温暖化現象が注目されています。気象庁の観測では、日本各地の平均気温は100年前に比べて1度〜2度程度上昇していることが分かっています。

このうち、都市化の影響が少ないと考えられている地点の平均気温は100年間で約1.5度の上昇であるのに対し、主要な大都市の平均気温は2度〜3度程度上昇しています。

地球温暖化の影響に加えて、都市化によって気温が上昇していることがうかがえます。

また、気温の上昇だけでなく高温となる時間も増えている傾向が見られます。1980年代の前半、東京周辺で30度以上となる時間は年間200時間程度でした。しかし約20年後の2000年にはおよそ400時間と2倍に増え、またその範囲も広くなっています。

 

ヒートアイランド現象を引き起こす原因

ヒートアイランド現象を引き起こす原因

ヒートアイランド現象は都市化によって引き起こされた現象ですが、気温の上昇を招いている直接的な原因としては以下の4つが挙げられます。

人工的な排熱の増加

エアコンなどの空調機器や、自動車や工場で燃料を燃やすことなどから生じる排熱が増加し、大気を暖めています。特に空調機器は暑くなればなるほど多く稼働するため、排熱をより増やすという悪循環になっています。

地表面の被覆の人工化

都市部の地表面はアスファルトやコンクリートなどの人工の被覆で覆われています。これらは太陽によって熱せられると表面温度が50度〜60度にもなります。また熱を蓄える性質があり、夜間の外気温が下がった時に蓄えた熱を放出します。そのために、夜間の気温低下を妨げています。

舗装に使用されるアスファルトの環境への取り組み 舗装に使用されるアスファルトの環境への取り組み

建築物の過密化

中高層の建築物がすき間なく建ち並ぶことによって風の通り道が妨げられ、熱がこもって拡散しにくくなっています。

冷却機能の低下と喪失

緑地や水面は空気を冷やして気温を下げる効果があります。夏季の日中、コンクリート造りの建物の表面温度は40度ほどになりますが、緑地の表面は30度以下と低温です。開発などでこれらの場所が減ることにより、冷却機能も失われています。

 

ヒートアイランド現象がおよぼす影響

ヒートアイランド現象が及ぼす影響

ヒートアイランド現象は気温を上昇させて猛暑や熱帯夜を引き起こすだけでなく、熱中症の発症につながったり、ゲリラ豪雨のような異常気象を誘発したりするなど、さまざまな影響をもたらしています。

世界各国で起きているさまざまな異常気象 世界各国で起きているさまざまな異常気象

熱帯夜の増加

「熱帯夜」とは最低気温が25度以下にならない日のことを言い、その日数は年々増加しています。東京都心部では、100年前には年間5日程度だった熱帯夜が近年は30日〜40日にまで増加しています。熱帯夜は熟睡できないために心身の疲労が取れず、日中の集中力低下を招いて作業能率の低下や事故発生につながる恐れもあります。

熱中症の増加

高温が続くことで、日射病と熱射病が併発して起こる熱中症が発生します。その患者数は年々増加しています。また、睡眠中に熱中症により死亡する例も増えています。

2017年の5月から10月にかけての熱中症による救急搬送は約53,000人に上っています。搬送数は年々増加する傾向にあり、2017年は前年に比べて2,500人あまり増えました。その内訳は高齢者が最も多く、発生場所は住居が最も多くなっています。また、以前はなかった5月の搬送も見られるようになりました。

生態系の変化

夏季の高温化により、生態系にも変化の兆しが見られます。かつて東北地方では越冬できないために分布していなかったヒトスジシマカが、都市部では越冬し定着するようになりました。

大気汚染物質の増加

大気汚染の一つである光化学スモッグは、自動車や工場の排出ガス規制の強化によって減少する傾向にありました。しかし、夏季の高温によって大気汚染物質の化学反応が生じやすくなり、地域によっては光化学スモッグの発生が増加しています。

異常気象の誘発

異常な高温は急激な上昇気流を生み、大気が不安定な状態を作りやすくなります。やがて積乱雲が発生して、短時間に狭い範囲で記録的な豪雨を降らせることがあります。短時間での激しい雨は人工化された都市の排水能力を上回り、道路などの冠水を引き起こします。

 

都市緑化がヒートアイランド現象の緩和につながる?

都市緑化がヒートアイランド現象の緩和につながる?

