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SRIから始まるESG投資の歴史
ESG投資は短期的な財務の視点だけを求めずに長期の視点(環境・社会・ガバナンス)を持った投資手法ですが、その潮流はどこにあり、これからのESG投資はどこに向かっていくのでしょう。
ESG投資とは
ESGとは
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもの
で、企業をこの3つの軸で評価していく投資手法になります。
サステナブル投資の歴史 ~始まりはネガティブスクリーニング~
ESG投資は社会の持続可能性を考慮に入れる「サステナブル投資」に分類されますが、この潮流は1920年代にまでさかのぼります。
最初に始まったのは「ネガティブ・スクリーニング」という手法で、キリスト教の協会が銃やアルコール、タバコなど特定の業種の企業を投資銘柄から外したというもの。宗教的・倫理的な意味合いが強いですが、これは時が流れた現在でも最も多く採用されています。
また、ネガティブ・スクリーニングの逆で、特定の業種や社会課題の解決を行う事業を積極的に投資対象に組み入れる手法は「ポジティブ・スクリーニング」と呼ばれます。
SRI(社会的責任投資)とは
ESG投資とSRI(社会的責任投資)との違いについて問われることが多くあります。SRIには明確な定義こそありませんが、ネガティブ・スクリーニングやポジティブ・スクリーニングなど、倫理観や企業による狭義の社会的責任を果たす投資ととらえられています。
多様なソリューションが生まれたことでさらに関心は高まる
一方のESG投資は、SRIの概念を含むさらに幅広い投資手法をまとめて総称するもので、具体的には、社会的・環境的インパクトを重視する「インパクト・コミュニティ投資」や投資判断に財務情報だけでなくESG情報も組み込む「ESGインテグレーション」など、その方法は多岐に渡っています。
ESG投資の指数
ESG情報の分析には、既存の財務情報の評価と同様に専門的な知識が必要とされます。
そのため格付機関が存在し、DJSI(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス)やFTSE4Good Indexなどが有名で、その他の調査機関として身近なところでは、ブルームバーグなどもESG情報の分析をしています。
拡大し続けるESG投資
これまでにない新たな視点で企業を評価するESG投資。いま、上記の「ESGインテグレーション」を中心として取扱額が世界全体で急速に増えています。
UNPRI(国連責任投資原則)への署名の増加
ESG投資の推進を掲げるUNPRI(国連責任投資原則)が2006年に設立され、世界中の機関投資家が署名し、その数は2000を超えるまでになっています。
そして、世界最大の公的年金基金である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年9月にUNPRIに署名したことで、日本でのESG投資の普及に拍車がかかります※。
※2014年~2016年の2年間で、日本におけるサステナブル投資額は約70倍弱にもなった。
日本での急速なESG投資の普及
これまで世界に大きく遅れをとっていた日本のESG投資ですが、ここ数年で大きな変貌を遂げています。
大きな決め手となったのは2015年に行われた上記のGPIFによるUNPRIへの署名ですが、この下地にあったのは、国を挙げての施策でした。
日本版スチュワードシップコード・コーポレートガバナンスコード
リーマン・ショックに引き続く円高・デフレによる不況から脱却するために「日本再興戦略」の一環として作成が求められたのが、2014年に公開された「日本版スチュワードシップコード」。これは、企業の長期的成長を支えるために機関投資家に求められる原則を示したものです。
続いて翌年の2015年には企業統治(ガバナンス)に求められる原則を示した「コーポレートガバナンスコード」が発行されたことで、投資家と企業のそれぞれに求められる役割が明確になったのです。
- 日本版スチュワードシップコード(2014年発行):機関投資家が取り組むべき原則
- コーポレートガバナンスコード(2015年発行):企業が取り組むべき原則
そして、この二つの根底にあるのがESG視点での対話です。投資家と企業の両者に、短期的ではなく長期的・持続可能な発展を前提とした対話が求められたことによって、ESGに配慮した企業経営を行うことが投資を呼び込み、さらにはこれが企業価値の向上をもたらすという認識が広がりました。
ESG投資と受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)
これまでの長い間、投資に環境や社会に関する要素を組み込むことは運用受託者の利益の増加にそぐわないとして「受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)を満たさないのでは」と、議論が続いていました。
しかし、近年では投資・経営判断においてESGの要素を考慮に入れることが合理的だと認識されはじめており、これが「新たな受託者責任」ととらえられつつあるのです。
SDGsとの関係
SDGs(持続可能な開発目標)は、これから解決すべき社会課題に世界全体の資本を振り向けることに目的の一つがあります(”目標が示された分野がこれから成長する”と掲げたことに近い)。
SDGsが採択されたことで企業がその課題に向かって人や資源を振り向ける。投資家もESGの視点で環境や社会、ガバナンスを意識している企業に投資を行う。その結果、顧客や取引先の理解が得られ、企業価値も高まり、投資リターンにも反映される。このサイクルが重要な視点です。
SDGsとESGは異なった概念ではなく、地球規模の課題解決に向けたアプローチを考えるとき、あくまでその切り口を変えたものと考えて良いでしょう。
パリ協定との関係
気候変動への国際的な取り組みを定めたパリ協定ですが、ESGとの関わりで重要なのは気候変動が業績に与えるリスクです。
例えば、石油から生まれるエネルギーの供給が二酸化炭素の排出量の観点から制限された場合、石油を資源として抱えている会社は財務的に大きなダメージを受けます。ここで環境が直接財務に結びつくのです。
このように、環境や社会、ガバナンスに対する配慮をおろそかにしていると、財務的なリスクも高まるのです。
ESG投資以外の金融商品
ESG投資は株式に関する投資手法ですが、投資以外の方法も次々と生まれています。
社会貢献型債券
株式投資のESG投資に対して社会貢献型債券は、環境など特定分野の課題を解決するために行われる投資です。
具体的には、貧困問題に関する「インクルーシブ・ビジネス・ボンド」や、ワクチン接種に関する「ワクチン債」などがあります。
環境や社会問題を解決するプレイヤーには、企業だけでなく企業の資金を拠出する投資家など社外の人々も含まれます。
お金の出し手の意識が変わることで企業行動に影響を与える。これは投資家の責務でもあり、同時に購買行動などを通じたプレイヤーである消費者にも同様の心構えが求められるでしょう。