歴史ある日本の伝統工芸薩摩切子の特徴と歴史|江戸切子との違いも解説!

復刻された鹿児島の工芸品「薩摩切子」の魅力

厚みのあるガラスに美しい切子細工を施す薩摩切子。国内外から賞賛されるこの伝統工芸品の歴史は一時途絶えていましたが、1980年代に復活を果たします。伝統を守りながらもさらなる高みを目指す薩摩切子の特徴や歴史、江戸切子との違いについても紹介していきます。

薩摩切子の特徴

薩摩切子の特徴

薩摩切子は鹿児島県で作られているカットグラス(切子)で、「薩摩ガラス」「薩摩ビードロ」と呼ばれることもある、ガラス面に施された繊細な細工と色彩が美しい伝統工芸品です。

現在作られている薩摩切子は後述するように復元されたもので、嘉永から明治期に作られていたオリジナルの薩摩切子は「古薩摩切子」と呼ばれる大変貴重な品となっており、「幻の切子」とも評されます。

厚みのあるガラスや「ぼかし」が特徴

薩摩切子の特徴としてまず挙げられるのが、厚みのあるガラスです。透明ガラスの上に色ガラスを被せているため、色ガラスをカットすると透明ガラスが浮かび上がるように見えます。カット部の境をあいまいにする「ぼかし」も特徴の一つです。

ガラスに使用されるのはクリスタルガラス。このクリスタルガラスは、その名前から想像できるように水晶のような美しさと透明度が魅力的です。光の屈折率が高いため光が当たると鮮やかな虹彩が見られ、薩摩切子の魅力をよりいっそう引き立てます。

現代のクリスタルガラスは品質が改善
古薩摩切子には酸化鉛が45%程度含まれるクリスタルガラスが使用されていましたが、現在では品質が改良され、私たちが一般に手に取ることができる薩摩切子(復元薩摩切子あるいは創作薩摩切子と呼ばれるもの)には、酸化鉛が25%未満のクリスタルガラスが用いられています。

江戸切子との違い

薩摩切子とともに名が挙がるものに江戸切子がありますが、江戸切子のガラスは薄めです。透明ガラスだけでなく色ガラスも薄いため透明感があり、カット部もすっきりしておりシャープな印象です。また、透明ガラスをカットする場合もあります。

また、薩摩切子は薩摩藩先導のもとに始まりましたが、江戸切子は切子職人によって広がりを見せたという違いもあります。

江戸切子の良さ|使いやすさと魅力を歴史に学ぶ 江戸切子の良さ|使いやすさと魅力を歴史に学ぶ

 

薩摩切子の歴史

薩摩切子の歴史

薩摩切子の復元とその歴史

切子模様が美しい薩摩切子が誕生したのは江戸時代の1846年までさかのぼります。薩摩藩主・島津斉興(なりおき)が、薬ビンを作らせるため、江戸からガラス職人である四本亀次郎を招聘したことから始まります。

その後の1851年に藩主となった島津斉彬(なりあきら)は、西洋に対抗するため、日本での洋式産業「集成館事業」を開始。その一貫として着色ガラスの研究が始まり、紅・藍・紫・緑などの色付きガラスが誕生しました。特に紅色の日本初である色ガラスは「薩摩の紅ガラス」として大変賞賛され、珍重されます。

薩摩切子の製法は、クリスタルガラスに色ガラスを着せてカットするというもの。高度な技術から生まれる美しいぼかしを楽しめる薩摩切子は、ビンや皿、杯などさまざまな形のものが作られるようになります。

島津斉彬はもちろんのこと、諸藩大名も注文を行うなど愛好者が多く、贈答品としても用いられました。篤姫の嫁入り道具としても知られ、海外へも輸出されています。

しかし、1858年に島津斉彬が逝去したことで事業は縮小。1863年には薩英戦争の被害を受け、工場も消失してしまいました。切子職人や技術は地方へ分散し、1877年の西南戦争前後に薩摩切子の歴史は途絶えてしまいます。

その100年ほど後の1985年、「芸術性が高い世界に誇れる薩摩切子の技術の再興を」と、鹿児島市磯にさつまガラス工芸が設立。紅・藍・紫・緑の4色の薩摩切子を復元し、文献でしか残っていなかった金赤と黄色も再現します。2005年には島津斉彬ゆかりの色として島津紫も誕生させています。

復元30周年を記念した作品

2015年、薩摩切子の復元30周年を記念してさまざまな薩摩切子が製作されました。江戸時代のデザインを復元・モチーフとしたものや新たに誕生した色を使った、新しい薩摩切子が発表されました。

菊花文六色六段重

目を奪われるほど鮮やかな六色の切子細工のモチーフは、江戸時代の菊花文三段重。菊花文三段重は、東久邇家に嫁がれた明治天皇の皇女、聡子内親王に下賜されたものです。

復元30周年を記念して三段を六段に、色は基本の紅・藍・緑に黄・金赤・島津紫が組み合わされています。高さ40センチと重厚感があるものの、鮮やかな色合いと菊の文様は、きりりとしたなかに温かみも感じられます。

