環境フードバンクと行政の関わり方

フードバンクと行政の関わり方

フードバンク活動においては、その中核となる団体と行政や社会福祉協議会・各施設の間での密接な連携が必要とされます。双方の方向性をすり合わせるためには、まず、フードバンク団体が活動する目的やメリットをお互いがしっかりと理解し合うこと。これが最初のアクションとなります。

フードバンクの類型

フードバンクの類型
前記事(「フードバンクとは」)ではフードバンクが解決する課題について説明しましたが、フードバンク団体の最大手「セカンドハーベスト・ジャパン」は、農山漁村6次産業化対策事業に関連する報告書の中で、フードバンク団体の活動目的と活動方法をそれぞれ三つに区分しています。

活動目的による分類

食品廃棄物の抑制型

食品ロス(食品の廃棄)をいかに減らしていくか、という観点から設立されたもの。食品の調達は比較的容易になるが、提供される食品には保管や管理が難しいものが多く含まれていることもあり、他方では施設等の提供先の安定確保も課題としていることが多くあります。

生活困窮者の救済型

路上での生活を強いられ、または低所得におちいっている人を支援することを主な目的としたもの。恒常的な支援が必要となるために提供量を維持することが課題となっています。また、一つ目の廃棄物の抑制型と同じく食品の管理も難しくなっています。

地域の活性化型

食品の提供を通してコミュニティーを生み出したり地域活性化を図ったりすることを目的としたもの。フードバンクの活動以外に収益事業を行っていることが多く、これによる収益を食品の安全な管理に充てているケースが見られます。

MEMO
しかし、収益事業による収益をフードバンクの活動に対して適用する際には制約が発生する場合がある

活動方法による分類

行政協働型

食品を必要な箇所に必要な分だけ届ける、この作業は容易ではありません。施設だけでなく、そこに入っていない世帯や子どもの存在も把握する必要があるからです。行政と積極的に連携を取ることによって、迅速かつ的確な支援が可能となります。フードドライブの際には特に行政等との連携が必要になります。

フードバンクにボランティアとして協力できること フードバンクにボランティアとして協力できること

さらに、行政との関係が深まるにつれて、食品分野だけでない支援の可能性も生まれます。

福祉補完型

食品を施設などに提供することで、行政協働型では法的にカバーしきれない支援を行うものです。形式上ではない、その土地に根ざした地域コミュニティーや社会資本の構築が期待されています。

収益事業展開型

あくまで許可を得た食材に限り、食事の提供を行うにあたって一部費用の支払いをうけるものです。調理と一体になっているため支援をうける側にも安心感が生まれ、さらには食材の提供者にとっても用途が分かるメリットがあります。

続けることが目的になる危険性

目の前に確固として存在する大きな社会問題を解決するために行われているフードバンク。しかし、食品の保管には固定費が発生し、食品の送付には金銭的・環境的な輸送コストも加わってしまいます。

食品の廃棄や貧困問題はそれ自体が大きなインパクトを持つために注目されやすいものの、実際の活動が多くの苦難をともなっている現実はあまり伝えられていません。

「人助け」が一種の高揚感を生んでしまい、社会問題を解決することではなく続けること自体が目的になっているケースも多いという意見もあるため、社会全体としてフードバンクの活動をどのように評価し、いかにして基盤を整えていくかという議論が待たれています。

フードバンクをうける・協力する前に知っておくべき基礎知識 フードバンクをうける・協力する前に知っておくべき基礎知識

 

国内におけるフードバンクの立ち後れの原因

国内におけるフードバンクの立ち後れの原因
フードバンクが外国で大きく発展している理由の一つに税制があります。日本で2002年にフードバンクが生まれた時点からさかのぼること26年、アメリカでは1976年に税法の改正が行われ、食品を提供した法人の税金の緩和が始まったことでフードバンクが拡大しました。そして、この流れはすぐにヨーロッパに伝わることとなります。

日本においても、NPO法人として認定されているフードバンク団体に寄付を行う場合には寄付金控除が受けられるなどの優遇措置が取られています。

しかし、まだ日本でのフードバンクの普及は十分とは言えず、この取り組みでの年間の取扱量は約6,000トン程度にとどまっています。これは、国内で発生している食品ロスの1%にも遠く及びません。

日本国内におけるフードバンクの浸透が遅れている理由の一つとしては、前記事で説明した「食品ロス問題」と「貧困問題」に関する理解の不足が考えられています。

フードバンクとは フードバンクとは

 

外国におけるフードバンク

外国におけるフードバンク
さらに一歩踏み込んで、今後のフードバンクの発展を考えるにあたっては税制を含めた国際的な潮流についても参考にすべきでしょう。この分野で先を行くアメリカを軸に、外国における環境から特筆すべき点を俯瞰してみましょう。

