SDGs・サステナビリティ紛争鉱物とは?調査の実態と国内外の動向

紛争鉱物とは?調査の実態と国内外の動向

毎日の生活に欠かせないスマホなどの製品には、多くの鉱物・レアメタルが含まれています。しかし、それらの鉱物の中にはアフリカを始めとする最貧国の住人の生活を犠牲にして得られたものも多くあります。

紛争鉱物とは

紛争鉱物(3TG)の定義

私たちが使うスマートフォンやパソコンなどの電子機器の中には多くの鉱物が含まれていますが、それらの鉱物資源の中には、アフリカ諸国などの紛争地域で採掘されて、武装勢力の維持につながっているものがあります。

紛争地域の採掘現場においては殺害や暴行などが頻発し、過酷な労働条件による人権侵害も広がっています。さらに、採掘された鉱物は、その出所が把握されづらいように複雑なルートを経て国外に売られています。

上記の鉱物が「紛争鉱物(conflict minerals)」と呼ばれ、その対象は「3TG」と総称されるタンタル(Tantal)、スズ(Tin)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)となっています
アメリカの金融規制改革法(ドッド・フランク法)によるもので、付随する定義は国や機関によって異なる。

紛争鉱物は何に使われている?

ところで、これらの紛争鉱物の対象となる鉱物はどのような用途に使われているのでしょう?
生活に身近なところで一部をリストアップすると

  • タンタル(Tantal):カメラ、携帯電話、パソコン
  • スズ(Tin):はんだの製造やメッキ、液晶ディスプレイ(インジウムとの酸化物)
  • タングステン(Tungsten):指輪などのアクセサリの素材、電球のフィラメント
  • 金(Gold):集積回路、宇宙服のバイザー、リウマチ治療(化合物としての金製剤)
など、かなり幅広い分野で活用されていることが分かります。

 

なぜ紛争鉱物は注目を集めたのか

紛争鉱物が注目された背景

コンゴ民主共和国(DRC)やその周辺国などの主にアフリカ諸国においては、鉱物資源の輸出によって獲得された外貨の一部が武装勢力に渡っています。

また、これらの地域では武装勢力により、労働者だけでなく一般市民に対しても、人権侵害を始めとする非人道的な行為、さらには環境破壊や不正が行われています。

そこで、紛争地域への資金流出やサプライチェーンにおける人権の侵害等を防ぐために、国際的なルールの策定が求められるようになりました。

ダイヤモンドがきっかけ

最初に紛争鉱物として知られるようになったのはダイヤモンドです。1990年代から西アフリカのシエラレオネ等で内乱・紛争が起こり、この資金源としてダイヤモンドが利用されました。

このダイヤモンドは「紛争ダイヤモンド」あるいは「血塗られたダイヤモンド」とも呼ばれ、2002年には取引を規制・管理するための国連による「キンバリープロセス認証制度(KPCS)」の採択、2006年には紛争ダイヤモンドを題材とする映画「ブラッド・ダイヤモンド」の公開による認知の広がりを経て、今ではジュエリーの購入などを通じて一般的にも馴染みのある言葉になっています。

アンジェリーナ・ジョリーが贈られた指輪は、この「キンバリープロセス」の認証を経た「コンフリクトフリー・ ダイヤ」だったことも記憶に新しいところです。

コンゴ民主共和国の歴史的経緯

紛争鉱物の産地として最もよく知られているコンゴ民主共和国では、長い間、内戦が続いています。

1960年の独立後すぐのコンゴ動乱、1996年からの第一次コンゴ戦争・第二次コンゴ戦争を経て、一時は終結したとされたものの、実際には紛争が絶え間なく続き、この20年間で約600万人の命が失われたとされています。

コンゴは、コバルトやダイヤモンド、金など、世界有数の資源産出国です。ここで産出された資源は、スマートフォンや他の電子機器など工業製品の原料となり、私たちの生活を支えています。

しかし、紛争勢力が村を襲撃することにより市民を過酷な労働条件で鉱物採掘にあたらせていたり、性暴力や虐待などの人権侵害も行われおり、この貿易で得られた資金の多くは紛争ための資金に流れています。そのため、これだけの資源の産出国でありながら、コンゴは国連開発計画(UNDP)が発表する人間開発指数(HDI)で189ヵ国中の176位と、いまだに貧困から抜け出せずにいます。

紛争鉱物の調達に対する規制 〜ドッド・フランク法〜

上記のコンゴ民主共和国の歴史的経緯、OECD(経済協力開発機構)による紛争への関与の回避に関する要請がきっかけとなり、2010年7月に金融規制改革法(ドッド・フランク法)が成立しました。
OECD多国籍企業行動指針の関連文書として、産業分野別ガイダンス「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」(紛争鉱物ガイドライン)がある。

リーマン・ショックを受けて策定された、金融システムの安定化や規制強化・消費者の保護を目的とするこのドッド・フランク法1502条において、紛争鉱物への規制が始まります。

具体的には、紛争鉱物を、コンゴ民主共和国およびその周辺諸国で採掘され、紛争勢力の資金源となっている可能性があるタンタル、スズ、タングステン、金(これらをまとめて「3TG」と呼ぶ)と定義し、これらを原料とする製品の製造(委託製造も含む)を行っているか否か、上場企業に対して、ホームページで情報を開示したうえで米国証券取引委員会(SEC)に報告する義務が課せられました。

