地方創生香川県の讃岐うどんが抱える問題と地域活性プロジェクト

香川県の讃岐うどんが抱える問題と地域活性プロジェクト

香川県が誇る日本一のうどん「讃岐うどん」。長く地元で愛され今や全国的な知名度を持つようになり、県外からも多くの観光客が本場の味を求めてやって来ています。さて、いったい何が「日本一」なのでしょうか。

日本一のうどん「讃岐うどん」

日本一のうどん「讃岐うどん」

「うどん県」…コンビニより多いそば・うどん店

自ら「うどん県」を名乗っている香川県のウェブサイトには「うどん県統計情報コーナー」があり、うどんに関する統計情報がまとめられています。

そこからいくつか見てみましょう。

  • 人口1万人当たりの「そば・うどん店」全国1位
  • うどん用小麦粉使用量は全国1位
  • 「和風めん(うどん・きしめん・そば・そうめん等)の年間出荷額・事業所数は全国2位
  • 1世帯当たりの「生うどん・そば」(購入)、「日本そば・うどん」(外食)の年間支出金額は高松市が全国1位
  • 「きつねうどん」の年平均価格は高松市が全国3位(価格が安い順)

ちなみに、香川県にあるうどん店の数は、2017年4月時点で680店というデータがあります。これは、香川県内のコンビニエンスストア店舗数429店(2017年1月)よりも多い数字です。上で挙げたように、人口1万人当たりの「そば・うどん店」は2014年時点で全国1位(5.92店)となっており、うどん店の多さがうかがえます。

また、うどんを生産するための小麦粉の使用量も全国1位(2009年)となっていますが、これは2位の埼玉県の2倍以上となっています。また、全国のうどん用小麦粉の使用量と比較すると、2009年の香川県の使用量は全国の使用量の約23%を占めています。いかに讃岐うどんの生産量が多いかがわかります。

讃岐うどんの基準と特徴

ところで、讃岐うどんとはどのようなものを指すのでしょうか?

全国生麺類公正取引協議会の表示に関する基準では、次の5つを満たすものが「本場讃岐うどん」とされています。

  • 香川県内で製造されたもの
  • 加水量40%以上
  • 加塩量3%以上
  • 熟成時間2時間以上
  • 15分以内でゆであがるもの

讃岐うどんの一番の特徴は、そのコシの強さです。口に入れた際に柔らかく噛むともちもちしているこの独特のコシは、うどん専用の小麦粉を生地に使用し、適切な水を加えて、正確な足踏み作業によってグルテンの弾力が引き出されることにより生まれます。また、様々な食べ方があるのも讃岐うどんの特徴と言えます。

讃岐うどんの歴史

日本でうどんが食べられるようになった歴史は、諸説あります。

一般的に言われているのは「香川県生まれの空海が留学先の唐から持ち帰った」というものですが、現在のような細長く切って仕上げる「切り麺」は室町時代に日本で誕生したという説が有力です。

香川県では、空海の弟子であり甥でもあった智泉が空海から「うどんの祖」を伝授され、故郷の綾川町でうどんに発展させたと言われています。綾川町では弥生時代から小麦が生産されていたので、うどんが定着し広まる素地がありました。

香川県でうどん用の小麦が生産されるようになった背景には、風土が影響しています。瀬戸内海に面し温暖な気候であり降水量が少なかったため、昔から農地を潤すための溜め池をたくさん作るなど苦労しながら農業を行ってきました。

水が少ないことで米作りは難しいため、小麦作りが増えていきました。そして生産された小麦を用いて、うどん作りが盛んになっていったのです。

 

香川県民うどん食べ過ぎ問題

糖尿病が大きな問題に

香川県の人口10万人当たりの糖尿病患者数は、2014年に282人と全国平均の191人を大きく上回り、ワースト2位でした。また、2008年にはワースト1位を記録しています。

糖尿病による死亡率は2016年に14.1%でワースト9位ではあったものの、全国平均の10.9%を大きく上回っています。なお、2013年にはワースト2位、2015年にワースト3位を記録しています。

香川県でなぜ糖尿病患者が多いのか、その理由として挙げられたのが消費量が多いうどんです。しかし調査の結果、うどん自体が悪いのではなく、その食べ方や生活習慣に問題があることが明らかになりました。

食べ方や生活習慣に問題

  • 重ね食い:うどんに加えて天ぷらやおにぎりを一緒に食べる
  • 早食い:あまり噛まずに流し込む
  • 野菜の摂取不足:野菜の摂取量が男性はワースト2位、女性はワースト1位(2006〜2010年国民健康・栄養調査調べ)
  • 運動不足:香川県男性の1日の歩行数は6,695歩と、全国平均を500歩以上下回る

