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日本各地で行われるチョウザメの養殖産業
取り組みの進むチョウザメの養殖産業
日本でチョウザメの飼育・養殖研究が始まったのは1980年代。その歴史は浅く、飼育・販売面など全般的に研究が続けられています。
全国で飼育が可能で、水槽や池など飼育環境もさまざまですが、成長すると1メートル以上になるため養殖を始める場合は同業者や地域とのネットワークが重要なポイント。
また、キャビアを採るためには、生後10年前後という長い飼育期間を必要とします。そのため、養殖業者はチョウザメの肉を販売するなどで対応しています。
日本では主に、養殖用に作られたベステルという種類のチョウザメが飼育されています。オオチョウザメを父に、コチョウザメを母に持つベステルは、クセのない味で良質のキャビアを採れると評価を得ています。
旬の時期は春と秋の2回、種類によって時期は異なります。
日本で唯一の本格熟成品「宮崎キャビア1983」
2013年に登場した「宮崎キャビア1983」。味に深みがありキャビア本来の味が楽しめると、プロの料理人からも高い評価を得ています。
ヨーロッパのキャビアと同様に本格熟成という伝統的な方法で製造され、薄めの岩塩のみで味付けされたキャビアは、最もおいしい時期を見極めて熟成を止めているため、香りも余韻も最高レベルです。
宮崎に初めてチョウザメがやってきたのは1983年。県の水産試験場で試行錯誤を繰り返し、2004年にシロチョウザメの完全養殖に成功します。2013年には宮崎キャビア事業協同組合が設立され、宮崎キャビア1983の発売が開始されました。
官民一体で取り組んできたキャビアは、新たな宮崎ブランドとして、世界にも知られる商品となったのです。
奥飛騨温泉郷の奥飛騨キャビア
岐阜県高山市・奥飛騨温泉郷でもチョウザメの養殖が行われています。チョウザメの飼育を行っているのは、もともとすっぽんの養殖を行っていたという「株式会社 焼岳(やけだけ)」。
年間を通して安定した温度の地下水を水槽に入れ、清潔さを保つために太陽を遮断する、という方法でチョウザメを育てています。
こだわりの環境下で飼育されたチョウザメは、卵の臭みもなく、キャビアが持つ本来のうま味を味わえると好評。塩分が控えめなので、和食にもよく合います。
また、食感も楽しめるよう冷蔵保存されているため、透き通った緑色をしていることも特徴です。農林水産省共催の「フード・アクション・ニッポンアワード2010」では、プロダクト部門入賞の実績もあります。
香川県東かがわ市で廃坑の体育館を利用したチョウザメ養殖
いろいろな方法があるチョウザメの養殖ですが、四国・香川県東かがわ市のつばさキャビアセンターでは、廃校になった中学校が利用されています。体育館にいけすを、校舎の調理室に加工場を設置しているのです。
また、大きないけすで泳ぐチョウザメの見学や、人数限定ではあるもののエサやり体験・稚魚つかみ体験をすることもできます。
体育館育ちのチョウザメは、飼育4年目で雌雄の判別を行い、オスは魚肉として加工。メスは7年目まで飼育され、キャビアが採取されます。
高塩分処理と低温殺菌をしていないため、塩分量は3%と控えめ。甘くクリーミーな味わいを楽しめます。ふるさと納税の返礼品としても人気が高い商品です。
世界と比較して国産キャビアはどうなのか
実は世界でも有数のキャビア消費国
日本はキャビア輸入量が大変多く、2014年にはEU、アメリカ、スイスに次ぐ世界4位の輸入国と発表されました。
キャビアは古くからロシアをはじめとして、イラン・ヨーロッパで作られていましたが、乱獲が原因でチョウザメの漁獲量が激減。そのため、カスピ海でのチョウザメ商業操業禁止が決定されたり、国別の漁獲割当量が決められたりしました。
このような背景があり、日本国内でのチョウザメ養殖・キャビア生産に、さらに力が入れられるようになったのです。
海外産と国産におけるキャビアの違い
まず、ひとえにキャビアといっても、チョウザメの種類によって卵にも違いがあり、自然界に生息しているものから採れるのは主に3種類です。
