この記事の目次
棚田とは
棚田の意味
棚田とは、山の斜面などの傾斜地に狭い範囲で水平に保たれた田んぼを作り、それが規則的に段々状に集まっている形の稲作地のことを指します。大小さまざまな田んぼが山の斜面に沿って美しく並んでいるその姿は「千枚田」と呼ばれることもあります。
農林水産省は、その美しさを観光地として役立てる目的で日本の棚田百選を選定しました。機械を使わず人の手で作られてきた棚田は、はるか昔から受け継がれてきた日本の遺産ともいえます。
耕作放棄される棚田
棚田は山の斜面に沿って作られているため、大きな農耕器具を使うことができません。平野部の田んぼと比べると人力に頼る比率は高く、収穫されるお米の量にも差が出てきます。棚田を保有している農民の多くは、兼業農家として生計を立ててきました。
しかし、少子高齢化の影響で棚田の後継者が少なくなり、さらに高齢者は棚田の手入れも難しくなってくるため、耕作放棄される棚田が増えてきています。棚田の多くは山間の小さな農村にあるため、過疎化が進んで住民が少ない地域では人手も足りず、放棄された棚田を守ることが難しくなっているのが現状です。
一度耕作放棄されるとどうなる?
棚田は、石垣を組み上げたり土を盛って固めることで、水や土が流れ出ることを防いでいます。そのため、棚田を保持するためには石垣や固めた土が崩れないように注意しながらこまめに人の手を加えなければなりません。
放棄された棚田は徐々に自然の力に飲み込まれていきます。災害などで崩れてもそのまま放置されるしかなく、石垣の間に入り込んだカニなどが土をほじくり返して石垣を痛めたり、固めた土に雑草が生い茂ることで土が柔らかくなり土嚢(どのう)としての役割を果たせなくなるのです。
このような状態にまで進んでしまうと、棚田を復活させようとしてもかなりの時間と労力が必要となってきます。一見自然の一部として溶け込んでいるように思えますが、棚田の風景はあくまで人間の手によって作られてきたものなのです。
棚田オーナー制度の導入
棚田オーナー制度の種類
このような棚田の危機的状況に対する取り組みとして、棚田オーナー制度を取り入れる動きが全国的に活発になっています。
棚田オーナー制度には下記のような種類があります。
- 農業体験や棚田の地域住民との交流に重点を置く制度
- オーナーとなりお米を確保することが目的の制度
- 農業体験よりもさらに作業が増え、棚田だけではなくその環境整備も行う制度
- 農業に携わる形で時間を作っては棚田に来訪し、農作業を行う制度
- 金銭的な支援を目的としてオーナーとなる制度
地域によってオーナー制度の内容は変わってきますが、棚田を守っていきたいという思いに賛同した人たちや、都心に住む子供達に農業体験をさせてあげたいとの思いから家族でオーナーとなる人たちなど、それぞれの目的に合わせて制度を選ぶことができます。オーナー制度は、棚田の現状を知ってもらう良い機会にもなるでしょう。
棚田は多くの水をダムのように溜め込み保持する力を持っており、大雨による土砂崩れが起きてもその被害を食い止めることができます。これにより村が守られるだけではなく、下流の平野部に住む人たちへの影響も少なくて済むのです。
棚田とその周辺環境を整備することが、ひいては都心に住む人たちのためにもなる。オーナー制度を通して支援だけではない交流が行われているのです。
棚田オーナー制度のメリット・デメリット
棚田オーナー制度によって受け入れ地域には良い影響が生まれました。支援により経済的な面での不安が減ってきたのはもちろん、昔ながらの風景が蘇ることへの喜びやオーナーとの交流が過疎により暗く沈んでいた地域の雰囲気を明るくし、その地域が自信を取り戻すきっかけにもなりました。
しかし、根本的な問題が解消されたわけではありません。オーナー制度による人手の確保には限界があり、日常的に行われる管理は地域住民の仕事となります。加えて、高齢化が進んでいる地域は作業人数を増やさなければ活動ができず、再び棚田が危機的状況となるのです。
棚田の農家と都心の住人の距離を縮めることに大きく貢献している棚田オーナー制度ですが、棚田の風景を守り続けるためには、さらなる模索が必要となっています。
棚田保全基金の実施
棚田保全基金は、農林水産省が実施している「中山間ふるさと・水と土保全対策事業」のこと指し、棚田の保全やその地域全体の活性化のための活動を支援することが目的となっています。
都心の人たちに棚田がある地域の情報を幅広く伝えることで継続した支援を呼びかける活動をしたり、棚田保全や地域活性を推進するための人材を育成したりするなど、棚田とその地域の活性化をあらゆる面からサポートします。
日本の誇る美しき棚田の風景を守るための活動を、行政も見つめています。
棚田オーナー制度だけでない耕作放棄地活用の事例
棚田オーナー制度以外に棚田の保全を続けるためのヒントを、福島県の活動から考えてみましょう。
販売・商品開発
東日本大震災による被害を受けた福島県では多くの畑や田んぼが放棄されることとなりました。一時は打ちのめされた農家は、再び福島県の農業を復興させるために新たな農業経営の方向性を打ち出しました。
具体的には、これまでの一般的な農業の形から
- 農家が製造加工して商品を販売
- 農場で採れた農作物を同じ敷地内のレストランで提供
といった産業形態へと変化させたのです。
この農業経営は徐々に広まり、地域活性化にも役立っています。
観光・体験
農業としての活路ではなく、観光資源として棚田を復活させる動きもあります。
棚田という普段は見られない田んぼで昔ながらの農業を子どもたちに体験してもらうアクティビティーを提供したり、使われていない棚田に桜の木を植えて春に満開となった桜を見に行くツアーを組むなど、観光地としての新たな棚田の姿を作り上げています。
景観作物
人々が楽しむための目的で休耕農地に植えられる花などの植物を景観作物といいます。上記の、棚田に桜の木を植える、といった例がこれに当たります。景観植物として有名なものはコスモスや菜の花、ヒマワリなどがありますが、その地域の気候や地質によってさまざまな植物が試され、植物の開発も進んでいます。
震災により休耕とならざるを得なくなった多くの農地が、逆にその空間を利用して多くの植物に覆われ癒しとなり人々を魅了するというこの取り組みは、地球規模での環境保護が必要となっている現代社会にとって、福島県のみならず世界的にも大変意味のあるものです。
そこにある何もない土地が多くの草花で満たされることは、まさに自然へ還ることにつながります。一度は自然を壊してしまった人間が、今度は自然を生み出していくことを選んだのです。
自然と人間が一緒に作り上げてきた棚田の風景。棚田オーナー制度などの保全活動を通して、一度は離れてしまった手を再び取り合い、協力する時代を迎えています。