予算・行政機関の支援

日本においては行われていない国としての支援ですが、外国においてはスタンダードなものとなっています。特にアメリカにおいては予算・税制におけるバックアップ体制が整っており、法人が積極的にフードバンクに参加しやすい環境ができています。

アメリカでは農務省が予算を確保しており、その額は約5,100万ドル(2014年度)。ここから、助成金による支援や買い取った余剰生産物のフードバンクへの提供が行われます。

国が支援を行わない代わりに、その役割を地方自治体が果たす場合もあります。イギリスにおいては、一部の地方自治体が独自にフードバンクに対して活動のための資金援助を行っています。

CHECK
国としての正式な下支えのない日本において、フードバンク団体のほとんどはNPOであり、その年間予算の多くは数百万円程度。最大手のセカンドハーベスト・ジャパンでも一億円程度となっている。また、日本でも形式上の助成金の提供は行われているが、用途の制限や自由度の少なさもあり、有効的に活用がなされていないのが現状である

税制

寄付文化が定着しているアメリカにおいては、米国歳入法によって、寄付を行った個人・団体だけでなく受益者である非営利団体においても所得税が免除されるようになっています。

なお、税制については日本でもNPO法人および認定NPO法人(個人については認定NPO法人)に寄付をした際に寄付金の控除がうけられます。

関連法案

アメリカにおいては、提供された食品による不慮の事故が発生したときに、それが重大な過失である場合を除いて提供者に責任を負わせない旨を定めた法律が存在します。

さらに、特定の食品かつ一定の法律を満たしたものに関しては賞味期限を過ぎても提供が可能とされており、これはオーストラリアでも同様です(食用に適している場合に限る)。

MEMO
日本においても「食品ロス削減推進PT(プロジェクトチーム)」においてフードバンク活動の法制度化に向けた動きが発生している

 

フードバンクのメリット

フードバンクのメリット
フードバンクによって、食品の提供者や受益者に加えて行政に対してもメリットが生まれます。

食品の提供者

廃棄費用が削減できる

食品の廃棄には多くの費用が発生します。「廃棄費用」といっても、直接的に廃棄にかかる費用のみでなく、廃棄のための分別のコスト、消費されない商品の製造に使われた食材や製造にかかった人的コストを全て考えると、その損失は莫大です。これらを捨てるのではなく、食品が持つ「人生」を全うさせることには意義があるでしょう。

従業員のモチベーションを維持できる

自社の商品が食べられずに捨てられる。仕方のないことだと言葉で理解していても、この現実を直視できない従業員もいます。自分が製造に携わった食品がしっかりと人に届けられる。この実現による会社への効果は無視できません。

CSRの活動の一環となる

自社の製品を生活困窮者の支援のために提供することは、企業の社会的責任の一つと考えることができるでしょう。また同時に、サンプルの提供を通じた製品開発上のマーケティングに適用できる可能性もあります。

MEMO
食品卸業者においてはメーカーから多くのサンプル品が支給されるが、全てを配りきれずに余るケースがある

受益者(食品を受け取る人)

食費の節約になる

施設や団体にとって、食事にかかる費用が抑えられることは大きな意味を持ちます。例えば児童福祉施設であれば、そのお金を学費や遊具の補助として利用することができ、子どもの健やかな成長に寄与できます。

食についての体験や喜びが得られる

施設や困窮世帯においては、金銭的な事情から満足のいく食品を購入できなかったり、購入する食品が一辺倒になってしまったりする傾向があります。そのため、いつもは食べられない高級な食品や珍しい食品が重宝されます。これは、食の経験や喜びという点だけでなく味覚の発達の点でも重要です。

行政(地方自治体)

食品ロスを削減できる

日本全体の年間の食品ロスによる損失は10兆円を超えるとも試算されています。国としてこのロスを減らすことは喫緊の課題でしょう。また、フードバンクの活動を通じて消費期限と賞味期限の違いについての理解を浸透させることも期待できます。

財政負担を圧縮できる

6人に1人とも言われている貧困者を食の面から支援することで、就労していない生活困窮者の再就職を促せる可能性があり、さらに福祉予算については直接の削減にもつながります。

地域活性化がもたらされる

フードバンクの仕組みのなかで行政と民間が積極的につながりを持つことで、単なる制度上の支援ではなく、協働しながら地域を支えていくという気持ちが生まれ、適切な形のセーフティーネットが構築できる可能性があります。

 

しかし、フードバンクの活動は簡単なものではありません、国の支援が少ないことから、多くの団体は次年度の予定も立てられないほど苦しい運営を迫られています。次記事では少し実情に入り込んだ内容を説明します。

【次記事:フードバンクをうける・協力する前に知っておくべき基礎知識