日本の移民政策
日本政府は、労働人口の減少にともなう人手不足の解消に向けて、外国人労働者を今まで以上に活用していくために「経済構造改革戦略」を2018年4月27日に発表しました。
経済構造改革戦略とは
経済構造改革戦略とは、移民政策を行わないことを前提として、ある程度の技能と技術を持つ外国人労働者をこれまで以上に活用するために発表されたもので、
- 新しい就労資格を創設するなど、日本で働くための間口を広げる
- 既に在留期限が切れてしまった労働者に対して、新たな在留資格を与える
ことを目的としています。
「移民によって治安は悪化しないか」「移民専用の隔絶地域ができてはしまわないか」などさまざまな不安要素はあるものの、現状の超高齢化社会を解決するためには移民に頼らなくてはならないところまで来つつあるのです。
しかし、それでも移民にはまだまだ解決すべき問題が残されています。
外国人労働者の現状
日本において外国人は、永住者・日本人の配偶者がいる場合を除いて、入国管理局の定める17の在留資格を持っている、もしくは「技能実習制度」によって労働を許可されている技能実習生のみ働くことが可能です。
しかし、本来であれば産業発展のために使われるべきこの制度が、近年では人手不足に陥っている単純労働の働き手を確保するために機能しています。低賃金・重労働で働かされ、失踪につながることも多いことから制度の廃止を求める声も少なくありません。
ただ、人材の足りていない零細企業が独自に外国人労働者を受け入れて教育・指導を行うことは、労力的にも時間的にも難しいのも事実です。そのため、管理団体の下、段階的に実習を行わせる技能実習制度にも少なからず合理性はあるのです。
よって、即時廃止するのではなく、規制強化・取り締まりの強化により適正化を行っているのが現状です。
増え続ける外国人労働者は今後の日本を支えるか新制度で何が変わるのか
このような背景から政府は2018年6月5日、外国人の受け入れ拡大を目的として新たな方針を発表。2025年までに50万人以上の就業を目指すとしています。
対象としているのは、特に人材不足が深刻な
- 農業
- 介護
- 建設
- 造船
- 宿泊
の5項目で、
- 最長5年間という技能実習を終えてしまった外国人
- 技能実習をまだ修了していないものの、修了者と同等の技術・技能を持つ外国人
- 日本語能力が水準以上であるか確認するための試験に合格した外国人
を対象に、さらに最長で5年間の「新たな在留資格」を設けるというものです。
また、この新たな在留資格によって在留している間は、「家族との帯同」と「永住」は認められていませんが、専門技能の試験に合格するなどで高度人材として認められた場合には、どちらも可能となります。
このように、ある程度の専門技能を身につけられた外国人に対して優遇を行うことにより、
- 日本企業の外国人労働者受け入れへの意欲を高める
- 外国人労働者の労働意欲を高める
効果にも期待ができるのです。
移民を受け入れることでのメリットとデメリット
各国の移民政策
移民を受け入ることで多くの被害が出ているため、受け入れ拒否の姿勢が強くなっている、という状況は日本のみならず世界各国で抱えている共通の問題です。
以下より、各国の移民政策と受け入れの状況について見ていきましょう。
アメリカの移民政策
移民によって誕生したという歴史を持ち、多くの移民を受け入れ続けてきたアメリカ合衆国。ニューヨーク港の入り口には、ヨーロッパ大陸からの移民を歓迎するように立つアメリカの象徴「自由の女神像」が。
そんなアメリカで今問題となっているのが移民の不法滞在です。既にアメリカで居住している不法滞在者は1000万人以上いるとされています。
これに対して、
- 不法滞在者全員を強制送還する
- 労働を行わせることで国籍付与の機会を与える
などの意見はあるものの、どちらも現実的には厳しいためあまり進展はありません。
移民大国となった日本において避けては通れない移民問題ドイツの移民政策
アメリカと同様、移民の国として発展してきたドイツ。終戦後の労働力を補うために移民を受け入れ、国力を強化してきたという背景があります。
そんなドイツでは近年、移民ドイツ人の人口割合が増加傾向にあります。これは、かつてのドイツが「移民は短期間だけ在住してすぐにいなくなるだろう」と楽観的に考えていたものの、実際には二世三世と住み続けたために起こりました。
2018年時点での移民人口の割合は、ドイツ全人口のおよそ5分の1(1650万人ほど)にまで迫ってきています。
増加するだけなら良かったのですが、寛容の精神を掲げて自由主義・民主主義を問わずさまざまな移民・難民を受け入れてきた結果、治安の悪化などの社会問題を招いてしまったため、近年では移民受け入れに対して厳しい政策を打ち出し始めています。
イギリスの移民政策
2016年にEUを脱退したイギリスですが、この背景には移民問題が大きく絡んでいると言われています。
EUに加盟している国の間では、原則的に加盟国の域内であれば「移動の自由」が認められています。そのため、より良い生活環境・労働環境を求めて出入国を繰り返す移民が増えているのです。
これによりイギリス国内にも多くの移民が入国してきましたが、イギリス国民と同等の社会保障を認めるうえでの費用が国内の経済を圧迫。結果、特に低所得者層からの反発がたいへん大きいものとなったため、EU脱退という大きな決断にいたりました。
以降、イギリスでは移民を大幅に制限すべきであるという主張を続けています。
オランダの移民政策
寛容の精神を持つ国家としてたびたび注目を集めているオランダですが、移民についてもいろいろな民族とさまざまな宗教の外国人など、積極的な受け入れが行われています。
しかし近年では、反移民・反イスラム教の思想を持つ国民が増えたことで寛容の精神は崩れ始めています。自由党も移民を反対とする政策を第一に掲げようとしていたほどです。
自由党が第一党にはならなかったものの、オランダ国内ではこのような風潮がどんどん強まりを見せています。
韓国の移民政策
韓国では、単純労働の働き手を増やすため「雇用許可制」に基づいて外国人労働者を受け入れています。導入から14年が経過しているこの制度によって単純就労の外国人労働者は年々増加し、いまやその数は50万人にもなります(2018年時点)。
また、雇用許可制のもとで働く際に生じるさまざまな問題に対応するため、全国各地に相談窓口も設けられているなど保障も充実しており、韓国で働きたいと希望する外国人は極めて多いです。
新制度の導入によって、日本では今まで以上に多くの外国人がさまざまな地域・企業に根付く環境になっていくことが考えられます。そのため、日本国民は外国人との共生について、考えていかなければならない時期に来ているのかもしれません。