この記事の目次
老老介護と認認介護
老老介護とは
老老介護とは、65歳以上の高齢者によって65歳以上の高齢者の介護が行われている状態のことを指します。主に、
- 高齢の夫が高齢の妻を介護する
- 65歳以上の子どもがさらに高齢の両親を介護する
ケースがあります。
厚生労働省が平成28年に実施した国民生活基礎調査によると、介護者と要介護者が同居しているケースは58.7%。また、要介護者から見た介護者の主な続柄は、
- 配偶者(妻や夫):25.2%
- 子ども:21.8%
- 子どもの配偶者:9.7%
という結果でした。性別は男性が34%・女性が66%と、女性の方が比較的多いことが分かります。
要介護者・介護者のそれぞれ年齢については、
- 要介護者が60歳以上で介護者も60歳以上:70.3%
- 要介護者が65歳以上で介護者も65歳以上:54.7%
- 要介護者が75歳以上で介護者も75歳以上:30.2%
と、いずれの数値も上昇傾向が見られる結果となりました。
【参照:平成28年国民生活基礎調査の概況】
認認介護とは
老老介護のなかで、認知症の介護者が認知症の要介護者を介護している状態を認認介護と呼びます。もともと、要介護状態になる原因の一つに認知症があるため、高齢の要介護者の多くは認知症を患っていると考えられています。
また、自分が認知症を患っているという自覚がないまま介護をしている人もいるため、認認介護の数は気付かないうちに増え続けている可能性もあるのです。
それぞれの問題点
老老介護と認認介護は、それぞれどのような問題点を抱えているのでしょうか。
老老介護の問題点
介護者の肉体的負担
要介護者の介護区分にもよりますが、基本的には高齢になればなるほど体の自由が効かなくなるため、介護者の肉体的な負担は増すばかりです。
介護士として働いているプロでさえ腰痛が職業病であるほど。高齢の介護者には大変な負担となるでしょう。
ストレス過多
長時間の介護は介護者へ多大なストレスを与えます。また、ストレスを抱え過ぎると要介護者への虐待行為につながる恐れもあります。さらに、ストレス過多によって認知症が引き起こされる場合もあるため、老老介護から認認介護へと陥ってしまうのです。
外出機会が減る
「自分が世話をしなくてはいけない」という責任感から介護に追われて外出機会が減って自宅にこもることが多くなると、周囲との関わりはどんどん薄くなっていきます。
また、
- 認知症の症状の悪化
- 体力や筋力の衰え
- 家庭内で異常があっても気付かれにくい
という心配も出てきます。
認認介護の問題点
生活力の低下
認知症が引き起こす記憶障害と認識力の低下は、食事や排せつ・そのほかの身の回りの世話をしたかどうか、介護者自身も分からなくなってしまう恐れがあります。認知症の症状の一つに食欲の低下があるため、自分では気付かないうちに栄養失調になってしまうことも十分に考えられます。
体力が衰えている高齢介護者にとって栄養失調は非常に深刻な問題で、
- 光熱費の支払いを忘れて水道・ガスが止まる
- 金銭の管理があいまいになり浪費癖になる
- 火の不始末により火事になる
といった原因にもなります。
認知症を認識できていない
認知症の要介護者は、自分には介護が必要ないと強情な態度で拒むこともあります。その際に、認知症の介護者がなんとかしようと力ずくになり、事件・事故へと発展する場合もあります。自分が何をしているか認識できていないまま加害者になってしまうのです。
老老介護・認認介護が増え続ける原因
老老介護・認認介護が増加している原因として考えられるのは、大きく分けて4つです。
医学の進歩による平均寿命の増加
日本の医療は、世界的にも優れた技術を持っていると高く評価がされています。そのおかげで日本人の平均寿命は年々延びており、
- 2000年:男性77.72歳・女性84.60歳
だったのが、
- 2010年:男性79.64歳・女性86.39歳
- 2016年:男性80.98歳・女性87.14歳
となりました。しかし、平均寿命が増えることで「健康寿命」との差が問題視されるようになりました。
健康寿命とは、医療・介護を必要とせずに自分自身で自立した生活を送ることができる生存期間のことを指します。平成25年時点では、男性の平均寿命が80.21歳に対して健康寿命は71.19歳、女性の平均寿命が86.61歳に対して健康寿命は74.21歳で、男性・女性とも平均して約10歳ほど離れています。