サプライチェーンの上流に位置する原料調達について確認を行い、紛争に加担していない(関与していないこと)ことが認められると、「DRCコンフリクト・フリー」となります。

このサプライチェーンを最上流まで辿ることには困難がともなうため、2017年現在、アメリカ企業のうちで3TGの原産地を把握できた割合は約50%にとどまっていますが、コンフリクト・フリーの鉱物にはタグが発行され、取引所や製錬所の積極的な取り組みもあり、紛争鉱物の流通の歯止めに一定の効果が見られています
このほかに、コンフリクト・フリーの鉱山から直接鉱物を購入したり、現地住民を支援する取り組みも進んでいる。

 

世界各国で行われる紛争鉱物調査

実際に何を調査するのか

ドッド・フランク法における紛争鉱物調査は3つのステップに分かれています。

  • ステップ1:自社の製品や製品製造機能に3TG(あるいは3TGに由来するもの)が必要かどうか。必要の場合はステップ2へ。不必要の場合は調査終了となり、開示義務も発生せず。
  • ステップ2:原産国調査を行い、コンゴ民主共和国またはその周辺国からの産出と判明した場合(リサイクルでない場合)には、米証券取引委員会の書式で情報を開示する。
  • ステップ3:ステップ2による調査で紛争鉱物の使用が判明した場合、デューデリジェンスおよび監査を実施し、毎年その情報を開示する。また、米証券取引委員会へ紛争鉱物報告書の提出義務も発生する。

一般的な調査においてはEICC(RBA)が作成しているテンプレートシートを使用することが多く、このシートに

・3TGを製造に使用しているか否か
・3TGの原産地がコンゴやその隣接国であるか否か
・自社あるいはサプライヤーが使用している3TGについて供給元を全て特定しているか否か

等を記入することになります。

紛争鉱物調査の今後の課題

規制が整備されて間もないこともあり、まだ精錬所の具体的な明記ができていない、調査にかかるコストや機密保持契約を理由として調査に非協力的な企業が多い、などの課題も山積。

さらに、一定の効果をあげているとされる紛争鉱物に対する規制ですが、一方では産出国の暴力事件等による犠牲者が増加するなど、状況を悪化させている現状もあります。

ドッド・フランク法1502条の制定後にコンゴのカビラ大統が紛争地域からの鉱物の輸出を停止したことで、鉱山での労働者やその周辺領域ビジネスを行う住民の生活環境が悪化、さらには収益源を絶たれた武装集団が住民から略奪を行うなど、さらに状況は苦しくなっています。

事前の議論における懸念が現実になってしまったことを受け、米証券取引委員会(SEC)は、ドッド・フランク法第1502条の法改正を視野に入れ、パブリックコメントの受付などの動きを進めています。

広い範囲での規制を行うEU法案

規制範囲を比較的明確に定めるアメリカのドッド・フランク法第1502条に対し、対象鉱物・地域の幅を大幅に拡大したのがEUによる規制です。

2010年7月のドッド・フランク法の成立から3ヵ月後の10月に欧州議会で紛争鉱物に関する決議が採択がなされたことで検討が始まり、2015年に法案が可決。2016年11月には欧州議会・欧州委員会・EU理事会がEUにおける規制内容に合意しました。

この規制は3TGだけでなく全ての鉱物を対象にし、範囲においても世界の紛争地域・高リスク地域が指定されました。これにより、輸入業者は当局、原材料の供給先に対して情報開示が義務付けられました

責任ある鉱物イニシアチブとは

国際機関だけでなく、民間企業が主導する取り組みも進んでいます。責任ある企業同盟(RBA)による、世界の自動車関連企業やIT企業が参加する「責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)」は、OECDの「紛争鉱物ガイドライン」を参考に、3TGの第三者監査サービスやデューデリジェンスシステム、紛争鉱物報告に関する情報管理ツール(CMRT)の拡充など、様々なチャレンジを行っています。

 

紛争鉱物についての取り組み

日本では紛争鉱物の規制に関する法律は制定されていません。しかし、国際的な規制やイニシアチブの制定を受け、大手企業を中心に取り組みが行われています。

コニカミノルタ

コニカミノルタでは、原材料の調達先を含む取引先を「事業活動に不可欠なパートナー」として明確に位置付け、人権の尊重と持続可能な社会の構築のために「コニカミノルタ調達方針」を定め、代表取締役社長とコーポレート・事業部門の間にグループ内部環境監査委員会およびグループ環境責任者会議を設置するなど、グループ全体でCSR調達を推進しています。

企業(組織)の決定および活動が社会や環境に及ぼす影響に対して透明かつ倫理的な行動を通じて企業(組織)が担う責任。

三菱マテリアル

金、銀、すずの地金の製造を行う三菱マテリアル金属事業カンパニーは、「責任ある鉱物調達方針」を定め、外部ガイダンスや上記の「責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)」に沿った運用を行っています。

さらに加工事業カンパニー所管の日本新金属(株)においては、中国の調達先製錬会社に対して外部認証取得のサポートを行い、また、自社でも「紛争鉱物マネジメント方針」を定めています。

 

私たち消費者は、ただ紛争地域の状況を眺めていたり、国が定める法律によって無条件で安全な商品を得られるという認識からは一歩踏み出す必要があるでしょう。

「消費者の義務」として、自分が使っている製品が巡り巡って誰かの生活を苦しめることになっていないか、常にアンテナを張って行動しましょう。