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別府竹細工の魅力
竹細工とは
竹細工は、竹や竹ひごで作られた物を指します。竹は弾力と強度があるため、古くから農具や日用品、建築材料として用いられてきました。日本では、縄文時代の遺跡からも竹製品が発掘されています。
野菜などを入れる竹籠や魚を入れる魚籠、家屋の床や塀など、私たちの身近には多くの竹製品が存在しています。
例えば一般的なものでは、このような丸形の円型皿があります。
「竹の良さをもっと知ってもらいたい、使ってもらいたい」という思いを持つ田宮忠は、日常使いに最適なキッチン用品を豊富に揃えています。
「あおまさまる」は、天ぷら皿のほか、おつまみをのせるスナック皿、菓子皿、小物入れとしても使える万能皿。青竹を使った円型で、縦は一定間隔、横は間隔を詰める笊目編みで作られています。使っているうちに色合いが変化し、なんともいえない味が出ることも特徴の一つです。
サイズは30cm(大)、27cm(中)、24cm(小)の3種類。注文を受けてから職人が編み始めるため、手元に届くまで10日ほどかかるということにも温もりを感じます。
繊細で高い芸術性
竹細工には、実用的なものだけでなく、華道や茶道を始めとした日本文化を伝えるものとしての竹細工製品やインテリア性が高い照明や置物、おしゃれな雑貨やバッグなどもあり、繊細で美しい竹細工は世代を問わず高い人気を誇っています。
特に別府竹細工は繊細で高い芸術性を備えており、有名作家を多く輩出しています。あらゆる姿に形を変える竹ひごですが、竹細工の製作は実に難しく、職人でさえ自分が思ったように作れないこともしばしば。高い技術が求められる工芸品です。
竹の生態・特徴
竹の成長は非常に早く、数ヶ月で成竹となります。寿命は長くても20年ほどですが、地下茎の節から次々と芽を出していきます。木でいうところの幹である竹稈(ちくかん)は固いものの、しなやかで弾力性があります。
かぐや姫でも知られるように、竹稈のなかには節があり空洞になっています。竹稈が太いものほど寿命が長いと言われていますが、木と違い年々竹稈が太くなることはありません。
竹稈は竹細工に、葉はお茶や薬に、竹皮は包装に、竹の子は食料にと、活用できる部位が多い植物です。
別府竹細工に使われる竹の種類
世界には1,200種、日本にも600種はあるとされる竹ですが、日本には主に真竹(マダケ)、孟宗竹(モウソウチク)、淡竹(ハチク)の3種類が生育しています。
別府竹細工に使われる竹は主にマダケですが、モウソウチクなど他の竹が用いられる場合もあります。
真竹 |
直径15cm、高さ20mほど。節間は長く節の環は2つ。弾力性があり、竹細工に利用されることが多い |
孟宗竹 |
直径18cm、高さ22mほど。節間が短め、弾力性に欠ける。節の環は一つ。江戸時代に中国から伝わった記録が残っている。建築資材などに利用されることが多い |
淡竹 |
直径3~10cm、高さ15mほど。耐寒性があり節の環は2つ。細く割りやすい特徴を持っている。袖垣や茶道具に用いられることが多い |
なお、別府竹細工が作られる大分県は全国でもっとも多くのマダケの生産量を誇り、その国内シェアは30%以上にもなっています。
別府竹細工の歴史
日用品・工芸品に用いられたのは室町時代から
別府竹細工の歴史は、人皇12代景行天皇の時代までさかのぼります。日本書紀には、景行天皇が九州征伐の帰途、別府に立ち寄った際に同行した台所方(膳伴・かしわごのとも)が良質な篠竹を見つけ、メゴ(茶碗籠)を作ったことが記されています。
日用品・工芸品として別府竹細工が用いられるようになったのは室町時代(1336年~1573年)に入ってから。行商用の籠が生産・販売され、竹細工は広がりを見せていきます。
その後、江戸時代になると別府は温泉の町として広く世に知られるようになります。湯治客の日用品、土産物として、別府竹細工の市場はさらに拡大していきました。
明治期以降は美術品としての価値も見出だされる
明治時代に入ると別府竹細工は美術品としての価値も見出だされるようになり、1902年に創設された別府工業徒弟学校(大分県立大分工業高校の前身)では、全国から集まった竹職人が技術を磨きました。
1938年には、大分県や別府市が別府竹細工の発展や技術者の育成に力を入れようと大分県工業試験場別府工芸指導所(1954年に大分県立竹工芸訓練センターに改称)を設立。1950年には、別府市竹細工伝統産業会館の前身である別府市工芸研究所が設立されます。
さらに、プラスチック製品が多く使われるようになった昭和30年代以降、別府竹細工の美術工芸品としての価値はさらに高まっていきます。