平均寿命と健康寿命の差が広がれば広がるほど、必然的に老老介護の可能性も増えていくのです。
核家族化と第三者へ頼むことへの抵抗
結婚により両親から別居して暮らす家庭の増加「核家族化」の進行も老老介護の原因となっています。二世帯住宅であれば介護が必要になった場合でも息子(娘)夫婦が手伝うことができますが、一世帯の場合では簡単に頼むことができず、高齢者同士で介護を行わざるを得ないのです。
さらに「巣立っていった子どもに介護をお願いするのは申し訳ない」「世話になるなんて情けない」という考えから助けを求めることに負い目を感じてしまうケースも多く見られます。
実際、昭和61年には65歳以上の高齢者と一緒に住む人がいる世帯数の割合は44.8%でしたが、平成28年には11.0%にまで減少しています。
深刻な核家族化は日本にどのような影響を与えるか金銭面の問題
「老人介護施設」いわゆる老人ホームに入れば老老介護の問題は解決できるものの、老人ホームへ入居するには一般的に「入居一時金」「月額利用料」「その他雑費」の3つの主な支払い費用がかかります。
頭金だけでも100万円以上の金額が必要になる場合が多く、金銭的に余裕がなかったり生活保護を受給したりしていると難しいでしょう。
老人介護施設の不足
特別養護老人ホームは、介護サービスの支援として自治体からの補助金を受け取り運営しているために一般的な老人ホームよりも安い金額で利用できます。しかし「待機老人」という言葉があるように、利用希望者が多すぎるため施設へ入居したくてもできないケースが多く発生し、なかには数ヵ月から数年待たされる場合もあります。
自治体からの補助金を受け取って運営していることもあって簡単に施設を増やすこともできないため、供給面では解決のめどが立っていません。
老老介護・認認介護の対策
老老介護と認認介護の原因と問題点を把握した後は、具体的な対策を考えていかなければなりません。
子どもや兄弟姉妹を頼る
子どもは、老老介護で何か問題が起きたとき無関係ではいられません。子どもや兄弟姉妹に介護を頼むことに抵抗があっても、生活破綻や共倒れなどの深刻な状況になってから巻き込んでしまう方が、子どもの生活に甚大な影響を与えてしまいます。
夫婦間で介護を行っている人は、子どもや兄弟姉妹に深刻になる前に相談し、体力的・金銭的な負担を少しでも減らせるように心がけましょう。
介護サービスについて調べる
介護生活を補助する介護保険制度と介護サービスについて詳しく調べると良いでしょう。知識がないために受けられる支援に気付かず、金銭的・体力的・精神的にも限界を迎えてしまうのはあまりにも酷な話です。
医療保険は保険料を払ってさえいれば利用できる一方、介護保険サービスは保険料を払っているだけでは利用できません。利用するには、
- 市町村の役所で要介護認定を申請し、認定を受ける
- サービス利用のためのプランを立てる
という手順が必要になります。認定をされれば、自己負担額は1割~2割ほどで介護サービスの利用が可能になります。
要介護にならないよう予防する
要介護状態にならないように生活習慣を改善し、健康寿命を延ばすことが大切です。
また、要介護状態になってしまっても、要介護区分が低いうちに頭と体を意識的に動かし続ければ病気の進行を遅くでき、身体機能を取り戻せる可能性も大いにあります。
介護者の負担を増加させてしまわないよう、脳トレ・運動など認知症への対策はしっかりと行いましょう。
違和感を感じたらすぐに病院へ
症状が軽くても、何かしらの違和感を感じた場合はすぐに病院へ行き、要介護区分が上がってしまうきっかけを見逃さないことが重要です。老老介護の場合、医者と看護師が介護者の容体も気にかけ、面倒を見てくれるでしょう。
定期的に通院することで人と話す機会が増えると認知症の症状に早めに気付いてもらえる確率が上がるため、適切な対処が可能になります。
「介護難民」という言葉があるように、要介護者であるにもかかわらず介護をしてもらえない人や老人ホームに入れない人は年々増加しています。日本の未来を考えるうえで「介護問題」は避けては通れない道となるでしょう。