その他「ゴール」に向けて、もがき続ける(長崎県島原市 地域おこし協力隊 光野竜司)

(前回記事:「県内外に品質の良い野菜を届ける」)

 

地域活性の「ゴール」は

地域活性の「ゴール」は

東京から20人が民泊で島原に

愛甲(株式会社イタドリ 代表取締役):域内の農業を観光に活かすことはされていますか?

光野(長崎県島原市 地域おこし協力隊):島原の農業の現場を都会の子どもに見てもらうというプログラムは作っていて、先月は実際に20名ほどがいらっしゃいました。宿泊は民泊です。明確な形ではないですが、観光にもつながれば良いと思っています。

農業体験を観光商品として売り出すこと自体は簡単ですが、その先をどうするか考えているところです。この体験を通して消費者と農家に直接知り合ってもらい、消費者の方が友達感覚で島原に来ていただけるようになれば嬉しいです。着地型観光に近いものかと思いますが、このような形を目指したいです。

島原には一年半住んでいて、不便な場所だと思うこともあるのですが、何でも観光になり得るなと思っています。例えば農業でも、そこに魅力があれば観光になるし、ただ商品を作るだけではなくて島原そのものの魅力を作っていけば、それも観光になり得ます。今行っているECでさえも観光に繋がる可能性すらある。

何が「地域おこし」につながるか、模索の日々

愛甲:観光というのは非常に捉えるのが難しい分野ですよね。ただひたすら旅行のパッケージを作って売り出していくのではなく、周辺領域まで概念を広げていく。

光野:「地域商社」というものがありますよね。島原でも社団法人ができて活動を始めています。島原の野菜や工芸品を海外に輸出しようとしていまして、この領域も観光につながると思っています。こういったことを考え始めると、もはや何が「地域おこし」に該当するのか正直よく分からなくなってきますね。

愛甲:地域に関わられている多くの方が思っていらっしゃるでしょう。個人的な考えですが、「地域活性」というものの本質は、経済的な発展を目指すものではなく、その土地の食や住まい、芸術や風俗・歴史といったものを消滅させないこと。言い換えると、「地域の方が自分たちの活動に誇りを持ちつつ文化を維持させていくこと」。僕はこう思っています。経済学部出身でこのようなことを言うのもアレですけど…。人口が構造的に減っている以上、絶対的な数値としての経済成長を望むのはかなり負荷がかかることだと思っています。

光野:地域の方々が地元の良さを伝えられるような風土ができれば良いですね。

愛甲:それが生きがいというところに直結しますから。ただ、数値で測ることができないので、どこにゴールを持ってくるかが非常に難しいですけれども。

 

感覚を研ぎ澄ますために、あえて都心に出ていく

感覚を研ぎ澄ますために、あえて都心に出ていく

他の経済圏から「外貨」を獲得する

愛甲:観光や地域商社という文脈で言うと、いかに外からお金を引っ張ってくるか、これについてはどう考えていますか?

光野:「外貨」という言い方をしていますが、地域内だけで考えると、そこですでにできあがっている経済圏があるため新しい取り組みにも限界があります。ですから、今後は自分たちの魅力をいかに外に発信していくかが重要になってくると思っています。これが地域には一番欠けている視点なのかなと。

愛甲:僕も当初は外貨の獲得が重要だと考えていたのですが、このところ少し考えが変わってきています。伊豆大島を例に挙げますが、ここは観光で栄えてきた場所、しかし今はピーク時の1/4から1/5くらいまで観光客数が減っています。観光客数が減ればその分だけ島に落ちる外貨も少なくなるわけですが、観光客数を以前の水準まで戻せば良いかというと、それは違うと思っています。

というのも、町として歳出の二割程度しか自主財源でまかなえていないという非常に厳しい状況にあるなか、それでも島にはお金があるんです。銀行に多くのお金があるといことです。島の信用組合に莫大な預貯金が。

これを引っ張りだして、そのお金が少しでも長く島内を環流する仕組みを作ることが最重要だと考えています。他の地域も似たような状況だと思いますが、島原はどうでしょう?

光野:島原でもその状況はあると思います。農家一軒をとっても、あまり経費をかけずに(設備投資をせずに)大きな売上を達成している方が多くいらっしゃいます。あとは、市民性としてお金を貯め込む傾向があります。

愛甲:どこも未来に不安を感じているということでしょうか。もちろん銀行の預貯金の一部が融資によって設備投資や運転資金に回される面もありますが、特に地域金融機関の優良先以外への事業者向け融資は額自体が絞られるので、効果は限定的でしょう。

事業を始めることで生まれる「価値観の揺らぎ」

愛甲:お金の環流という面でいうと、とりわけ「食品」で回すことが重要だと思っています。自給率の面もありますので。

光野:自給率って本当に上げた方が良いんですかね?

愛甲:やはり最低ラインは確保しておくべきでしょう。ただ、100%である必要は全くなくて、それこそ僕は「餅は餅屋」的な考えです。食べ物を作るのに適している場所と適していない場所は必ずありますから、前者から仕入れるのは効率的なことだと思います。目的をどこに設定するかはなかなか難しいところですよね。

光野:そうなんです。今ある問題提起は自分が高校や大学の時にできあがったものですが、それがこのところ崩れ始めていまして…。

愛甲:悪いことではなくて、徐々に変化してくるものですよね。先ほども言いましたが、僕も会社の立ち上げ当初は観光業を軸に展開する必要があると考えていました。それが町の財政を建て直すには最短なのかなと。

でも、そうではないのかなと。会社を設立して4年目になるのですが、直近の1年くらいはそう思っていて、かなり揺れています。

光野:島原にいると考えが出てこないのですが、東京に来ると気付くことが多くあるんです。情報格差なのか、意識格差なのか。そういったものってどこから来るんでしょうね?流れている空気感が違うというか。

愛甲:違いますよね。僕も伊豆大島に行ける頻度自体が減っているのですが、それでもやはり東京にいると危機感は感じます。スピード感もありますし。

光野:東京にいると自分がやっていることを客観的に捉えることができる気がしていて、島原にいると周りに流されてしまう感じがあるんです。田舎の時間感覚に。ですから、あえて毎月東京には出てくるようにしています。

(第5回目に続く)