1967年には、大分の竹工芸家・生野祥 雲斎(しょうの しょううんさい)が竹工芸の分野で初めて人間国宝に認定。1979年に別府竹細工は伝統工芸品としても認定されました。
別府竹細工の作り方
製作の大きな流れ
竹ひごで美しい模様を作り出す別府竹細工。多くの編み方があり、多種多様な模様を作り出すことができますが、丁寧な作りは素材となる竹ひご作りから始まっており、「竹ひごの良し悪しで仕上がりが変わる」とも言われています。
竹ひご作り
- 手順1伐採した竹に油抜き加工をして天日乾燥させる
- 手順2竹を切断し、半分に割る
- 手順3半分にした竹をさらに半分にする「荒割り」を行う
- 手順4荒割りを行った竹からひごを作るため、さらに竹を割る「剥ぎ」を行う
- 手順5ひごを加工し、面取りをしたら完成。ひごの厚さをそろえる際には「すき銑」、幅をそろえる際には「巾取り」という道具を用いる
編組
編組は、竹ひごでさまざまな形を作り上げる作業です。基本的に籠は底から編み、立体的になるよう腰立ち編みをして胴編みに入ります(ものによっては首編みなどを行う)。そして、さまざまな形に編み上げ、縁を仕上げたら編組は終了になります。
仕上げ
編みあがった竹細工は染色され、乾燥させてから布を使って磨く「艶出し」が行われます。その後に生漆を塗って完成となります。それぞれ「染色仕上げ」「艶出し仕上げ」「漆塗り仕上げ」と呼ばれます。
基本の編み方
別府竹細工の編組の方法は200種を超えると言われていますが、基本となる8つの編組を組み合わせからさまざまな模様が生み出されます。この8つの編組は、日本の伝統的工芸品として経済産業省から指定されています。なお、2022年12月現在で、大分県の伝統的工芸品はこの別府竹細工が唯一となっています。
四つ目編み |
縦・横の幅が同じ竹ひごを交差させながら等間隔で編む方法。隙間があるものとないもので印象が変わる |
六つ目編み |
編み目が六角形になる編み方 |
八つ目編み |
編み目が八角形になる編み方 |
網代(あじろ)編み |
縦・横の幅が同じ竹ひごを、目をずらしながら隙間なく編んでいく方法 |
ござ目編み |
縦・横の幅が異なる竹ひごで編む方法。横ひごが多くなり、ござのように見える |
松葉編み |
編み目が交差した松葉のようになる編み方 |
菊底(きくぞこ)編み |
編み上がりが菊の花のようになる編み方。中心から外に向けて編んでいく。円形の細工に用いられることが多い |
輪弧(りんこ)編み |
竹ひごを放射線状に編んでいく編み方 |
基本8種以外でよく使われる編み方
亀甲編み |
六つ目編みの一種。鉄線の花の形に似ていることから「鉄線編み」の別名がある |
二重菊底編み |
竹ひごの本数を増やし、底の径が大きいものの耐久性を高める編み方 |
筏底編み |
四つ目編みの間に幅の広い竹ひごを編み込む方法。角型の底に用いられることが多い。別名「角底編み」とも |
網代底編み |
竹細工の底部分に用いられる編み方 |
みだれ編み |
特に規則性をもたない編み方。短い竹ひご、長い竹ひごの両方を用いる |
竹でバイオマス発電
バイオマス発電は生物資源を有効活用した技術で、さまざまなものを燃料にすることができ、二酸化炭素を増やすことがないというメリットがあります。大分県や山口県で取り組まれている竹のバイオマス発電についてご紹介します。
大分県の竹林への取り組み
全国2位の竹林面積を持つ大分県では、竹林を適正本数に伐採する優良竹林化が推進されています。
放置竹林は、ほかの樹木や生態系への影響や地すべりなどの懸念があります。大分県では伐採への助成や竹粉砕機の貸出も行われており、伐採された竹は工芸品材料として利用されるだけでなく、バイオマス発電の燃料としての活用推進計画も進められています。
2014年、「株式会社グリーン発電大分」で木材に竹チップを混ぜた燃料で燃焼試験が行われるなど、新しい取り組みが次々と行われています。
山口県のバイオマス発電所の例
2017年10月、徳島県の藤崎電機が、竹のみを燃料とするバイオマス発電所を山口県山陽小野田市に建設すると発表しました。
竹は燃やすとカリウムが出てボイラーを痛めてしまうため発電は難しいとされていましたが、藤崎電機はランビォンエナジーソリューションズと協力し、竹を燃料として発電を行う装置を開発。世界初の竹専燃バイオマス発電所建設の運びとなりました。
竹のバイオマス発電所は、エネルギー問題や日本各地で問題となっている放置竹林の解決になると大きな期待が寄せられています。
別府竹細工、いかがでしたでしょうか。良質な竹が多く採れる大分ならではの伝統工芸品は、編組が美しく、親しみやすいものが多くあります。実用的なものも多いので、実際に使ってみて手作りの良さを味わってみてください。