この記事の目次
リアス式海岸とは
リアス式海岸の形成方法
はるか昔、起伏の激しい山地が海面の上昇や地盤沈下によって海中に沈みました。これにより海面から出ている陸地部分が複雑に入り組んだり、多くの島が浮かぶような地形へと変化して、リアス式海岸となったのです。
北欧にもフィヨルドと呼ばれるリアス式海岸がありますが、これは氷河による影響です。氷河期に降り積もった雪が固い氷となり、その重みで地盤沈下が起こりました。徐々に上昇する地球の気温はその巨大な氷河を溶かし、溶けた氷河は山地をえぐるように海へと流れていきます。
やがて、溶けた氷河が今度は海水となって元来た道を戻るように浸水していき、リアス式海岸となりました。
リアス式海岸の特徴
もともと起伏のある陸地に対して浸水するように海面上昇が起こったため、リアス式海岸は独特に入り組んだ複雑な形をしています。入江の周囲が高いため風の影響を受けにくく、内部に到達するまでに距離がるため波も弱まり、穏やかな表情をしています。
また、山の谷間に位置する部分が沈水(ちんすい)しているため、一般的な入江と比較して深度があることも大きな特徴です。
日本三大リアス式海岸
このようなリアス式海岸は日本各地に存在します。そのなかでも特に有名な場所は「日本三大リアス式海岸」と呼ばれ、漁業だけではなく観光の面でも人びとの注目を集めています。
三重県・和歌山県の志摩半島から紀伊半島にかけて
大小の島々と入江の美しさが有名なリアス式海岸。伊勢志摩国立公園もあり、伊勢神宮をはじめとした歴史的背景があることでも知られています。真珠の養殖やサザエ・アワビなどの海産物も豊富です。
岩手県三陸海岸
岩手県北部から宮城県北部にかけての広範囲にわたる海岸線が陸中国立公園となっています。東日本で唯一と言われる海岸公園は、豊かな自然が海の恵みにつながり、養殖や漁業、水産加工物で有名です。
大分県豊後水道
九州の大分県と四国の愛媛県の間にある海水の通り道が豊後水道と呼ばれています。最も狭い部分は約14㎞の幅しかなく、関アジ(せきアジ)関サバ(せきサバ)が有名で、一本釣りが盛んなことでも知られています。
リアス式海岸が漁港や養殖に適している理由
リアス式海岸の漁港
リアス式海岸には漁港が多く、漁業に携わる人の生活を支えています。では、リアス式海岸にはなぜ漁港が多いのでしょうか。三陸海岸を例にその理由を考えてみましょう。
リアス式海岸は、その形状の成り立ちから海への間口が広く、湾岸の奥が浜辺になるため、人が住み着きやすい条件が整っています。湾の周りは小高い山に囲まれており、風の影響を受けにくく波が穏やかなこと、浜辺から少し離れるだけで深度が大きくなるため船を係留しやすいことなどから、漁港を作るのにも最適です。
三陸海岸沖では黒潮と親潮がぶつかり良い漁場となっているため、リアス式海岸を利用した漁港を作ることはとても理にかなっているのです。
リアス式海岸の養殖産業
リアス式海岸の湾内は一年を通して波が低く穏やかなため、「海の畑」とも言われる養殖場を作るのにも最適です。荒れる波で養殖用のイカダが壊れたり仕込んだものが流されることが少なく、安定した収入が見込めます。
また、養殖をするうえでは十分な深さも重要な点です。より品質の良い海産物を生み出すためには、育てる海産物に最も適した深度が必要となるからです。
海岸沿いからさほど遠くない場所に設けられた養殖場は人間の管理下にも置きやすく、そこで育てたものを収穫して漁港まで運び、加工工場で加工して出荷するまでの流れもスムーズに進みます。
リアス式海岸に漁業が栄えるのは、豊富な自然の恵みを受け取れる環境を整えやすいという背景があるからなのです。
リアス式海岸が生んだブランド「恋し浜ホタテ」とは
恋し浜ホタテのルーツ
日本で最も有名な築地市場。その築地市場で、全国から集まる一流の海産物のなかで最高値を付けられたほど高品質なホタテ、それが「恋し浜ホタテ」です。
