移民が行われる背景
世界史上でもさまざまな事例が存在している移民ですが、その歴史・背景にはどのような理由があるのでしょうか。特に大規模な民族移動となったアメリカ大陸への移民と日本への移民について見ていきましょう。
アメリカ大陸への移民
アメリカ大陸への移民が行われるようになったのは、植民地時代であった18世紀初頭にイギリスから多くの人がアメリカ大陸へと移住し、13植民地が形成されたことに始まります。
イギリスの植民地では、国王の特許状により自主的な運営と政治的な自由が認められていたため、
- 広大な農地を利用した農業
- 豊富な資源を利用した工業
などが積極的に行われ、経済は大いに発展していきます。
それ以来、イギリス人以外にも西ヨーロッパ諸国を中心としてフランス人やドイツ人・オランダ人からの移民も増え、植民地の人口は急増していったのです。1776年のアメリカ独立宣言後も多種多様な人種を積極的に受け入れ、多人種国家として今なお国造りは続けられています。
日本への移民
いまや世界で4番目の移民大国となった日本。移民政策は行わないと明言しているにもかかわらず、移民の波は急激に広まりつつあります。
日本では、中国やタイ・フィリピンなどアジアからの移民が大多数を占め、その多くは仕事を求めてやってきています。賃金の水準が高い日本で稼ぎ、そのお金を自国に送って生計を立てているのです。
単純労働市場はどんどんと拡大していく一方で人手不足の問題が深刻となっている日本において、アジアからの出稼ぎ労働者が増えているこの現状は決して都合の悪いことではありません。
ではなぜ、移民が問題として取り上げられているのでしょうか。以下より見ていきましょう。
急増する外国人労働者問題
日本に在留している外国人はとどまることなく増え続け、2017年度の外国人労働者数は約128万人にもなりました。
ここまで増加してしまった大きな原因は、
- ホワイトカラー労働者の増加
- 入管法で認められていない単純労働で働く外国人の増加
にあります。
通常、27種類ある在留資格のうち、就労が認められているのは17種類(外交・医療・教育など)で単純労働の仕事は含まれていません。しかし、さまざまな手段を利用して入国し、本来であれば働くことのできない仕事に就労している人が多く存在しているのです。
その方法として利用されているのが、
- 技能実習生
- 留学生
です。
(参考:入国管理局 在留資格一覧表)
技能実習生
発展途上国の人が日本の高度な技術を学び自国の産業発展へとつなげることを目的とした、技能実習制度が1993年に開始されました。
しかし、国際貢献を建前としながら、
- 低賃金での雇用
- 長時間の拘束
- 過酷な現場での労働
など労働法に違反する数多くの事例が発生し、「奴隷売買」と揶揄されるほどに労働環境はひどいものでした。
そのため、技能実習生で来日した外国人の失踪が問題となっています。2017年度の失踪者数は過去最多の7089人。これは、「現状のひどい労働環境から抜け出したい」といった理由が多いですが、その後失踪した人が見つかったケースはほとんどありません。
このような状況を打破するため2017年には制度を厳格化させた「技能実習法」が制定されるも、失踪者の人数は年々増え続けています。
留学生
コンビニや飲食店で働く外国人を多く見かけるようになりましたが、彼らは実習生ではなく日本語学校へ通う「留学生」です。アメリカとヨーロッパでは原則として学生ビザでのアルバイトは認められていません。
一方、日本では就労は禁止されているものの、働くことは可能です。資格外活動として「週に28時間以内」であればアルバイトが認められているのです。しかし、時給1000円として計算しても、月の収入は11万2000円。日本語学校の授業料と生活費を考えると厳しいものがあります。
そのため、一部の留学生のなかには週に28時間を超えて働く人が現れるようになり、人手不足の企業は違法であると知りながらも雇用せざるを得ない、という悪循環が生まれているのです。
超高齢化社会が進行し労働人口が減少し続ける日本において今後も外国人労働者は増え続けると予想されますが、技能実習生と留学生における問題は山積みであるため、早急な解決が求められます。
増え続ける外国人労働者は今後の日本を支えるか
移民人口の増加にともなう問題
移民は出生率が高い?
移民によって引き起こされる最大の問題が、出生率の高さです。
移民は所得水準が低く、労働環境も過酷である場合が多いです。そのため、食い扶持を増やしたい・唯一の娯楽としての子作り、といった理由から出生率が高くなっていると考えられています。
例えば1990年~1998年のフランスでは、
- フランス人女性の合計特殊出生率が1.65
- 移民女性の合計特殊出生率が2.50
と、1.5倍以上の差がありました。つまり、一人のフランス人女性が1.65人産んでいる間に移民女性は2.5人の子どもを産んでいるということです。当初は少数だった移民が二世代・三世代と代を重ねていくごとに、さらに人口は増えていくと予想できるでしょう。
これはフランスだけに言えたことではありません。現にアメリカでは、メキシコ出身のヒスパニック系の移民人口が急激に増加しており、2050年には非白人の国になるとも言われるほどです。
移民の問題として取り上げられるものの多くは、雇用問題であったり治安問題であったりがほとんどです。しかし、本当に注意しなければいけないのは、移民の増加によってその国の人種構成が大きく変化してしまう点にあるのではないでしょうか。
移民人口増加による日本文化の変化
日本で暮らす移民の人数は260万人にもなると言われています。少子高齢化・晩婚化によって人口の減少が続くなか、第二世代・第三世代と移民が増え続ければ日本の人種構成もわずか数十年で大きく変化してしまいます。
また、移民が増えることによって、
- 神社仏閣がイスラム教の礼拝堂・ヒンズー寺院へと変化
- 日本特有の美意識「わびさび」の欠落
- 伝統工芸品の衰退
など、日本の人口減少にストップがかけられる反面、今まで築き上げてきた日本の文化は新しいものへと作り替えられていくことでしょう。
既に在住外国人は260万人、外国人労働者は180万人近くが日本で生活をしています。「移民政策は行わない」と日本政府が明言し続けた結果、彼らとその子どもの生活・仕事・教育は中途半端な状態が続いており、その状況は悪化する一方です。
世界第4位にまで移民の受け入れ人数が増加した日本において、今後その政策を大きく転換させなければならない時期に来たのかもしれません。