ビジネス地域が発行する通貨「地域通貨」の仕組みとメリット

地域が発行する通貨「地域通貨」の仕組みとメリット

通貨は価値尺度(価格)・交換媒体(消費)・価値保存(貯蓄)の役割を持つものですが、上位10%の富裕層が80%の富(通貨換算)を独占している状況では、その流動性が失われます。「地域通貨」は投機的利用を制限し、地域経済を救う手段となるのでしょうか。

地域通貨とは

地域通貨とは

通貨は価値尺度・交換媒体・価値保存の役割を果たすもので、これらを三大機能と呼び、この三つを完全に持っているものを法定通貨(日本の場合「円」)と呼びます。

一方の地域通貨はこれに下記のような制限をかけることで消費を促し、地域経済の活性化を目指すものです。

  • 価値尺度:法定通貨との交換を制限する
  • 交換媒体:使用を特定範囲のみに制限する
  • 価値保存:利子が付かない

法定通貨の発達は大都市圏への経済活動の集中を招き、都市圏以外の地域の経済活動を低迷させています。同時に通貨も大都市に集中し、地方における法定通貨の流通量を減少させています。

これを解決する手段として、法定通貨を補完する役割を持つ地域通貨が注目されるようになり、ブームとも呼べる現象が起こっているのです。

地域通貨の起源

地域通貨は、1930年代の世界大恐慌からの脱出手段として考えられた「スタンプ貨幣(有料のスタンプを毎週貼り続けないと価値を維持できない貨幣)」が始まりと言われています。これは、貨幣に有効期限を設けることで購買行動を誘発し、経済活性化を狙ったものです。

その他には相互扶助を目的とした地域通貨もあります。これは、法定通貨の暴落から地域経済を守る役割を担うものです。

「紙幣類似証券取締法」に接触する恐れが指摘されていますが、「複数回流通は登録事業者間に限る」、「換金は指定金融機関で行う」との条件で財務省が了承しています。地域限定や用途限定であれば紙幣類似証券とは見なされず、取り締まりの対象にはなりません。

注意
単位が「円」であるものは上記の条件に関係なく取り締まりの対象となる

地域通貨のタイプ

集中管理方式

集中管理方式は、通常の通貨と同様に「利便性」と「匿名性」を持っています。しかし、経済の活性化を目的としているために利息は付かず、使うことが目的の通貨といえます。

相互信用発行方式

相互信用発行方式は、取引記録を集中管理することで成り立っている通貨です。

地域通貨を介して会員同士が「できること」と「して欲しいこと」を交換しあうシステムで、相互扶助を目当てにしているために口座残高がマイナスであっても物品・サービスの購入が可能であり、口座残高に厳密な拘束性はありません。

地域通貨の種類

紙幣発行型

紙幣発行型は、地域独自の紙幣や硬貨を発行して流通させ、地域経済の活性化を図るものです。

イサカ・アワーは1991年に導入されたニューヨーク州イサカ市内の商業施設で支払に利用できる紙幣発行型の地域通貨で、10米ドルを1アワーとしています。この10米ドルというレートは、発行当時の地域内平均時給を元に決定されました。

発行団体がその価値を保証しているため、法定通貨のように匿名性と利便性を備えています。

通帳記入型

通帳記入型は、利用者間の取引を登記人が通帳に記録・管理する地域通貨です。例としては、1983年にアメリカでマイケル・リントンが考案したLETSがあります。

LETSは残高がゼロからスタートし、その額は取引により増減します。口座残高のプラスマイナスにかかわらず利息は発生せず、残高がマイナスであっても個人保証により取引が可能であるため、残高そのものに意味はありません。

小切手型

小切手型は、その名のとおり小切手を発行します。また、利用者が特定できるように裏面に自身のサインをして取引する特徴があります。

「しあわせ交換券ハピー」は、2003年に福井県鯖江市の「さばえNPOサポート」が開始した小切手型地域通貨で、ボランティア・環境活動・福祉活動・まちづくり活動に参加すると得られ、協賛加盟店で1ハピーあたり1円として利用できます。なお、ハピーには有効期限が設定されています。

