暮らし誰もが住みやすい国へ 障害者雇用促進法の改定と障害者雇用の現状

誰もが住みやすい国へ 障害者雇用促進法の改定と障害者雇用の現状

人の役に立ちたい。収入を得て自立したい。人が働く理由はたくさんあり、働いて社会に貢献したいという思いは人の本質的な願いといえるでしょう。そしてその願いは、障害がある人もない人も同じです。本記事では、障害者雇用促進法から日本の障害者雇用の現状について考えていきます。

日本の障害者雇用の現状

日本の障害者雇用の現状

障害者雇用の促進

障害がある人も個人としての尊厳を大切にされて、自立し安定した生活を送ることができるように、日本ではさまざまな障害者雇用対策が行われています。

その中心となっている法律が「障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」)」です。この法律は障害者の職業の安定を図ることを目的としており、

  • 雇用義務等に基づく雇用促進
  • 職業リハビリテーションの推進

という2本柱の施策を推進しています。

この法律における「障害者」には、

  • 身体障害者
  • 知的障害者
  • 精神障害者

が含まれており、これらの障害があるために長期にわたって職業を持つことに相当の制限を受けている人や、職業を持つ生活を送ることが著しく困難な人を対象としています。

日本では障害者雇用対策として、就労を希望する障害者および障害者雇用に取り組む事業者の双方への支援が行われています。

就労を希望する障害者に対しては、就労から職場に定着するまで、さまざまな機関が連携して行う「チーム支援」があります。

また、事業者は一定割合で障害者の雇用が義務付けられており、障害者雇用に取り組む事業者に対しては、助成金や税制の優遇制度が設けられています。

障害者雇用の現状

これらの総合的な支援や対策によって障害者の雇用は増加傾向にあります。2016年の雇用障害者数は約47万4000人となり、事業者の障害者雇用率を示す「実雇用率」は1.92%と、雇用者数・実雇用率ともに過去最高を記録しています。

ただ、障害者雇用の中心となっているのは大企業であり、中小企業での取り組みは低調です。実雇用率について企業規模別(従業者数)で見ると、全体の数値である1.92%を上回っているのは「500人〜1,000人未満」および「1,000人以上」の企業であり、500人未満の企業ではどの区分でもこの数値を下回っています。

障害者雇用の問題点

抱えている障害の格差

障害者を雇用するといっても、抱えている障害の種類によって雇用状況・雇用対策は大きく異なります。例えば、昭和35年に障害者雇用促進法が初めて制定された際、障害者として認められていたのは身体障害者のみでした。

その後、知的障害者が障害者雇用対象の障害者として認められたのは平成9年になってからです(施行されたのは平成10年の7月1日)。精神障害者が障害者雇用の対象となったのはさらに遅く、法改正が行われたのは平成25年になってからのことでした(施行されたのは平成30年の4月1日)。

雇用に関する問題

民間企業における障害者の雇用数を障害の種類別に見ると、身体障害者の割合が最も多く、平成26年~平成28年の数値では7割を占めます。また、前年からの伸び率を見てみると、

  • 身体障害者は2%~3%
  • 知的障害者は7%~9%
  • 精神障害者は21%~25%

となっており、精神障害者の雇用率が著しく伸びています。

民間企業での障がい者の雇用状況
身体障害者知的障害者精神障害者
平成26年31.3万人9.0万人2.8万人
平成27年32.1万人9.8万人3.5万人
平成28年32.8万人10.5万人4.2万人

そのほかにも、

  • 職場の人間が障害者の特性を理解できるか
  • 精神障害を抱えている人が短期間で仕事を辞めてしまわないためにはどうするべきか

などの課題が残されています。

 

障害者雇用促進法とは

障害者雇用促進法とは

「障害者雇用促進法」は上述したとおり、

  • 雇用義務等に基づく雇用促進
  • 職業リハビリテーションの推進

の2本柱で構成されています。

雇用義務等に基づく雇用促進

雇用する側、すなわち事業主に対する施策です。大きく分けて「雇用義務制度」と「納付金制度」の2つで構成されています。

雇用義務制度

一定数以上の従業員を雇っている企業は、障害者の雇用率を2.2%以上にしなければならないという制度です。また、この数値を満たしていない事業主に対しては、ハローワークから行政指導が行われます。

納付金制度

障害者を一定数雇用するためには、作業施設・職場環境の整備改善や特殊な雇用管理形態が必要となってくるため、一般的な雇用者を雇うよりも多くの負担をともなってしまいます。この負担を軽減するために設けられている制度です。

職業リハビリテーションの推進

障害者本人に対する就労支援として実施されるもので、地域の就労支援関係機関が連携して障害者の職業生活における自立を支援しています。

関係機関には、「ハローワーク」「地域障害者職業センター」「障害者就業・生活支援センター」が含まれ、それぞれ下記の役割を担っています。

  • ハローワーク:障害者の状況に応じた職業紹介、職業指導、求人開拓
  • 地域障害者職業センター:職業評価、準備訓練、ジョブコーチといった専門的な職業リハビリテーションサービス
  • 障害者就業・生活支援センター:就業、生活両面にわたる相談や支援

 

障害者雇用促進法の改正

障害者雇用促進法の改正

「障害者雇用促進法」は2013年に改正が行われ、一部は2016年4月1日に施行されました。

この改正では、雇用分野での障害者差別を禁止し、障害者が職場で働くにあたって支障となるものを改善するための措置が定められました。また、法定雇用率の算定に以前は含まれていなかった精神障害者を含めることになりました。

改正の主なポイントは以下の3つです。

障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務

募集・採用・賃金・配置・昇進などの雇用に関するあらゆる局面において、障害者であることを理由とする差別が禁止されました。

  • 意図的に給料を下げる
  • 研修を受けさせない
  • 食堂の利用を禁止する

などがこれにあたります。

「合理的配慮」とは、事業主に対して障害者が働くうえでの支障を改善することですが、具体例としては以下のような措置が挙げられます。

  • 視覚障害がある方に対して、募集や採用時に点字や音声などで採用試験を行うこと
  • 採用後、肢体不自由がある方に対して机の高さを調節するなど、仕事を円滑に行えるように工夫をすること

ただし、障害者一人一人の状態や職場の状況に応じて求められるものが異なり、一律には決められません。事業主が障害者個人の事情を配慮し、相互理解の中で提供されるべきものです。

具体的にどのような措置をとるかは、障害者と事業主とでよく話し合ったうえで決めることとされています。

苦情処理・紛争解決の援助

事業主は、障害者に対する差別や合理的配慮の提供に関する事項について、障害者である労働者から苦情の申出があった場合、その解決を自主的に行うことが求められています。

自主的に解決しない場合には、都道府県労働局長が必要な助言、指導または勧告をすることができます。また、これは新たに創設される調停制度の対象となります。

法定雇用率の算定基礎の見直し

上述したように、障害者雇用の対象に新しく精神障害者が追加されました。また、その際に法定雇用率も見直され、

  • 民間企業は2.0%から2.2%
  • 教育委員会は2.2%から2.4%
  • 官公庁・特殊法人は2.3%から2.5%

へと引き上げられました。

MEMO
法律の施行後5年間(2018年4月1日〜2023年3月31日まで)は激変緩和措置の猶予期間となっているため、定められている法定雇用率を下回っても良いとされています。

 

障害がある人も生きる尊厳を大切にされ、自立し安定した生活をする。障害がある人も住みやすい国になるように、一人一人が小さなことから取り組んでいく必要があるでしょう。