ライフイベントゆとり教育は社会にどのような影響を与えたか

ゆとり教育は社会にどのような影響を与えたか

これまでの日本にはなかった教育理念に基づいたゆとり教育制度。実施された期間は短いながらも、社会に与えた影響は大きなものでした。ゆとり教育が生み出した結果と学力向上に向けた取り組みについて解説します。

ゆとり教育はいつから始まった?

ゆとり教育はいつから始まった?

ゆとり教育は、1980年度・1992年度・2002年度と段階を経ながら施行されてきた、教育指導要領に沿った学校教育を指します。「ゆとり教育」という呼称は、1998年度の学習指導要領に記載された「生きる力とゆとりを」という部分から生まれたと言われています。

ゆとり教育の目的・内容

戦後間もない時代から1970年代にかけて、日本では多くの知識を詰め込むことに重きを置いた「詰め込み教育」が行われていました。しかし、

  • 学習量の過剰な増大や知識を暗記するだけの学習方法
  • 加熱した受験戦争による学力偏差値重視
  • 試験が終われば知識を忘れてしまう剥落学力(はくらくがくりょく)

といった点が問題視されるようになります。

  • 疑問を持ち自分で考える力
  • 自分で調べ、経験し、発表できる力
  • 過剰な競争やストレスを排除した余裕のある学習方法

ゆとり教育が掲げたこれらの目的は、突き詰めれば「人として生きていく力を身につける」「ゆとりのある生活で人間力を養う」という点に行き着きます。この理念を達成するため、文部科学省は1970年代から少しずつ学習指導要領を改正していきました。

授業内容を減らして時間的な余裕を作る、他人と比べて評価される「相対評価」から個人の能力を評価する「絶対評価」への移行、観察や実験・プレゼンテーションといった経験重視の学習方法など、子どもの思考能力と自主性を伸ばすためにゆとり教育が始まったのです。

ゆとり教育のメリット・デメリット

メリット

段階を追って少しずつ導入されたゆとり教育は、1990年代初頭から始まった「土曜休日」により大人にも大きな影響を与えました。子どもに合わせて完全週休二日制となる会社も増え、家族でのコミュニケーションの時間が多く取られるようになったのです。

学習面では、余裕のある時間割で子どもたちが自ら考える時間が生まれ、より経験を重視した学習内容により「考える力と実践力」を養う機会も増えました。

人間力を育てるという面では、道徳の時間を増やして社会的倫理性を学ぶことに力を入れた学校も多く、本格的なゆとり教育が始まってからは認知されるいじめ問題が減少しているというデータもあります。ゆとり教育の目指す理念は、確かな結果を出しつつあるように見えました。

デメリット

しかし、一方で深刻な学力低下が認められるようになってしまいました。国語・算数といった基礎学力を養う授業が減少したことに加え、「全員が一番」「誰とも比べない」という評価の仕方に原因があると考えられています。

ゆとり教育時代に行われた国際学力テストでの順位は下がり、学習到達度に達していないという結果を受けたこともあり、ゆとり教育には批判の声が集まりました。

人間性を育てるための教育といった面でも、ゆとり教育を受けた子どもの競争心のなさや協調性の低さを問題視する声が上がり、日本は再び教育方針を模索することになったのです。

 

ゆとり教育を脱出!「脱ゆとり教育」とは

ゆとり教育を脱出!「脱ゆとり教育」とは

ゆとり教育の全てを否定するのではなく、ゆとり教育で得られた経験を活かした教育制度を作り上げる。これが「脱ゆとり教育」の目指す姿です。

脱ゆとり教育の内容

脱ゆとり教育は「詰め込み教育」に戻ったと考えられることが多いのですが、「ゆとり教育が終わった」だけであって、決して詰め込み教育時代に戻ったわけではありません。余裕がない「機械」のような教育と、人間らしさに重点を置いた教育。

