身近な環境問題の一つ「酸性雨」の原因と危険性

身近な環境問題の一つ「酸性雨」の原因と危険性

日常的な自然現象である雨が「酸性雨」となったとき、自然環境や人体にどのような影響を与えるのでしょうか。そして、これに対して私たちはどのように対応していくべきなのでしょうか。

身近な環境問題の一つ「酸性雨」

身近な環境問題の一つ「酸性雨」

酸性雨は「雨に濡れると危険」というイメージを持たれることが多いですが、ほかの環境問題と同様に、急激に影響が拡大することはありません。時間をかけて汚染が広がっていき、気付いた時には元に戻せないほど進行しているのです。そのため、一刻も早い対応が必要とされています。

酸性雨とは

大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)が溶け込んだ雨・雪・霧のことを指します。そして、これらが通常より強い酸性を示すことから「酸性雨」と呼ばれています。

酸性雨の基準

酸性雨の酸性度合いは水素イオン濃度pH(「ピーエイチ」または「ペーハー」)という単位で表され、中性である純水はpH7.0、これより小さな値が酸性を、大きな値はアルカリ性を示します。

大気中の二酸化炭素が飽和状態になるまで雨に溶け込んだと仮定した場合に雨はpH5.6になるとされており、これを下回るものが酸性雨となります。なお、周辺環境(火山やアルカリ土壌)によって影響を受けるため、地域によって基準には差が生じています。

酸性雨が起こる原因

酸性雨は、大気汚染物質が大気中で化学変化を起こして硫酸や硝酸などの強い酸性の化合物になり、これが雨に溶け込むことによって起こります。酸性雨の原因となる大気汚染物質の排出源は、工場・事業所などの「固定排出源」と自動車などの「移動排出源」に分けられます。

固定排出源に対しては大気汚染防止法に基づく総量規制が行われており、地域ごとにそのなかにある工場・事業所全体で排出できる大気汚染物質の総量が決められています。移動排出源に対しては、低公害車の減税や購入補助などを通じての大気汚染物質の排出削減が行われています。

しかし、窒素酸化物は大気の80%を占める窒素が燃焼に必要な酸素と反応して生成されるものであるため、何かの燃焼を行う限り発生量をゼロにすることはできません。そしてまた、燃焼温度が1,300度以上ではNOxが増加し、800度以下ではダイオキシンが生成されるという現象があるため、燃焼時の温度制御が難しいことも窒素酸化物の削減を難しくしています。

さらに、大気は国境に関係なく移動するため、自国内の総量規制だけで酸性雨の問題を解決することはできません。このため、欧州諸国を中心に49カ国が参加して1979年に締結された「長距離越境大気汚染条約」により、越境大気汚染である酸性雨などに対応しようとする動きがあります。しかし、ここに日本は加盟していません。

その代わり、日本はアジア地域の13ヵ国で構成する「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」に参加し、相互に情報提供を行っています。

 

酸性雨による影響

酸性雨による影響

産業革命以後、イギリス、ドイツなどで局地的に被害が観測されていた酸性雨ですが、世界的に注目され始めたのは、第二次世界大戦後にドイツの「シュバルツバルト(黒い森)」で木々が大量に枯死していることが報告されてからです。それ以来、シュバルツバルトは酸性雨被害の象徴として世界的に有名になっています。

生態系への影響

酸性雨は土壌を酸性化し、その土壌から植物の生育に必要な金属イオンが溶け出して森林の生長を止め、さらに、溶け出した金属イオンは河川に流入して水中の生物に悪影響を及ぼします。

また、直接的被害としては、

  • 森林の立ち枯れが起こる
  • 湖沼の酸性化により生物が生息できない『死の湖』となる
  • 建造物が酸性雨により溶かされる

が起こっています。

ただ、森林の枯死は酸性雨が原因ではないとする意見もあり、国立環境研究所は「酸性雨により森林が等しく被害を受けているとした場合、花粉症の原因となるスギが健全なのはおかしい」と発表しています。

人体への影響

目、喉、皮膚への刺激といった直接的な被害のほか、酸性雨によって溶け出した金属イオンなどの化学物質が食物や飲用水として体内に入り蓄積されると、アルツハイマー病の原因の一つになるとされています。

しかし、人体への影響を考える場合は、酸性雨よりも酸性雨の原因となる大気汚染物質がぜんそくなどの肺疾患の原因であることの方がより深刻な問題となっています。

農作物への影響はあるのか

酸性雨の影響により農作物の収量が減る被害が報告されています。しかし、ほとんどの農作物はpH3.5以下でなければ目に見える影響は現れないともされています。そのため、農作物への影響は酸性雨(pH4.0~5.0)が直接降りかかることが原因ではなく、酸性雨による土壌の酸性化や土壌中の養分が流出することが原因だとする説が有力になっています。

とはいえ、酸性雨が降ることによる被害であっても、酸性雨の原因物質による被害であっても、対策は大気汚染物質の削減であることに変わりはありません。

 

酸性雨への地域ごとの対策

酸性雨への地域ごとの対策

酸性雨対策には国境を越えた協力体制が必要ですが、それを待っているだけでは問題解決は遠のくばかりです。国際的な取り組みだけでなく、身近にある小さな取り組みの積み重ねも重要です。

群馬県の酸性雨等森林衰退対策事業

総土地面積の64.1%(2015年農林業センサス 農山村地域調査)を林野が占める群馬県では、その森林資源を酸性雨から守る施策として「酸性雨等森林衰退対策事業」を実施しています。

この事業は、5年を一区切りとしてモニタリング調査を行うことで森林の潜在的被害を発見することを目的としています。1990年から2004年までの調査では年間を通して酸性雨が観測されましたが、森林は良好な生長を続けており、健全であるという結果を得ました。

徳島県の酸性雨対策の推進

総土地面積の75.6%(2015年農林業センサス 農山村地域調査)を林野が占める徳島県では、1984年から酸性雨の調査を開始し、2016年には3箇所で測定がされています。その結果、年度によってpH値の変動(4.4~5.3)はありますが、常に酸性雨が観測されています。

しかし、県内の森林については酸性雨による衰退は観測されていません。

県はこの長期モニタリング結果を元に、工場・事業所への排出規制の実施や県民への適正な自動車運転の呼びかけにより燃料使用量を削減させて排出ガスの削減につなげる施策を行っています。

 

森林減少の原因を酸性雨とすることには賛否両論がありますが、酸性雨が降る現象が自然環境にとって異常な状態であることに変わりはありません。そして、その主な原因が長距離越境大気汚染であることを鑑みると、国際的な協調によって解決しなければならないということは事実です。

しかし、私たちはこの問題に対して身近で小さな努力の積み重ねを行っていくことも必要でしょう。森林の生長を見守るように、やがて大きな成果となることを願って酸性雨対策に取り組み続けていきましょう。