日本のシングルマザーの貧困率が突出して高い理由
中国に国内総生産(GDP)で抜かれたとはいえ、日本はいまだに世界第三位を維持している経済大国です。G7(先進七ヵ国)にも選ばれているように、世界が認める先進国であると言えるでしょう。
しかし、日本の家庭のうち、一人親世帯に絞って状況を見てみると、驚くべきことが分かります。
厚生労働省が2016年度に実施した「全国ひとり親世帯等調査」によれば、
- 母子家庭は123万2000世帯
- 父子家庭は18万7000世帯
と、合計で約142万世帯の一人親世帯が存在していますが、そのなかで、親が仕事で稼いでいる世帯の相対的貧困率を見てみると、その数値は54.6%しかありません。ほかの先進国と比べても頭一つ抜けているのです。
世界が認める先進国であるにもかかわらず、なぜこんなにも一人親世代の貧困率が高いのでしょうか。
シングルマザーの厳しい現状
全国ひとり親世帯等調査によると、母子家庭123万2000のうち81.8%が仕事をしているという結果でした。
しかし、その内訳は
- 正規の職員・従業員が44.2%
- 派遣社員が4.6%
- パート・アルバイトが43.8%
- 自営業が3.4%
- その他が4.0%
で、パート・アルバイト・派遣社員など非正規雇用が48.4%と半数近い割合になっています。また、母子家庭の母親のみの平均年収は243万円、世帯全体でも348万円にとどまる結果となりました。
日本の世帯全体における平均所得は545万4000円、子を持つ世帯に絞れば707万6000円であることから考えても、いかに母子家庭の年収が低いのかが分かるでしょう。
父子家庭と比べた場合、就業率は85.4%と母子家庭とそこまで違いはないが、仕事の内容は
- 正規の職員・従業員が68.2%
- 派遣社員が1.4%
- パート・アルバイトが6.4%
- 自営業が18.2%
- その他が5.8%
と非正規雇用の割合が圧倒的に低いため、母子家庭と比べて収入は安定していると言えるでしょう。やはり、男性と女性とでは大きな差があると言わざるを得ないのです。
「女性の場合、離婚した元夫から養育費をもらえるのでは」と思う人もいるでしょう。しかし、そもそも養育費自体をもらえていない人も多く、約58%の家庭では最初から養育費の取り決めを行っていません。
養育費をもらっている世帯でも平均で4万3707円ほどしか支払われておらず、男女間の収入の差を埋めるにはあまりにも少ない額です。
なぜ生活が厳しくなるのか
シングルマザーの生活が困窮であることの理由に収入の低さを挙げましたが、ほかにも原因は考えられます。そのなかに
- ベビーシッター文化があまり普及していない
- シングルマザーでは昇級しづらい
という点があります。
ベビーシッター文化が浸透していない理由
ベビーシッターを雇用しない理由として、そもそもベビーシッターという制度を知らないという人もいるかもしれませんが、最も大きな要因は雇用するための価格が高額であるという部分でしょう。
ピンからキリまでありますが、ベビーシッターの利用料金はだいたい一時間で1000円~4000円ほど。そこに交通費・雑費が加算されます。
一時間2000円と仮定して、平日の9時から17時まで(8時間)を5日間利用した場合、一ヶ月で35万2000円かかる計算となります。年間に直すと422万4000円。これは、母子家庭の平均年収を大きく上回る金額です。
共働き世帯がお願いしたとしても、この金額は生活を圧迫しかねません。
また、ベビーシッターをお願いするには一週間以上前に予約をしなければならないため、突然子どもの面倒を見て欲しくなった場合などにも使えないというのが現状です。
この状況を打破するために、
- 待機児童の家庭限定でベビーシッターの利用料金のほとんどを補助する制度
- 企業が専属のベビーシッターを雇って会社内で面倒を見るサービス
など、さまざまな支援活動が行われています。
ベビーシッターに対するイメージの壁
ただ、費用面が解決したからといって、利用する人はあまり増えないとも考えられています。
海外では、そこまで裕福ではない家庭でも世話係(メイド・ベビーシッターなど)を雇う文化が浸透してきています。世話係を雇えば、できる仕事の範囲は大幅に増えるでしょう。
しかし、日本の母親の思考は異なっています。自分がいない間に、ベビーシッターという「他人」が子どもの世話をしたり保育園に迎えに行ったりする、ということに抵抗を感じる人が多いのです。
昇級しづらい仕事環境
日本企業の働き方にもシングルマザーの生活を貧困にさせる原因の一つとなっています。
日本の企業は一般的に、就労時間は午前9時から午後5時までで、オフィスへと出社して仕事をします。また、仕事終わりに飲み会が開かれてコミュニケーションを取ることもしばしば。
シングルマザーは上記のような働き方をするのは時間的にも体力的にも相当難しいです。
小さな子どもを持つ母親の場合、午前9時の就労開始時間に間に合わせるためには、午前6時には起床して
- 幼稚園・保育園へと子どもを送る準備
- お弁当の準備
- 朝食の準備
を完了させてから、急いでスーツに着替えて会社に向かいます。
保育園へのお迎え時間に間に合わせるためには定時前に退社しなくてはならず、夜に急遽会議が開かれても参加はできず、飲み会があったとしても参加できるはずがありません。
このように、フルタイムで働くことができず同僚・上司とのコミュニケーションも取りづらいため、昇級することはあまりなく、ボーナスをもらえないということもあるのです。
働き方改革で変化も?
働き方改革が進められたことで、企業の状況もだんだんと変わりつつあります。
フレックスタイム制を導入したりリモートワークの勤務形態をとったりする企業が増えてきているのです。また、さまざまなチャットツールも増えてきているため、必ずしも全員がオフィスに集まる必要性はありません。
シングルマザーが貧困を抱えていると、その子どもも貧困を抜け出せず、最終的には日本の国内総生産が低下する恐れもあります。一人親世帯が増えている現状、早急に打開策を見つけていかなければなりません。