社会生活保護の見直しは生活保護世帯にどのような影響を与えるか

生活保護の見直しは生活保護世帯にどのような影響を与えるか

日本政府は2018年の10月より生活保護基準の見直しを行うと発表しましたが、これによって生活保護世帯にどのような影響を与えるのでしょうか。

生活保護基準が見直される?

生活保護基準が見直される?

生活保護制度では、生活保護を受けている世帯と受けていない世帯(主に低所得世帯)の均衡を保つため、5年ごとに生活保護基準額の見直しを実施しています。

2013年度には、

  • 生活扶助基準額
  • 住宅扶助基準額
  • 冬季加算

の見直しが行われています。

生活扶助基準額の見直し

生活扶助とは、洋服や食事などの日常生活を行ううえで必要となる費用を補助するために支給されるもので、0歳児も高齢者も一律の額が支給されていたため、

  • 年齢
  • 世帯の人数
  • 居住している地域

によって支払われる金額を調整しました。

住宅扶助基準額の見直し

住宅扶助とは、居住のために必要な敷金・礼金と毎月支払う家賃を補助するために支給されるもので、低所得世帯の家賃と比較して差が生じないよう見直されました。

また、住宅の床面積の広さを新たな基準として加えたことで貧困ビジネスの撲滅につながるとも言われています。

しかし、これによって住宅扶助基準額は大幅に削減。生活保護世帯のうち約3割の44万世帯が家賃を下回り、転居を迫られることとなりました。生活保護受給者の住宅探しはこれまで以上に困難になることが予想されます。

貧困ビジネス
小さな一つの部屋に受給者数人を同居させ、住宅扶助の限度額ぎりぎりの家賃を請求する悪質なビジネスのこと

冬季加算の見直し

冬季加算とは、冬場に必要となる暖房・灯油の費用を対処すべく加算される金額のことです。しかし、多くの地域において冬季加算額が低所得世帯の光熱費増加費用を上回っていたとして、冬季加算額は大幅に削減されました。

2013年度の見直しではさまざまな分野で受給額の削減が行われましたが、2018年度の見直しではどうなるのでしょうか。以下より具体的な削減の内容を見ていきます。

 

2018年度の主な見直し内容

2018年度の主な見直し内容

2018年度の見直しでは、低所得世帯の中でも最も低い所得階層である「第1十分位層(全世帯を10層に区切った際の一番下の層)」の生活水準と生活保護世帯の生活水準を合わせる、という考えに基づいて行われました。

日本では生活保護を受給できるにもかかわらず利用していない人が多く、捕捉率は二割を下回ると言われています。そのため、第1十分位層の中には生活保護基準以下で生活をしている人も多く含んでいます。

そのため、この層に合わせようとすると、生活保護世帯の生活水準は大きく引き下がることとなります。

捕捉率
生活保護の受給条件を満たしている人のうち、実際に受給している人の割合

生活扶助の減額

2013年の見直しで6.5%が減額された生活扶助ですが、2018年の見直しでも3年かけて段階的に支給額を減らしていくとしており、その削減額は160億円にもなると言われています。

受給者の年齢・世帯数・居住地域によっても変わりますが、原則として減額幅が5%を超える場合は一律で5%の減額となります。

母子加算の減額

ひとり親世帯とふたり親世帯の生活水準を同等にするために加算される「母子加算」についても、平均月21000円だったものが見直しによって17000円に引き下げられました。約20%の削減となります。

こちらも3年をかけて段階的に実施していき、最終的には20億円ほど削減される想定です。

児童養育加算の減額

「児童養育加算」とは、生活保護世帯の子どもが一般家庭の子どもと同様に成長していくために必要な費用を加算するという制度で、

・三歳児未満は毎月15000円
・三歳児以降は中学生まで毎月10000円

が支給されていました。

ただし、見直しによって三歳児未満も一律10000円の支給に変更されたものの、期間は高校生までに延長されています。

学習支援費の減額

クラブ活動や家庭学習にかかる費用を補助する「学習支援費」も削減されました。もともと一律で支給されていましたが精算払いでの支給に変更されました。また、家庭学習で使用する参考書・筆記用具への支援はなくなり、支援対象はクラブ活動のみに限定されます。

ただし、一律支給では年額61800円であったのに対して精算払いでの支給額は年額83000円へと増加。入学準備金に関しても63200円から86000円へと増加しています。

 

見直しによって影響の出る制度

見直しによって影響の出る制度

生活保護基準が下がることで、生活保護基準額を目安に定められていた制度にも影響が出てしまいます。

  • 就学援助…生活保護基準額の1倍~1.3倍の収入を持つ世帯が利用できる制度で、小中学校へ進学させるために必要な費用を補助するというもの
  • 生活福祉資金…生活保護基準額の1.8倍以下の収入を持つ世帯が利用できる制度で、低所得者・高齢者・障害者の生活を支えることを目的としている

また、住民税非課税世帯の基準も下がるため、課税されてしまう人が出てきます。これにより、

  • 高額医療制度の負担限度額
  • 障害福祉サービスの利用料
  • 介護保険の負担限度額

などの負担も大きくなってしまいます。

 

生活保護世帯の数はいまや164万世帯で212万人を超えるとも言われています(2017年時点)。また、その半数が一人暮らしの高齢者です。年金が未加入の人や受け取ってはいるものの低年金である人も少なくありません。

本当に生活保護を必要としている人が十分な支援を受けられるようにするためには、生活保護世帯の生活水準の早急な向上と生活保護制度の充実・不正受給者の完全な排除が求められています。