ICカード型

ICカード型は、紙幣の代わりにICカードを発行して取引を行う地域通貨です。専用の読み取り機器を使って利用します。

地域電子通貨システム「LOVES(Local Value Exchenge System)」は、2002年に神奈川県大和市が開始したICカード型地域通貨です。これは、市が発行している住民サービス(住民票や印鑑証明書の交付)用のICカードに地域通貨機能を組み込んだものです。

ICカードの発行時には1万ラブが入っており、ボランティア活動に参加したときやエコバッグを持参して買い物をしたときにラブを受け取ることができます。

貯まったラブはカードリーダーを設置している市の施設や商店街で使用できますが、1年が経つと残高が1万ラブにリセットされるため、消費を促進させる効果があります。

 

地域通貨のメリット・デメリット

地域通貨のメリット・デメリット

都市への富の集中により疲弊した地域経済の立て直しを図る「地域通貨」ですが、その流通にはさまざまな課題が残されています。

メリット

  • 流動性の衰えた法定通貨の役割を補完して地域における実体経済を支えることで、法定通貨の暴落に備えることができる
  • 利用者を登録会員に限定することで顔の見える取引が行われるため、盗難が起こりにくく、安全性が確保される
  • 利子が付かないことや法定通貨との交換が管理されていることにより、投機による財の集約が起こりにくく流動性が確保される

課題・デメリット

  • 利用者が増えると発行手数料・管理費用などの地域通貨自体の維持費用が増大する一方で、利用者が少ないと発行している意味がないという矛盾を抱えている
  • 使用範囲や使用期間が限定されている

しかし、使用範囲や使用期間を限定するデメリットを持たせることで消費を促進させる狙いもあるため、法定通貨に比べて用途に制限があることは地域通貨の大事な特性でもあります。

 

地域活性化を目的とした日本の地域通貨の例

地域活性化を目的とした日本の地域通貨の例

通常の経済では、大型スーパーを中心とする円形のコミュニティーが形成されると、そこからはみ出した商圏では経済活動が悪化します。このため、悪化しそうな商圏だけで通用する地域通貨を発行して全体の経済活動を平均化させることが有用となります。

多くの地域通貨が誕生していますが、目的が明確でなく地域の特性を発揮できないため継続性がなかったもの、運営費の確保が十分にできず普及しなかったもの、法律の知識が不足していてやむなく廃止したものも多数存在します。

そうしたなか、地域通貨として成功している事例を紹介します。

滋賀県草津市「地域通貨おうみ」

紙幣と電子マネーを併用している、草津で流通する地域通貨です。この通貨は草津コミュニティ支援センターの市民ボランティアが運営しており、会員同士が「できること」と「して欲しいこと」を交換する際に1件(90分)あたり10「おうみ」を基準に各自の判断で感謝のしるしとして渡します。

おうみを法定通貨に換金することはできませんが、1おうみ=100円相当と決められています。

環境問題に着目し、生ゴミを堆肥化して農家に持ち込むことでおうみを手に入れ、これを使って野菜を購入する取り組みも行われています。この通貨は出資法に関わる預金・貯金に類するものですが、「寄付に対する返礼」の体裁を採ることで法規制を回避しています。

山形県高畠町「ワン券、ハッピーシール」

高畠商業協同組合が発行する共通商品券である「ワン券」「地域通貨ニャン券」「ハッピーシール」は、納税や公共料金の支払に使える地域通貨です。

1985年から発行されているワン券は当初「まほろば王国」の通貨という位置付けでしたが、観光客が記念に購入するケースが多く、流通はしませんでした。500ワン券と1000ワン券があり、それぞれ500円、1000円と等価に扱われます。また、商品券のため一度しか利用できません。

その欠点を補うために複数回の利用を可能としたニャン券を発行しており、ワン券との交換も可能です。こちらも500ニャン券と1000ニャン券が発行されており、月払いによる取引を行っていた燃料販売店や酒屋で多く使われています。また、100円の買い物をすると一枚がもらえるハッピーシールは、350枚で500円分の買い物ができます。

これらの成功事例の共通点は、「地域通貨を使うことで自分の街が発展していく実感が持てる」と考えることができます。

 

過度な一極集中が起きた通貨は役割を見失い、通貨システムそのものを崩壊させてしまいます。この状況を打開するために、実体経済に則した価値交換機能を手に入れようとする市民が考え出した地域通貨は、投機的活動を抑制し、対等な人間関係を構築する役割が期待されています。