地域おこし協力隊県内外に品質の良い野菜を届ける(長崎県島原市 地域おこし協力隊 光野竜司)

県内外に品質の良い野菜を届ける(長崎県島原市 地域おこし協力隊 光野竜司)

(前回記事:「農業の現場に入り込んで仕事がしたい」)

地域に移り住むということ

地域に移り住むということ

愛甲(株式会社イタドリ 代表取締役):島原に移住するときに「この地域をかき乱すのか」「勝手に入り込むな」というような声はありませんでしたか?

光野(長崎県島原市 地域おこし協力隊):正直なところそれはありませんでした。というのも、市役所の立場を使えたというのが非常に大きかったからです。多少はあったかもしれませんが、自分が気付いていなかっただけだと思います(笑)

愛甲:むしろそのくらいで良かったかもしれませんね。周りの意見を聞き過ぎると、やりたいこともできなくなってしまいますし。ただ、そこは紙一重で、一線を越えて進み過ぎると取り返しのつかないことになってしまいかねませんが。

光野:今やっている取り組みに対しても、協力的に賛同してくれる方がいる一方で、「こんなことをやらなくて良い」と思っている方も多いと思います。

愛甲:新たな取り組みに対して協力的な方の割合というのは地域によってかなり変わりますね。

光野:そうですね。かつ、年齢を重ねれば重ねるほど現状維持で良いという方が増える傾向にあると思います。

 

島原野菜のブランド化を推進する

島原野菜のブランド化を推進する

協力隊の活動と会社経営を切り分けずに行う

愛甲:光野さんは「株式会社トトノウ」という会社を立ち上げていらっしゃいますが、実際に地域おこし協力隊としてはどのような活動をなさっているのですか?

光野:地域おこし協力隊としての活動とトトノウの活動を切り分けてはいなくて、島原の野菜をブランド化してアピールし、農業の基盤を作ろうとしています。逆に言うと、この目的に沿った活動自体が地域おこし協力隊としての任務ということになっています。

愛甲:会社の設立費や運営費などの一部を協力隊の経費として使用しているということですか?

光野:それは一切ありません。

愛甲:地域おこし協力隊には、生活費として年間で最大200万円、活動費として同様に最大200万円までが支給されることになっていますが、それでは、この活動費には手を付けられていないということですね。

光野:はい。会社を設立するにあたっては、自己資金や融資、クラウドファンディングの活用やエンジェル投資家からの出資・貸付も行いました。ですから、協力隊として資金を集めたということはほとんどありません。

会社運営に際してポリシーがありまして、それは、「自治体を絡めない」ということです。全て民間で完結させる。自治体が関係してくると手続きが非常に大変になりますからね。

愛甲:それは確かにありますね。提出書類の量も莫大になりますし、手間を考えると大抵のものは割に合わないと感じています。

光野:どこかで自分に甘えが出てしまうのも嫌ですからね。

外部資金を入れることであえて自分を奮い立たせる

愛甲:そもそも、会社の立ち上げ時からこれだけ幅広い手段での資金調達を行っているのは珍しいケースだと思います。

光野:自己資金だけで会社を立ち上げても良かったのですが、それだと自分が頑張らなくなってしまうと思って。逆に借金を背負った方がモチベーションになる気がしました。あとは単純にリスク回避の面もありましたね。

愛甲:多角的な資金調達を行えるだけの地盤があるという、取引先などのステークホルダーに対するシグナリングにもなるでしょうし。

光野:それはあまり考えなかったです。トトノウとしては取引先をあくまで一個人・一消費者と想定しているので、BtoCができないのならば、事業を行う意味がないとも考えています。

目的を見失ってしまうと終わりだと思っていて、その意味では直近の2,3年が勝負だと思っています。これまでもベンチャー企業にいましたが、企業として成長してくると大抵の場合は本質から逸れることが多くなりますからね。野菜の買い取り一つをとっても、往々にして品質の基準があいまいになることがあります。自社で発表している品質基準に達していないケースがあるようにも見受けられます。

 

株式会社トトノウ 消費者とのつながりを作る

株式会社トトノウ 消費者とのつながりを作る

地域内流通の仕組みを構築する

愛甲:会社としての具体的な活動内容を教えてください。

光野:一番大きいのはECです。島原半島の野菜を集めて消費者に販売していて、島原産の食品を扱っていただける飲食店にも卸しています。また、「地域内流通」の仕組みも構築しようとしています。

愛甲:地域内流通というのは?

光野:いわゆる「地産地消」のことですね。長崎県という単位で考えて、島原の野菜をさまざまな場所で流通させるためのネットワーク作りを行っています。主な対象はホテルや飲食店などです。というのも、島原の野菜はそのほとんどが長崎県内に出回らず福岡や大阪などに行ってしまうんです。

愛甲:長崎を通り越して福岡ですか?

光野:はい。雲仙市、南島原市を含めて島原半島全体を一つの農協がカバーしているのですが、この農協が持っている取引先の市場が主に西日本なんですね。東京までは行かず、一番遠くても大阪です。仲買が個別に東京へのルートを持っている場合もありますが、それも数店舗だと思います。

愛甲:輸送コストの問題ですか?

光野:輸送コストは確かにあるのですが、そもそも東京への流通ルートがないということです。九州で東京までのルートを持っているのは熊本と鹿児島だけではないでしょうか。

島原市に品質の良い野菜を

愛甲:先ほどの話に戻しまして、現状、長崎県における野菜消費に関しては自分たちでまかなえていないということでしょうか?

光野:直売所があるので、そこで買えるには買えます。ただ、農協への売れ残りを出しているケースが多いので、モノ自体はあまり良くないというのが正直なところです。形が良くなかったりおいしくなかったり。もちろん良い野菜を出しているところもありますが。

ですから、地元の健康志向・高級志向の消費者や高価格帯の飲食店に向けて、島原の品質の高い野菜を流通させる仕組みを作ろうとしています。

愛甲:そのような仕組みが今はないのですね。

光野:おそらくそうだと考えています。そもそも野菜は「人からもらうものであって買うものではない」と思われている方も多くいらっしゃいますからね。

愛甲:確かに長崎では「野菜はもらうもの」という感覚はありますね。野菜ではないですが、ビワなんて木から直接取って食べるものですし(笑)

光野:ですよね。東京だとすごく高いですもん。6個入りで1,200円とか。

愛甲:本当に信じられない。

光野:それから、東京や大阪などでのイベントも行っています。

愛甲:日本橋にある「長崎館」でも直売イベントを行われていますよね。

光野:はい。「長崎館」自体は常設の店舗なのですが、その一角を借りられるようになっていまして、こういった機会を設けて消費者の方とのつながりを深めていければと思っています。

(次記事:「「ゴール」に向けて、もがき続ける」)