二つの極端に異なる教育方針から学んだことを活かして、それぞれの良い部分を組み合わせたものが「脱ゆとり教育」なのです。

  • 確かな学力とその知識を活かす能力
  • 思考能力・判断能力・実践能力の育成
  • 学ぶ意欲の養育
  • 健康・体力作り
  • 豊かな人間性

目標となっているこれらの項目を見てみると、より「生きていく力を育てる」ことに重点を置いているのが分かります。

この目標をふまえて、脱ゆとり教育ではまず授業数や学習内容が増やされることになりました。特に理数系の授業時間が増加しており、基礎学力の向上に重点が置かれています。教えられる内容も増えて教科書のページ数やサイズの変更も行われ、小学生が使用するランドセルのサイズもそれに合わせて変化しました。

小学校では外国語教育が導入され、よりコミュニケーション能力を伸ばすために英会話を中心とした授業が開始されました。これまでの「書く英語」から「生きた英語」に学習内容が変更され、国際化が進む社会への対応が図られています。

心の育成という点で注目されているのは「道徳の教科化」です。指導の難しさからこれまで各学校に任せられていた道徳ですが、「必ず行わなければならない教科」とすることで社会的道徳観念や倫理性を学ぶ時間を確保し、「人間性の向上」を目指しています。

脱ゆとり教育の結果

脱ゆとり教育になってから実施された国際的な学力テストでは、小学校・中学校ともに過去最高の好成績が記録されました。文部科学省は脱ゆとり教育の教育指導要領が間違っていないものだと自信を付けており、さらなる脱ゆとり教育へ向けた動きを見せています。

しかしその一方で、「疲れている」「授業についていけない」子どもの数が増加しており、子どもの間で学力格差が生まれていることを指摘する声もあります。

さらには、実際に指導を行う教員にも「教材や授業の準備が間に合わない」「授業についていけない子どもを指導する時間がない」といった悩みが広がっており、脱ゆとり教育に自信を持つ文部科学省との認識の差が発生していることも事実です。

 

学力向上のための取り組み

学力向上のための取り組み

脱ゆとり教育の問題点をクリアにするため、教育現場ではさまざまな試行錯誤が行われています。より効果的な結果を出すための取り組みを見ていきましょう。

秋田県 学校改善支援プラン

脱ゆとり教育のなかでもメインの目標となっている学力向上。これをより効果的に達成するため、秋田県は「秋田県検証改善委員会」を設置して学校改善支援プランを立てています。

脱ゆとり教育への移行が始まって以降、毎年行われている学力テストの結果や県下の小・中学校の取り組みを細かく分析してデータ化し、その結果をフィードバックすることで学校の指導に役立てるという方法で支援を行います。

学力テストの結果の分析、各教科の成果と今後の課題、授業の改善点の指摘、実際に成果を上げている学校の取り組みの紹介といったきめ細かい情報は、脱ゆとり教育によって時間に追われるようになった教員の助けとなり、より充実した教育に向けて活かされています。

埼玉県 学力向上の取り組みの推進

埼玉県の県教育委員会は、子どもの学力向上に必要な取り組みを「学力向上啓発リーフレット」にしてまとめ、教職員・保護者・子どもに配布。学校・家庭・子どもの間で共通の認識を持って学習に取り組むことを推進しています。

必要な学習内容や学力向上のための課題、授業の改善を図るための方法をまとめたリーフレットがあることで、「今やらなければならないこと」が明確化され、課題に取り組みやすくなるという利点が生まれます。

このようなリーフレットを配布する背景には、「基礎学力や学習意欲を向上させるためには、予習復習などの家庭学習の充実が必要である」という基本理念があります。学校で学んだことを家庭で復習して定着させる、この流れを習慣づけることで学力向上へとつなげていきます。

 

時代の流れのなかで改正を繰り返してきた日本の教育。その根底にあるものは「生きる力を身につけて欲しい」という願いであり、これが一番大切な想いなのかもしれません。