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日本の水資源の問題
日本の水資源の利用量
私たちが生活に利用する水として最初に思い浮かぶのは飲用水ではないでしょうか。一人あたり一日に必要とされる飲用水の量は、食事からの摂取を含めて約2.5リットル。しかしこれは、生活用水として使用されているうちの1%にも満たないものです。
日本における生活用水の内訳は下記のようになっており、洗浄目的の使用がほとんどです。これらは普及率97%の上水道でまかなわれています。
- 風呂:40%
- トイレ:22%
- 炊事:17%
- 洗濯:15%
家庭以外を含めて考えると、日本の水資源の利用量は一人・一日あたり下記のようになっています。
- 生活用水:320リットル
- 工業用水:240リットル
- 農業用水:1160リットル
工業用水には主に地下水が使われていますが、一度使った水資源の再利用も進んでいます。
また、農業用水には河川水や農業用のダムからの水が使われており、使用後は河川に戻されて下流域の生活用水・工業用水として利用されます。
仮想水とは
みなさんの生活に必要な水資源の量はこれだけにとどまりません。「仮想水」という概念が存在します。
仮想水とは、食料の輸入の際に、その食料の生産にともなって必要となった水を「間接的に輸入」したと捉える考え方です。例えば茶碗1杯分(約150g)の米を生産するのに約540リットルの水が必要だとした場合、この米を輸入したとすると約540リットルの水を間接的に輸入していることになります。
日本の食料自給率は40%と他国に比べると低い水準ですが、仮想水の概念に基づくと、水についても海外にその多くを依存していることになります。
日本の抱える水問題と原因
世界の中で降雨量の多い地域に分類される日本(世界の年平均降水量の約2倍)では、水の自然循環によって淡水を容易に手に入れることができます。また、山地が多いために高所に降った水を低所にある流域に容易に届けることもできます。
しかし、急こう配の斜面の多い地形により、これを貯めておくことが難しいというのが日本の現状です。毎年のように渇水問題が起きたり豪雨による洪水や土砂災害が起こるのは、日本の独特な地形に原因の一つがあるのです。特に1994(平成6)年に全国的に起きた「平成6年渇水」は記憶に新しいものです。
さらに、生活用水のほとんどを上水道でまかなう生活スタイルは浄化能力を超えた汚水を発生させ、水質汚濁の問題を起こしています。
これらの解決のため、治山事業による河川・湖沼・地下水などの水源環境の保全や水質浄化技術の発展が求められています。
水問題への取り組み
人口増加や経済成長にともない増大してきた水需要は、経済成長による生活水準の向上で普及したトイレの水洗化や入浴回数の増加などによって、さらなる増加が続きました。
このことが地域の水収支(水の供給と汚染水の浄化、再利用)のバランスを壊し、自然の浄化能力を超えた量の汚染水が発生。河川・湖沼・地下水・沿岸の水質汚濁を招いてしまったのです。
対策として国は、「健全な水循環の維持又は回復」を目指した「水循環基本法」を2014年7月1日に施行しました。この法律には5つの基本理念と8つの基本施策が定められています。
基本理念
- 水循環の重要性
- 水の公共性
- 健全な水循環への配慮
- 流域の総合的管理
- 水循環に関する国際的協調
基本的施策
- 貯留・涵養機能の維持及び向上
- 水の適正かつ有効な利用の促進等
- 流域連携の推進等
- 健全な水循環に関する教育の推進等
- 民間団体等の自発的な活動を促進するための措置
- 水循環施策の策定に必要な調査の実施
- 科学技術の振興
- 国際的な連携の確保及び国際協力の推進
また、
- 福島県:うつくしま「水との共生」プラン
- 岡崎市:岡崎市水環境創造プラン
- 熊本地域:熊本地域地下水総合保全管理計画
などの水を通した地域活性化の取り組みも行われています。
世界の水資源
地球全体に存在する資源のごく一部しか利用ができない水ですが、世界全体に平等に分配すると仮定するならば、十分な量が存在します。水資源の問題の本質は地域間の偏りによるものなのです。
世界の飲用可能な水普及率
世界の地域別に見た「安全な飲用水」を手に入れられる人の割合は下記のようになっており、アフリカやアジアを中心に、世界で約12億人が安全な水を飲むことができません。
- アフリカ:62%
- アジア:81%(日本は100%)
- ラテンアメリカ:85%
- オセアニア:88%
- ヨーロッパ:96%
- 北アメリカ:100%
アフリカの水事情(水不足に悩む人々)
「安全な飲用水」の普及率が62%と低いアフリカでは、農業用水として使っている地下水が枯れて農地が減り始めています。
また、水需要が増加した上流地域と水資源が枯渇し始めている下流地域との間で紛争の発生が予想されている地域もあります。
世界の水問題への取り組み
2015年に国連の全加盟国(193国)によってはじめられたSDGsは、2030年までの15年間で極度の貧困・不平等・不正義をなくすために達成すべき17の目標を掲げています。
その目標の一つに、水問題について「すべての人々の水と衛生の利用可能と持続可能な管理を確保する」ことが定められており、これに基づき世界の国々が一致協力して、使用水量の削減、水質浄化、人だけではなく動物や植物を含めた総合的水資源の管理、下水設備の導入に取り組むこととなっています。
また、日本も国際標準化機構(ISO)において、水分野に関する技術の標準化を進めています。
水道の浄水技術
自然循環の範囲内で生まれる以上の水利用を可能にしているのが、人工的に水循環を促進するための浄化技術です。
浄水技術とは
浄水技術は大まかに濁りの除去と消毒を行う技術を指し、「急速ろ過」「緩速ろ過」「膜ろ過」「消毒のみ」の4種類が存在します。
このうちの「膜ろ過」において、日本は世界一の技術をもっています。
日本が誇る浄水技術
日本の誇る「膜ろ過」技術は、従来の「急速ろ過」方式の凝集・沈殿・ろ過を、膜ろ過だけで実現することを可能としました。
この膜ろ過設備は自動化がしやすく維持管理が楽なうえに、多くの汚濁物質に適用でき、海水の淡水化までこなしてしまいます。
欠点は、設備の価格が高く導入コストの面で他の技術に後れを取っている、水の温度(温度変化による粘度の変化)による処理能力への影響が大きい、(現時点では)製品精度にばらつきがある、等になりますが、これからの技術の発展に期待したいところです。