自然さまざまな国や地域で行われる生物多様性保全への取り組み

さまざまな国や地域で行われる生物多様性保全への取り組み

あなたが口にする食べ物には、何らかの生きものが原料として含まれているはずです。また、あなたが吸っている空気の中には、植物が二酸化炭素を吸って吐き出した酸素が含まれています。そして、あなたが暮らしている場所には植物である木から造られた建物や家具が置かれているでしょう。病気になった時に処方される薬は生物由来かも知れません。

国際的な取り組み

生物多様性を守るために

海外の取り組み

地球の豊かな生物多様性を守り、後の世代に引き継いでいくために、国際的な取り組みが進められています。

1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミット(国連環境開発会議)において「生物多様性条約」が締結されました。この条約は「生物多様性の保全」「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」の3つを目的としています。

この条約の締結国による会議が1年〜2年おきに開催されており、2010年には愛知県で第10回締約国会議(COP10)が開かれました。

日本の取り組み

日本では、政府がCOP10の成果を受けて「生物多様性国家戦略2012-2020」を2012年に閣議決定しました。この戦略では、2020年度までに重点的に取り組むべき施策の方向性として次の5つの基本戦略を掲げています。

  • 生物多様性を社会に浸透させる
  • 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する
  • 森、里、川、海のつながりを確保する
  • 地球規模の視野を持って行動する
  • 科学的基盤を強化し、政策に結びつける

これらの基本戦略に基づき、約700項目に及ぶ具体的施策を示しています。

 

地方自治体における取り組み

地方自治体における取り組み

地方自治体では、生物多様性の保全の基本的な計画である「生物多様性地域戦略」の策定が進められており、2016年12月時点で110の都道府県・市区町村で策定されています。このうち、いくつかの自治体について現状と課題を整理します。

愛知県『あいち生物多様性戦略2020』(2013年)

現状と課題

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の会場となった愛知県は、COP10にその名を冠した「愛知目標」として世界に名が知られるようになったこともあり、生物多様性の保全に力を入れています。

愛知県には日本の典型的な里地里山的な環境が広く見られ、地域を特徴づけています。しかし、同時に自動車を中心とした工業の盛んな地域でもあり、工場や宅地などの開発のために多くの里地里山が失われてきました。先に挙げた4つの危機の中では「第1の危機」「第2の危機」が特に深刻です。

主な取り組み

『あいち生物多様性戦略2020』では、「人と自然が共生するあいち」の実現を基本目標として掲げています。そして、2020年までに「生物多様性の損失を止めるための具体的な行動の展開」を進めていくとしています。

そのための特徴的な方策の一つが、すべての土地に生物多様性への配慮をしようという「あいち方式」です。

「あいち方式」とは、県民や事業者、NPO、行政を含む地域の多様な主体が共通の目標のもとに協働しながら効果的な場所で生物の生息・生育空間の保全と創出の取り組みを行い、生物多様性への意識を高めつつ、人と人とのつながりをも育みながら生態系ネットワークの形成を進めようというものです。

【参考:あいち生物多様性戦略2020

北海道『北海道生物多様性保全計画』(2010年)

現状と課題

日本の最も北に位置する北海道は、津軽海峡を境界線として本州以南とは生息・生育する生きものも違い、生態系が大きく異なっています。国内では北海道にのみ生息・生育する生きものも多く、特徴的な自然環境を有しています。

果てしなく自然が広がるイメージが強い北海道ですが、道路や農地などの開発により生物多様性は大きな影響を受けています。大規模な開発などの人間の活動によって影響を受けた例とされているのが、道内全域で急増しているエゾシカです。

エゾシカは明治時代に乱獲によって絶滅寸前となりましたが、保護政策が取られたことによって徐々に生息数が回復し、1980年代に急増しました。急増した一因として考えられているのが、大規模な森林伐採による人工林化と農地化です。これらによってエゾシカがすみやすい環境が広がり、個体数が急増したと考えられいます。

しかし、増えすぎたエゾシカにより高山や森林、湿原などの生態系に影響が生じています。

主な取り組み

『北海道生物多様性保全計画』では、「地域の特性に応じた多様な生態系や動植物の保全」と「地域の特性に応じた生態系構成要素の持続可能な利用」の2つを基本目標として掲げています。そして、この目標の達成のために、

  • 科学的評価の尊重と保全技術の開発
  • 地域重視と連携・協働
  • 長期的な視点に立った普及・啓発
  • 社会・経済的な仕組み

への考慮の4つを具体的方策として示しています。なかでも、モニタリングを行いつつ保全のための技術開発を同時に進めていくというのが特徴的です。

【参考:北海道生物多様性保全計画

沖縄県『生物多様性おきなわ戦略』(2013年)

現状と課題

海とそこに浮かぶ島々からなる沖縄県は亜熱帯気候に属し、沖縄県にしか生息・生育していない生きものも多く特徴的な自然環境を有しています。

南の楽園というイメージのある沖縄県ですが、生物多様性は危機に直面しています。特に、観光開発や農地開発によって、それまで長年にわたって保全されてきた里山が荒廃し同時に里海(集落地に近い沿岸部)の生態系も失われてきました。

海では美しいサンゴ礁が白化現象により大量に死滅し、サンゴ礁をすみかとする生物への大きな影響が生じています。また、沖縄県の1割を占める米軍基地の存在も生物多様性の保全に影響を及ぼしています。

主な取り組み

『生物多様性おきなわ戦略』では、生物多様性が守られた将来の姿を「自然を大切にするまごころといきものとのゆいまーるを育む島々」と定め、これを実現するために中期目標(2030年)と短期目標(2022年)を次のように掲げています。

[中長期目標・2030年]

  • 島々の生物多様性を育み、人と自然が共生する豊かな社会を形成する

[短期目標・2022年]

  • 生物多様性を保全・回復し、自然からの恵みを持続的に享受するための取組を拡大する
  • 生物多様性に関する理解を社会的に浸透させる

これらの目標を達成するために、

  • 生物多様性の損失を止める
  • 生物多様性を保全・維持し、回復する
  • 自然からの恵みを賢明に利用する
  • 生物多様性に対する認識を向上させる
  • 生物多様性の保全に関する取組に県民の参加を促す

という5項目の基本施策を示しています。

沖縄県では観光産業が盛んであることから、自然と共生する観光産業の推進、県外からの来訪者にも生物多様性の理解促進をはかる、などに力を入れています。

【参考:生物多様性おきなわ戦略 

 

生物多様性を守ることは、地球上に暮らす人々の全てに関わる問題です。この機会にあなたの身の回りの生物多様性にも目を向け、生物多様性を守るためにできることから取り組んでみましょう。