「せっかく全国でメジャーになった讃岐うどんが糖尿病のマイナスイメージに結びついてはならない」として、香川県では糖尿病予防に関する情報をまとめた「かがわ糖尿病予防ナビ」サイトを開設し、情報を発信しています。

また、「ヘルシーうどん店」マップを作成して配布しています。これらの店では、野菜たっぷりうどん、野菜の天ぷら、野菜の小鉢などをメニューとして提供し、野菜の摂取を増やす取り組みを進めています。

さらには県内の小学生を対象に、糖尿病の検査を含む小児生活習慣病予防健診や健康教育を行っています。小学生に対する全県的な取り組みは全国でも珍しいと言えるでしょう。

 

うどんのゆで汁の排水問題

うどんのゆで汁の排水問題

「讃岐うどん」がブームとなり大勢の観光客が押し寄せた2003年、うどんが原因となる環境問題が注目を集めました。それは、うどんをゆでた時に生じるゆで汁の排水による水質汚濁でした。うどんをゆでた後のゆで汁には濃度の高いでんぷんがたくさん含まれています。これは生活排水基準の約10倍にもなります。

下水道のない地域ではこれらの排水をそのまま近くの水路や川に放水していることも多く、周辺の河川の水質汚濁の原因となりました。

香川県ではこの事態を重く見て、2004年に「うどん店排水処理マニュアル」を策定しました。このマニュアルの中では、できるだけ水を汚さないうどんの作り方も掲載されています。

排水問題の解決のためには、うどん店に排水処理装置を設置して排水を浄化した後に放流するのが一番であるため、2012年4月には排水処理装置の設置が県の条例で義務づけられました。

ただ、排水処理装置の設置は費用的負担も大きいため、香川県では香川大学と共同して小規模零細のうどん店でも設置できる小型で安価な排水処理装置を開発しています。

 

うどんだけじゃない!香川県での地域活性プロジェクト

うどんだけじゃない!香川県での地域活性プロジェクト

「うどん県」を名乗る香川県ですが、もう一つのキャッチコピーが「うどん県 それだけじゃない香川県」です。讃岐うどんは全国的な知名度を誇るまでになりましたが、香川県にはそれ以外にも大きな可能性を秘めた資源があります。ここでは「オリーブ」と「希少糖」の2つを紹介します。

オリーブ産業強化プロジェクト

日本国内におけるオリーブの産地として有名なのが香川県の小豆島です。瀬戸内海に浮かぶこの島に初めてオリーブの苗木が植えられたのは1907年のこと。それから100年以上の歴史を重ねて、小豆島のオリーブ油(オリーブオイル)は世界でも認められる品質にまで成長しました。生産地は小豆島から香川県本土にも広がり、香川県は国内トップのオリーブ生産地となりました。

オリーブは健康面からも注目されています。主流のオリーブ油だけでなく、葉や採油する際の副産物なども含めて、食品や化粧品素材、水産・畜産の飼料としてなど広く活用されています。香川県では「オリーブ産業強化プロジェクト」として官民連携で次のような事業が展開されています。

  • 生産振興:生産拡大、高品質で安定的な生産技術の開発、水産(オリーブハマチ)
  • 畜産の拡大(オリーブ牛の出荷拡大)
  • 新商品開発と品質向上:オリーブ豚・オリーブ素材を使った新商品等の開発、6次産業化
  • ブランド化(情報発信)・販売促進:オリーブに関する継続的な情報発信、PR等

かがわ希少糖プロジェクト

「希少糖」とは自然界に存在量の少ない単糖(糖の最小単位)のことを言います。「D-プシコース」や「D-アロース」といった希少糖は少ないために、ほとんど研究されてきませんでした。

しかし、香川大学の何森教授が長年研究を行った結果、希少糖には食後血糖値の上昇抑制作用や抗肥満作用の機能性など様々な可能性が秘められていることがわかりました。

香川県では、香川大学や民間と共同で「かがわ希少糖ホワイトバレー」プロジェクトを立ち上げ、希少糖の多様な機能性のメカニズムを解明し、機能性食品や医薬品、農薬などの幅広い分野での応用を進めています。最終的には、科学技術の進展や健康関連産業をはじめとする産業発展につなげることを目指しています。

  • 「知の拠点」の形成:大学等の研究体制の強化、県の試験研究機関の強化
  • 「希少糖産業」の創出:希少糖を使用した商品開発の促進
  • 「香川の希少糖」ブランドの確立:希少糖に関する継続的な情報発信、国際見本市や県内外でのイベントへの出展

これらが目的とされています。

 

面積的には全国最小ながら、最先端の取り組みを進める香川県。これからも目が離せません。