日本を影で支える「養殖漁業」を徹底解説!

日本を影で支える「養殖漁業」を徹底解説!

魚をはじめとした水産物は、私たちにとって身近な食材です。その水産物を支えているのが「養殖漁業」です。本記事では、知っているようで知らない養殖漁業について考えます。

養殖漁業と栽培漁業

養殖漁業と栽培漁業

水産物の現状

四方を海に囲まれた日本では、魚をはじめとした水産物が豊富に得られるため、水産物は非常に身近な食材と言えます。日本列島沿岸は海流の暖流と寒流がぶつかる場所であることから、多くの種類の海産資源に恵まれているのです。

日本の食料はその多くを輸入に頼っており、2016年時点の食料全体の自給率(カロリーベース)は38%と、低い状態が続いています。

海に囲まれていることから魚介類の自給率は高いように思われがちですが、同じ2016年時点の自給率(カロリーベース)は59%とさほど高くはありません。1975年ごろには100%近くだったことを考えると、大きく低下していると言えます。

水産物の生産量推移を見ると、水産物全体の消費減少や健康志向による世界的な魚食ブームにより、漁獲量・輸入量ともに減少しています。しかし、海面養殖、いわゆる「養殖漁業」はここ20年を見ても安定した生産が続いています。

養殖技術の進歩とともに養殖できる魚の種類が増え、コストの低下によって価格も安定していることから、養殖漁業の重要性がますます高まっているためです。

養殖漁業とは

養殖漁業は、水槽や生けすを用いて、ふ化した稚魚が出荷できるサイズになるまでの全期間を人為的な管理下で行う漁業です。

これが日本で初めて行われたのは1927年のこと。香川県の野網和三郎が、入り口が小さい入り江に入った魚が餌を食べて大きくなる様子からヒントを得て、ハマチで取り組んだのが最初です。当初はうまく行きませんでしたが、1960年ごろから生産量が急激に増え始めます。

2016年時点ではブリやマダイ、カンパチ、クロマグロなどを中心に20種類以上の魚種で行われ、総生産量は24万5千トンを越えるまでになり、日本の漁業を支える存在となっています。

栽培漁業とは

養殖漁業に似たものとして「栽培漁業」があります。栽培漁業は、卵をふ化させて稚魚になるまでを人為的な管理下で行い、外敵に捕食される可能性が低くなった時点で河川や海などに放流して、成魚になったものを漁獲する漁業です。

サケやアユ、イワナなどの稚魚の放流が各地で行われていますが、これが栽培漁業にあたります。

養殖漁業の必要性

近年、水産資源をめぐる国際的な競争が激しさを増しています。背景にあるのは、新興国における人口増加と経済発展、加えて先進諸国における健康志向による魚食ブームです。

水産資源は再生産できる持続可能な資源ですが、個体数が維持される以上に乱獲してしまえば、枯渇してしまいます。

国連食糧農業機関(FAO)による評価では、枯渇状態にある魚が世界全体の約30%、これ以上獲り続けると枯渇しかねない魚が約60%であると報告されています。

魚の数は世界的に減っているものの、世界全体の漁獲量はおおむね横ばいの状態が続いています。これは、乱獲が止まっていないことを示しているのです。

この状況のため、これまで問題なく獲れていた魚がある年から急に獲れなくなる現象が生じています。例えば、秋の味覚の代表でもあるサンマは以前は20万トン〜30万トンの漁獲がありました。しかし、2015年、2016年は不漁が続き、半分以下の約11万トンしか獲れませんでした。

原因としては海水温の分布が変わったことによるサンマの分布の変化が大きいと考えられていますが、近隣諸国による大量の漁獲も指摘されています。このように、これまで獲れていた魚が獲れなくなることが今後ますます増えていくと懸念されています。

そこで、注目を集めているのが養殖漁業です。天然物が獲れなくなることが現実となってきた今こそ、持続可能な漁業としてますます必要とされているのです。

 

さまざまな養殖方法

さまざまな養殖方法

ここでは、さまざまな養殖の方法について見ていきます。

給餌養殖と無給餌養殖

養殖は、魚や甲殻類(エビなど)、貝や海藻を対象に行われています。

このうち、魚や甲殻類に対して行われているのが餌を与える「給餌養殖」です。人間が餌を与えることで、餌の種類や量を調節することができます。

これに対して、貝や海藻に対して行われているのが餌を与えない「無給餌養殖」です。貝や海藻は自然界に存在する栄養塩やプランクトンを餌としているため、人間が餌を与えなくても成長するのです。