岩手県大船渡市綾里にある小石浜地区。この小さな集落で暮らす人々は、昔からホタテの養殖に携わっていました。しかし、バブル経済の崩壊後にホタテの価格は大幅に下がり、ホタテ生産は危機を迎えます。
そこで、小石浜は漁場に合った生産量にするため生産するホタテを制限し、希少価値の高まったホタテに「こいしはま」をなぞらえた「恋し浜ホタテ」という名前を付けてブランド化しました。
もともと良質なホタテであったことに加えて、ブランド感があることや「恋し浜」がドラマで全国的に有名になったことも重なり、今では有名百貨店で取り扱われるほどの高級ホタテとなったのです。
恋し浜ホタテの特徴
恋し浜ホタテは、小さな漁場に見合うだけの生産量を守りながら、ホタテにとってストレスにならないような環境を整えて大事に育てられます。
リアス式海岸特有の立地によって山の栄養素は直接海へと流れ入り、生産量が管理されたホタテは充分な栄養素を蓄えて高品質のホタテへと成長するのです。
厚みがあり刺身にもなる大きさと甘みを含んだ味わいのある身は、三陸の自然の恵を余すところなく凝縮しており、口にした人々を魅了しています。
恋し浜ホタテをお取り寄せで
この恋し浜ホタテは、生産者である綾里漁業協同組合から直接取り寄せることができます。本来ならば県産ホタテとして県漁連の共販制度により入札されるものを綾里漁協が買い入れ人となる仕組みを導入することで、直接購入できるようになったのです。
綾里漁協のホームページで申込みが可能なので、興味のある方はぜひ試してみては。
リアス式海岸と津波災害との関連性
津波被害が多い理由
三陸海岸といえば、2011年の東日本大震災を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、2011年以前も津波の被害に何度も遭遇してきました。リアス式海岸の穏やかな海を見るととても津波を想像することはできませんが、リアス式海岸だからこそ津波が起こりやすい状態であるとも言えるのです。
津波は地震によって引き起こされます。海底深くから大きくうねった波は、海底の障害物にぶつかることでその波を大きくしながら海岸へと押し寄せます。
リアス式海岸は湾になっており深さもあります。海底の深さはそのまま波の大きさに影響し、その波が陸地へと襲いかかるのです。さらに、湾になっているため津波は海への逃げ道がありません。その結果、津波はその勢いのまま陸地の奥深くへ進むことになり、大きな被害を生むのです。
津波被害の例
東北地方太平洋沖地震、いわゆる東日本大震災で起こった津波は、下記のさまざまな要因が組み合わさった結果、史上最悪の被害になったと言われています。
- 日本海溝と呼ばれる深海の溝のある地域で発生したこと
- 一定の周期で個別に発生する海溝型の地震ではなく、それらが同時に発生する連動型地震であったこと(スーパーサイクルといわれ、日本では観測史上初)
- 東北太平洋沖での連動型地震は想定外であったこと
- 海溝付近での断層の滑りが複数回起こり津波を増幅させたこと
このほかにも、これまで日本では想定外とされていた事象が次々と重なり、そこにリアス式海岸特有の地形が影響を及ぼしたことで甚大な被害となったのです。
津波被害を防ぐために
これまでにも三陸海岸では高い津波を想定した防波堤が作られていました。しかし、東日本大震災ではその予想をはるかに超える高さの津波が起こり、防波堤を乗り越えたのです。
このことをふまえて、政府は津波に備えた防波堤などのハード面の強化を決定。東日本大震災のデータを元に、より強くより高い防波堤の建設に着手しました。さらに、これまでの津波に対する防災意識を見直し、新たなハザードマップや津波による災害への対処法などを作成して、ソフト面での情報の更新を行っています。
自然の恵みを受け取ると同時に、その大きな力に圧倒されるリアス式海岸。災害に傷つきながらもその土地を愛し、ともに生きる道を模索する人の力があるからこそ、自然もまた豊かな海の幸を私たちに送り届けてくれるのかもしれません。