エネルギーの地産地消
地域で生産された農作物を地域内で消費することを地産地消といい、消費者と生産者の結び付きを強くする取り組みとして全国的に広がりを見せています。
これに対して、各地域に必要なエネルギーをその地域内のエネルギー資源で供給していく「エネルギーの地産地消」についても、近年期待が高まりつつあります。
エネルギーの地産地消によるメリット
経済効果への期待
2016年に発表されたデータでは、日本のエネルギー自給率は約6%しかありませんでした。国内で使用している化石燃料の実に約88%が海外に依存しているのです。これは、金額にすると年間約20兆円もの費用となります。
つまり、現在輸入に頼っている電力を全て国内のエネルギーで生み出すことができれば、国外へと流れていた約20兆円を削減できるため、地域経済の活性化につながります。
電力ロスの軽減
もともと電力には、発電所と使用する場所の距離が長くなればなるほど送電時にロスが発生しやすく、無駄に電力が消費されてしまうという欠点があります。そのため、地域内の自然エネルギー(再生可能エネルギー)を用いて作られた電力をその地域で消費できれば、エネルギー効率は格段に上がります。
環境保護
エネルギーの地産地消を推進することは再生可能エネルギーの普及にもなるため、化石燃料の使用率低下にもつながります。結果、二酸化炭素の排出量は軽減され、環境保護の効果にも期待ができます。
再生可能エネルギーのデメリット|解決策とメリットも詳しく解説!問題点と解決策
上述したように、エネルギーの地産地消にはさまざまなメリットがあるものの、問題点もまだまだ残されています。
インバランスが発生しやすい
新電力会社は経済産業省の決定により、30分定期で電力の需要量と供給量の差をプラスマイナス3%以内にとどめることを義務付けられています。そのため、電力需要のバランスを24時間監視し続け、必要とあれば発電所の出力を制御しなければなりません。
もし、新電力会社の供給する電力が各家庭の需要量を下回ってしまった場合、一般電気事業主が必要な電力を変わりに供給する必要が出てきます。その対価として新電力会社が電気事業主に対して支払わなければならないのがインバランスリスク(インバランス料金)です。
つまり、発電規模が小さく、天候の影響を受けやすく不安定な再生可能エネルギーを主とする新電力会社では、
- ピーク時に必要となる電力を確保するためにはどうするか
- 余剰エネルギーを有効的に使うためにどう管理していくか
が課題となってくるでしょう。
マイクログリッドによる解決策
エネルギーの地産地消が抱えている問題の解決策として、近年注目を集めているのが「マイクログリッド」です。
マイクログリッドとは、地域コミュニティ内で太陽光発電を含む再生可能エネルギーによって発電を行う複数の小規模発電所が、必要に応じてお互いに電力を供給し合うことで電力供給のバランスを制御するために生まれたシステムです。
これによって、
- ピーク時に必要となる電力確保が容易になる
- 余剰エネルギーを有効的に活用できるようになる
ため、上述した課題は解消することができ、再生可能エネルギーを用いた発電所のさらなる導入へと期待が持てます。
また、沖縄電力では2012年、マイクログリッドの実証実験を人口5万5000人の宮古島で行い、発電量が不安定な再生可能エネルギーを大量に導入したとしても、蓄電池を有効活用できれば電力供給は安定化するということを見事に実証しました。
この結果は、マイクログリッドを構築することでエネルギーの地産地消の問題点は克服できるという可能性を示していると言えるでしょう。
海外での事例
海外で行われているエネルギーの地産地消事例を紹介していきます。
オーストリアのギュッシング市
もともと、人口4000人の小さな町であるオーストリアのギュッシング市では、電車は走っておらず高速道路もない非常に貧しい地域でした。また、使用する電力のほとんどを市外から購入した化石燃料でまかなっていました。
これを、地域の資源で何とかできないかと考え、市長が目を付けたのは豊かな森林資源。1992年には木質バイオマスを中心とした再生可能エネルギーの利用を開始し、化石燃料に頼った発電から脱却します。
2005年には、市内のほとんどのエネルギーを再生可能エネルギーで供給できるようになり、化石燃料の費用として620万ユーロを市外に流出させていた1991年に対して、2005年には1300万ユーロもの金額が市内で循環するようになりました。
また、低コストな発電方法と研究に適した環境によって多くの企業がギュッシング市に参入。それによって市の税収は3倍に増加し、新規雇用の数も1100件以上生まれました。
エネルギーの地産地消によって経済発展と人口増加を実現させたのです。
ドイツのシュタットベルケ
エネルギーの地産地消のモデルとしてよく名前が挙がるものにドイツの「シュタットベルケ」があります。シュタットベルケとは、地方自治体が主体となり、電気・ガス・熱などのエネルギー供給をはじめ、
- 上水道・下水道
- 廃棄物処理
- 清掃
- 通信業
- 公共交通機関
など、さまざまな地域サービスを提供している事業のことです。また、2016年の12月時点で1458社存在し、総売上は1150億ユーロにもなります。
シュタットベルケで行われる発電方法は、主にコージェネレーションを利用した熱電併給が用いられ、自営電力線と自営導管によって供給が行われています。
熱電併給が用いられる理由としては、日本よりも緯度が高く暖房の需要が多い点にあるでしょう。
また、エネルギー資源に使われているのは、
- 天然ガスが40%
- 石炭が40%
- 再生可能エネルギーが17%
です。
環境面を考えると少し物足りなさはあるかもしれませんが、
- 地域サービスの充実
- 余剰電力は売却し不足分は近隣地域から購入するというシステムの構築
はマイクログリッドという面で見れば大きな成功であると言えるでしょう。
再生可能エネルギーの導入と省エネを推進する動きが高まりつつあるいま、農作物の地産地消に目を向けるだけでなく、エネルギーの地産地消によって地元地域の活性化へとつなげていきたいところです。