菊花文色替三段重

「菊花文色替六段重」を三段にした「菊花文色替三段重」には、色の組み合わせが二つあります。「雅(みやび)」は上段・藍、中段・紅、下段・緑となっており、「煌(きらめき)」は上段・金赤、中段・黄、下段・島津紫の組み合わせ。名前のとおり印象が異なり、どちらも薩摩切子の深みが感じられます。

ワイングラス・シャンパングラス

レトロモダンの雰囲気を持つワイングラスとシャンパングラス。お酒の色も楽しめるようにとクリスタルガラスが使われており、液体が入るボウル部には江戸時代の作品である藍色脚付杯のデザインをモチーフとした文様が施されています。

「リム」と呼ばれるグラスの縁にはやわらかい面取り、ワイングラスを持つステムと台座であるプレートには薩摩切子の特徴である色被せが施されており、美しいぼかしを楽しむことができます。

モノクロシリーズ

復元30周年を記念して発表された「モノクロシリーズ」。ぼかしが表現しにくいために研究を重ねて開発された薄墨黒と光の当たり具合でさまざまな色を生み出すオパールの組み合わせは、斬新さと洗練さを兼ね備えています。

薄墨黒とオパール、それぞれ単色の花瓶には大胆な文様が施されており、ぼかしを堪能できます。そのまま飾ってもインテリアとして美しい、存在感のある作品です。

 

薩摩切子の作り方

薩摩切子の作り方

薩摩切子の製造工程

薩摩切子は下記のいくつもの工程を経て作られています。

  • 手順1
    溶解
    窯でガラスの原料となる物質を溶かす
  • 手順2
    たね巻き
    ステンレスの竿でガラスを巻き取る。透明ガラス、色ガラスは別々に巻き取る
  • 手順3
    色被せ
    「たね巻き」で巻き取った色ガラスを金型へ吹き込み、その内側に透明ガラスを押し込み、重ねガラスを作る
  • 手順4
    成形・徐冷
    色被せしたガラスを炉でなじませ、宙吹き、型吹きなどの技法で形を整える。その後、徐冷炉で16時間ほどかけて冷ます
  • 手順5
    割付・カット
    ガラスに文様を入れる目安となる線を引き、水を流しながらダイヤモンドホイールでカットしていく。ペースト状の磨き粉を付けながら、青銅やセリウム盤で磨く「木盤磨き」、竹繊維の円板を使う「ブラシ磨き」、布製の円盤を使う「バフ磨き」で丁寧に磨かれ、仕上げる
  • 手順6
    検査
    デザインをはじめ多くの検査が行われ、合格したものが出荷される

さまざまな文様とぼかし

薩摩切子の特徴は美しい文様から生まれるぼかし。重ねた厚みのあるガラスをカットしてその境をあいまいにすることで生まれる美しいグラデーションは、文様によって異なる顔を見せてくれます。

薩摩切子の伝統的な文様は10種以上。大胆にカットされるデザインのほか、細かくカットが入ったものまでさまざまです。

伝統的なデザイン名

  • 流炎文(りゅうえんもん)
  • 段差付八剣菊(だんさつきはっけんぎく)
  • 矢来に魚子文(やらいにななこもん)
  • 蜘蛛の巣文(くものすもん)
  • ホブネイル
  • 亀甲文(きっこうもん)
  • 霰文(あられもん)
  • 八角籠目に十六菊文(はっかくかごめにじゅうろくぎくもん)
  • 菱繋に小花文(ひしつなぎにこばなもん)
  • 花縁蓮弁状(はなふちれんべんじょう)
  • 六角籠目に麻ノ葉小紋と魚小紋(ろっかくかごめにあさのはこもんとななこもん)

 

薩摩切子の魅力をお手軽に楽しめる商品

最後に、薩摩切子の魅力をご自宅で手軽に楽しめるものとして、おちょことペンダントの2つをご紹介したいと思います。

島津興業 復元 薩摩切子 猪口(大)

美しい薩摩切子の猪口は、1985年に鹿児島市磯に設立された島津興行製。側面に施される繊細なカットはもちろん、底部外側にも細かなカットが施されています。

猪口のサイズは6.2センチ、φ5.2センチ。色は紅・藍・緑のほか、金赤や1988年に復元された黄色、2005年に復元された島津紫があります。どれも薩摩切子の深みを感じられる一品。

島津興業 創作 薩摩切子 ミニペンダント(八角)

薩摩切子の一片を切り取ったような美しいミニペンダントです。形は2×2センチの八角形。色は紅・藍・緑・金赤・黄色・島津紫のラインナップ。

品があり、どの年代にも似合うデザインのペンダントは、正面からだけでなく横から見ても美しい形状。横から見るとカットの形状が分かり、薩摩切子の繊細さが感じられます。

 

一時は途絶えてしまった薩摩切子ですが、美しく高い芸術性を持つ伝統工芸は見事復活。新しい色を生み出し、さらなる広がりを見せています。グラスや猪口だけでなくアクセサリーなども多数販売されているので、ぜひ楽しんでみてはいかがでしょう。