- ベルーガ…オオチョウザメの卵。大粒で灰色。色が明るいほど高級とされる
- オシェトラ…ロシアチョウザメ・シップチョウザメの卵。中粒で茶色~金色までさまざまな色合いがある。ナッツのような味わいと評される
- セブルーガ…ホシチョウザメの卵。小粒で暗炭色。特徴的な風味を持つ
キャビアの名産地ロシア造られたチョウザメの卵は、オオチョウザメのように味が良く風味もあり、しっかりした食感が特徴粒も大きめです。
ただ、海外のキャビアは輸出する関係上、低温殺菌されており、保存期間を長くするため塩分濃度が高めになっています。
その点、国産キャビアはチョウザメから採ったばかりの卵を薄味で仕上げ、低温殺菌もされないため、キャビア本来の味を楽しめます。
海外輸出への挑戦
日本で初めて海外へキャビアが輸出されたのは、2017年の3月。宮崎で誕生した「宮崎キャビア1983」が海を超え、香港へ出荷されました。
宮崎キャビア1983は、2016年に全日空国際線のファーストクラスで提供される食材として採用。伊勢志摩サミットの食事会で各国首脳にも提供され、高い評価を得ています。
安定した高い品質はのキャビアは、北米やヨーロッパへの輸出も目指しています。
キャビアをおいしく食べるためのポイント
覚えておきたい食べ方
スプーンですくってそのまま食べる、クラッカーやパンに乗せるというのがよく知られている食べ方ですが、そのほかにもおいしい食べ方が数多くあります。
- クラッカーやパンに乗せる際、クリームチーズやサーモンを一緒に乗せる。ハムやトマトとの相性もよい
- 茹でたてのジャガイモにキャビアとバターを乗せる
- パスタやリゾットのトッピング
- マリネやカルパッチョ、サラダののトッピング
- ロシアのそば粉でできたパンケーキ、ブリニに乗せる
おいしく食べる際には、キャビアをすくうスプーンを選ぶこともポイントとなります。日常的によく使用するステンレス製や銀製のスプーンはキャビアには不向き。スプーンの金属イオンのにおいがキャビアに移り、繊細な風味が損なわれてしまいます。
ただし、金属製でも金製のスプーンはOK。キャビアの品質チェックを行う際は、金のボールをキャビアの上に置き、浮き沈みのチェックが行われているためです。
キャビアスプーンとして使用されているのは、貝や水牛の角から作られたもの。一つひとつ削りだして作られるため、温かみが感じられる仕上がりも魅力です。ほかに磁器製のスプーンも販売されています。
専用スプーンを用意するのが難しい場合は、プラスチック製や木製スプーンでも代用が可能です。
おすすめの組み合わせ
キャビアをおいしくいただくために、チーズの存在は外せません。パンやクラッカーにも塗りやすいクリームチーズがよく知られていますが、ほかのチーズもキャビアによく合います。同じ乳製品のこっくりした味のバターとの相性も抜群です。
相性の良い酒は、日本酒とウォッカなどのスピリッツ系。特にキャビアの臭みを消してくれる日本酒との相性は良い言われています。また、キャビアに合わせて造られた日本酒も販売されています。
スピリッツ系のアルコール度の高いお酒も、同じ理由で良い組み合わせです。
魚卵に合わないと言われるワインですが、キャビアに合わせるならば、酸味が強い辛口のシャンパーニュがおすすめです。
意外な組み合わせ!キャビア茶漬け
キャビアにお茶漬け?と思われるかもしれませんが、塩分のあるキャビアと白米の相性は言うまでもありません。さらに、お茶のほのかな苦味とまろやかさが加わり、風味が豊かに。キャビア本来の味、食感もしっかり楽しめます。
わさびや刻み海苔をトッピングしてもおいしくいただけます。料理として提供されていたり、通信販売で購入することもできますが、自宅で手軽に作れるメニューですので、キャビアが手に入った際にいかがでしょう。
全国各地のチョウザメ養殖業者の奮闘により、国内でも高い品質のキャビアを安定供給できるようになりました。飛行機の国際線や首脳会議に用いられるなど、海外の方々に味わってもらい品質の高さを証明。海外への輸出も始まっています。
海外販路を広げる努力がなされていますが、同時に国内に住む我々も、楽しめる機会が増えるのではないでしょうか。