緑の気象緩和機能

植物は蒸発散の作用によって冷気を生み出し、気温を低下させる働きがあります。この植物を都市のなかに緑として取り入れ、気温低減につなげようという取り組みがあります。都市にある緑豊かな公園緑地や街路樹は、見た目に鮮やかで心休まるだけでなく気温低下などの環境を緩和させる効果も持っています。

まとまった面積の緑地は気温を低下させる効果も大きくなりますが、小面積の緑地を分散して配置させたり、または連続して配置することによって冷却効果を広範囲に行き渡らせることもできます。

都市緑化

都市の建物においても緑を増やす取り組み、いわゆる「都市緑化」が積極的に進められています。緑地帯の整備に加えて、ビルの壁面を緑化する「壁面緑化」や屋上を緑化する「屋上緑化」がヒートアイランド現象を緩和させるものとして採用されています。

緑地の整備や都市緑化による冷却効果をより広範囲におよばせるためには、風の通り道を確保することが重要です。地域に流れる風の流れを把握し、その流れを妨げないように建物を配置したり、オープンスペースを確保することが必要となります。

国土交通省では「風の道」を含むヒートアイランド対策の資料として「ヒートアイランド現象緩和に向けた都市づくりガイドライン」を2013年にとりまとめています。

海外での事例

ヒートアイランド現象は海外の主要都市においても問題となっており、緑化を中心としたさまざまな取り組みが進められています。代表的ないくつかの取り組みを見てみましょう。

屋上緑化推進制度(アメリカ、カナダ、ドイツ、オーストリア、スイス)

屋上緑化はヒートアイランド対策の有効な手段として多くの国や都市において積極的に導入されています。施策としては補助金の交付が多く、一部の国では流出雨水処理費用割引や床面積の緩和といった優遇策も採用されています。

また、一定規模の開発においては「緑地割合規制」と組み合わせて緑化が義務付けられている場合もあります。

流出雨水処理料金割引(アメリカ、ドイツ)

コンクリートなどの人工被覆に覆われていると、降った雨がそのまま雨水管や下水管に流れ込みます。この「流出雨水」の量が多いと、排水能力が追いつかずにはん濫が発生する恐れがあります。

そこで「流出雨水」を抑制するため、浸透面を増やすことで日本の下水道料金に該当する排水処理料金を割り引く制度が設けられています。屋上緑化や浸透性の高い敷石舗装、または駐車場や敷地内の一角に少し低くした浸透性の高い緑地「レインガーデン」を作るといった手法が採られています。

土地の浸透面を増加させることは緑地を増やすことでもあり、ヒートアイランド現象の緩和にも効果があるとされています。

緑地割合規制(アメリカ、ドイツ、スウェーデン)

土地開発の際に、緑の被覆面の割合の基準を定める制度です。具体的な規制内容は国によって異なりますが、土地利用のタイプにより土地の被覆の種類(植生の有無、浸透性の程度など)の割合を定めるという制度が一般的です。

可能な限り緑地を増やすことはヒートアイランド対策となるほか、そこで暮らす人々にとっての快適性を向上させたり、生物多様性を確保することにもつながります。

気候に配慮した都市計画(ドイツ、中国、韓国)

都市計画を立案する際に、現況の気候環境によって風の通り道や空気の流れの確保などを考慮した都市構造を目指すものです。

風通りの良い都市構造は都市内の暑熱を緩和し、ヒートアイランド対策として有効です。例えば過密都市の香港では都市計画の際に風の循環を考慮し、建物の高さや配置を検討する際に風の通り道が確保されているかどうかを勘案しています。

過去の東京は夕方になると東京湾からの海風が内陸に入り、海のひんやりとした空気を運びました。しかし、湾岸部や比較的海に近い場所に高層ビルが建ち並んだため、海風が内陸へ入りにくくなってヒートアイランド現象がより大きくなったと考えられています。

縮小都市計画(ドイツ)

先進国では、多くの国が少子高齢化による人口減少・流出などに直面しています。人口減少にともなう都市の縮小に対応するための政策として、縮小都市計画を策定して実行している国もあります。

例えばドイツでは、計画的に環境回復を進めながら都市を縮小する施策が採用されており、不要な建築物を撤去してオープンスペースとして緑化するなど、建物を低密度化させることでヒートアイランド現象の緩和も同時に実施しています。

建築物評価制度(アメリカ)

ビルなどの建築物の環境負荷低減を目的とした認定制度です。アメリカで実施されている制度には、動植物の生息地やオープンスペースの確保、流出雨水管理、屋上緑化、排熱抑制などが含まれており、ヒートアイランド対策も考慮した内容となっています。

また環境負荷低減だけでなく、そのビルで働く労働者や居住者の快適性、さらには地域住民の利益への貢献も目指しており、ビルの価値向上にも寄与しています。

クールルーフ推進制度(アメリカ)

「クールルーフ」とは、太陽の反射率および太陽熱の放射率が高い明るい色を採用した屋根です。太陽光と太陽熱を反射させることで家のなかの温度上昇を抑えて涼しくする効果が期待できます。屋上緑化と同様に補助金が交付される制度も導入されています。

 

年々厳しさを増す大都市の夏。その暑さを少しでも和らげ、熱中症によって亡くなるような事態を防ぐためにも、ヒートアイランド現象への対策が強化されることを望みます。敷地内の緑化や屋上緑化・壁面緑化など、できることから実行していきましょう。