魚類の養殖方法

魚類は海面に設置した生けすまたは養殖池で育てられます。

生けすは、自然の潮通し(海流)のある岸から離れた場所に設置されます。そのため、稚魚の投入や給餌、収穫の作業は漁船を用いて行われます。海流があることから、水を入れ換える必要がないという利点があります。

養殖池で行う場合やきれいな水を好む魚種の場合は、恒常的に交換する「掛け流し式」を採用します。ある程度濁った水を好むウナギのような魚種の場合は水を交換せずに養殖されます。

餌は、かつてはイワシをはじめとした生き餌が主流でした。しかし、イワシの漁獲量が激減したことや食べ残しによる水質悪化への対策の必要性から、配合飼料であるモイストペレットやドライペレットが主に用いられるようになりました。

藻類の養殖方法

藻類の養殖は、岸に近い沿岸で海流が穏やかな場所で行われます。種苗をロープや網に付着させ、海水から栄養分を吸収することで成長させます。

大きく成長する昆布やワカメには主にはえ縄が、ノリには網が用いられます。

貝類の養殖方法

貝類はいかだからロープやワイヤーを垂らす「垂下式」と呼ばれる方法が主に用いられます。

ロープやワイヤーの先に貝を直接ぶら下げたり、ぶら下げたネットの中に貝を入れたりする方法が用いられます。貝類は海中に存在する微少なプランクトンを餌として成長します。

養殖が行われている魚の種類

養殖が行われている魚の一部を紹介します。

ブリ(スズキ目アジ科ブリ属)

日本における養殖魚のなかで最も生産量が多いのがブリです。その要因としては、適応する水温が広いこと、種苗が安定して確保できることなどが挙げられます。

成長するにつれて名前が変わる「出世魚」として知られており、いなだやハマチもブリの若い時の名前です。

静岡県より西で盛んに養殖されており、生産量が特に多いのは愛媛県・鹿児島県・長崎県・大分県・香川県です。

マダイ(タイ科マダイ亜科マダイ属)

赤いマダイは、その姿や色彩、洗練された味覚から「魚の王様」として珍重されてきた、おめでたい席には欠かせない魚です。

ブリと同じく適水温が広くて種苗が安定して確保できることから、静岡県より西の各地で養殖されており、生産量はブリに次いで2位、生産尾数は最も多くなっています。

生産量が特に多いのは愛媛県・三重県・長崎県・熊本県・高知県です。

カンパチ(スズキ目アジ科ブリ属)

カンパチはブリの仲間で、ブリよりも南方に住み、かつ大きく成長します。

適水温はブリよりもやや高めであることから、養殖地は黒潮分流が流れ込む三重県以西の太平洋岸に限られています。生産量が特に多いのは、鹿児島県・宮崎県・高知県・愛媛県・香川県です。

クロマグロ(スズキ目サバ亜科サバ科)

日本はマグロ類のおよそ6割を消費する世界最大の消費国です。刺身や寿司の最高級素材とされるクロマグロは国際的な漁獲規制があり、養殖のニーズがますます高まっています。

近年は近畿大学によって完全養殖技術が確立されたことから、大手水産企業も相次いで参入するなど注目を集めています。

体重500kgにまで達する大型魚ですが、養殖では取り扱いや作業性の観点から30kg〜40kg程度まで育てられ、出荷されています。天然物に比べて脂の乗りが良いため、人気となっています。

トラフグ(フグ亜目フグ科トラフグ属)

肝臓と卵巣にテトロドトキシンという猛毒を持つトラフグ。仲間同士で噛み合ったり飼育網を破ったりするなど、養殖するには厄介な魚です。

トラフグ料理は高級料亭などでしか味わうことができませんでしたが、養殖による生産が増えたことで広く販売されるようになり、食べられる機会が増えました。

生産量が特に多いのは、長崎県・熊本県・愛媛県・鹿児島県・香川県です。

 

日本の養殖産業の現状と課題

日本の養殖産業の現状と課題

養殖産業の現状

日本における漁業・養殖業の生産量は、2015年時点で合計469万トンでした。このうち、海面養殖業による収穫量は107万トンで、全体のおよそ23%にあたります。前年に比べると、漁獲量が5%の減少であるのに対して養殖業は8%の増加となっています。

また、生産額で見ると、海面漁業で前年比4%の増加となっているのに対して海面養殖業は前年比10%の増加となっています。

海面漁業は豊漁・不漁によって漁獲高が大きく変動する一方、海面養殖業は安定的な生産が見込めることから、その重要性は年を追うごとに高まっていると言えるでしょう。

実績を着実に積み上げている養殖産業ですが、ここに至るまでにさまざまな問題に直面してきました。最も大きな問題は漁場環境の悪化です。

養殖漁業が盛んになっていった1970年代は、有機物の増大にともなう赤潮の発生に代表されるような水質悪化が各地の海で深刻化した時期でもあります。また、養殖漁業においても魚に与えた食べ残しの餌が海底に堆積し、漁場の水質を悪化させる事態が発生しました。

場所が移動できない養殖漁業では、水質悪化による漁場環境の悪化は致命的です。漁場環境の悪化は、養殖魚の病気の頻発や成長不良、歩留まりの低下などを引き起こしました。

多くの場合、養殖に適した漁場は波の穏やかな内湾海域で行われていますが、そのような場所は悪化した水質の改善に長い時間がかかります。

漁場環境の悪化が養殖漁業にとって大きな課題となったことから、1980年代以降はさまざまな対策が講じられようになります。そして、1999年には「持続的養殖生産確保法」として法制化され、良好な養殖魚場の維持が図られるようになりました。

漁場環境向上への取り組み

海域の富栄養化については、下水処理などの廃水処理が進展したことから改善が見られます。

良好な漁場環境を作るための取り組みとしては、漁場そのものについて行うものと養殖において行うものの二つに大別されます。

漁場そのものについての取り組み

  • 干潟造成:砂の投入により人工的に干潟を造成する
  • 藻場造成:自然石やコンクリートブロックを用いて海藻の生育場所である藻場を造成する
  • 底質改善:浚渫(しゅんせつ)や耕うん、覆砂により生息環境を改善する

養殖における取り組み

  • 飼養量の適正化:環境負荷にならない規模に養殖魚を調整する
  • 適正な給餌:食べ残しの餌が出ないように給餌量を調整する
  • 環境負荷の小さい餌の採用:生き餌から、より多く魚の口に入るモイストペレットやドライペレットへ転換する

これらの取り組みによって漁場環境は改善傾向にあり、病気の発生頻度の減少や生産コストの低減などの効果が見られています。

安心・安全への取り組み

近年、消費者の食品に対する安全・安心の関心が高まっています。

養殖漁業においても、病原菌や有害化学物質、残留医薬品や異物の混入といった要因に対する安全性確保が求められるようになりました。

そのようななかで、安全・安心の確保に向けて取り組まれている手法の一つが「養殖生産工程管理手法(GAP手法)」です。GAP手法は、生産者が点検項目や作業手順・記録方法などの工程全体を管理・実践することにより、養殖水産物の安全性や品質向上を目指す工程管理手法です。

従来の養殖漁業では生産工程におけるチェックはほとんどなされず、出荷時の検査のみが行われるのが一般的でした。しかしこの方法では、途中の生産工程でどのような管理が行われたのかが分からず、何らかの事故が生じたときに原因の究明を行うことが困難でした。また、品質を向上させる方法を検討することも難しかったのです。

GAP手法を採り入れることで途中の生産工程の記録が残り、チェックも行われることから、食品としての安全・安心の確保を保証できるだけでなく作業効率の見直しにも役立ち、生産の安定化や生産性向上につなげることもできます。

農林水産省はGAP手法を推進するため、モデル事例としてのチェックリストや手順書を公開しています。これによって、養殖漁業者がGAP手法を導入するハードルが下がると期待されています。

養殖漁業の技術革新

これまで、養殖漁業は沿岸域の海面で行われるのが一般的でした。しかし、技術革新によって、海から離れた内陸でも海水魚の養殖が可能となりつつあります。

岡山理科大学の山本俊政准教授は、海水魚にとって必要最低限の成分を含みながら淡水魚も影響がなく生きていける「好適環境水」を開発し、海水魚と淡水魚を同じ水槽で同時に飼養する取り組みを進めています。

この技術が一般的になると、山間地や砂漠などの海から離れた場所でも魚介類を生産することが可能になります。

さらに、養殖に用いた好適環境水を浄化して再使用することで野菜の水耕栽培も可能となりました。魚の排泄物に含まれるリンと窒素が肥料として用いられるのです。

日本は周囲を海に囲まれていますが、沿岸の開発や環境の状況により養殖に適した場所は限られているというのが現状です。内陸でも養殖ができる技術は、今後の世界の漁業のあり方を大きく変えるものとして注目されています。

 

環境の変化や国際的な食生活の変化を背景に、魚を取り巻く状況は大きく変わっています。安定的に水産物を供給する養殖漁業には、これまで以上に注目が集まるでしょう。