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ホンビノス貝とは?
北アメリカ・大西洋岸に生息する二枚貝
「ホンビノス貝」は、東京湾でも漁獲できるマルスダレガイ科の二枚貝です。本来は北アメリカ・大西洋岸に生息する貝で、食用としてアメリカ西海岸や中国、ヨーロッパなどにも移入されています。アメリカではクラムチャウダーの具としてのほか、レモンを搾って生のまま食べられることもあります。
ハマグリによく似た姿をしていて味もハマグリやアサリにそっくり。スーパーマーケットなどで手に入れることができ、リーズナブルでおいしいと人気を集めている食材です。日本国内では一時期「白ハマグリ」として流通していたこともあります。
名前の由来は貝の属性にあります。ホンビノス貝はメルケナリア属の貝ですが、古来はビーナス属の貝とされていました。そのため「ビーナス貝」と呼ばれていましたが、日本国産のビーナス属の貝が「ビノス貝」と呼ばれていたため「ホン」が付いて「ホンビノス貝」となりました。なお、漢字で書くと「本美之主貝」となります。
ハマグリやアサリとは違って泥の中で生活
ホンビノス貝は海岸線に近い場所に生息しています。外来種ではありますが、砂にもぐる国産のハマグリやアサリとは違い泥の中で生活をしているため、これらに影響を与えることはありません。
やや大きめで、成貝は最大で10cmほどにもなることがあります。外見は大アサリに似ており、左右非対称。丸みのあるころっとした形をしています。厚みのある殻には同心円状の肋が付いており、色合いは生育環境により変化するため白から灰色、黒っぽいものまでさまざまです。
1998年に千葉県幕張で発見
外来種であるホンビノス貝が日本で確認されたのは1990年代になってからのこと。1998年に千葉県幕張で発見され、その後、大阪湾などでも発見されています。経緯としては、船舶のバラスト水に入っていたものが定着した、と考えられています。
外来種であることに加えてアサリの漁場に多く見られるため、当初は不要な貝とされていました。しかし、食用として優れていることが分かり漁獲量が増加し、スーパーマーケットなどで手に入れることができる食材となりました。今ではインターネットで多くの料理法が紹介されるほどです。
さらに、千葉県では2017年に千葉ブランド水産物として「三番瀬ホンビノス貝」が認定されました。
ホンビノス貝とハマグリの違い
ホンビノス貝とハマグリの違いは、「産地」「色と形」「味」の3つです。
産地
ホンビノス貝は外来種ですが、ハマグリは古来より日本各地で採ることができる貝です。
色と形
ホンビノス貝は蝶番辺りが曲がっており左右非対称ですが、ハマグリはきれいな対象形をしています。殻はハマグリの方が厚く、色についてもハマグリは白っぽくホンビノス貝は黄色っぽいことが特徴です。実は水揚げ後は黒色に近いのですが、時間の経過とともに白みが強まっていきます。
味
ハマグリは火を通しても固くなりにくくふっくらやわらかい食感の貝ですが、ホンビノス貝は火を通すと固くなるため噛みごたえがあります。また、アサリのような食感とも例えられることがあります。そのため、江戸前の新たな名物としても期待されています。
ホンビノス貝についてさらに深掘り
乱獲を防ぐために資源管理が始まる
ホンビノス貝は、アサリは異なり青潮の被害を受けにくく、さらに年間を通して採れるため、漁師の経営面から見ると非常に優秀な食品です。船橋漁港に水揚げされる漁獲量でも、2007年度の193トンから最盛期の2017年度には1,676トンまで激増しました。
しかし、急激な漁獲量の増加によって今後の持続的な漁が危ぶまれる可能性も懸念されたため、2020年度からは千葉県が船橋市・市川市の漁業協同組合と連携して資源管理を行うことになりました。具体的には、産卵時期や成長の過程を研究することで安定的な漁獲量を維持することが目的です。
その結果、2020年度は438トン・2021年度は199トンと、漁獲量は一時的に急激に減少しています。なお、いずれの年度もアサリの漁獲量は0トンのため、今後、ホンビノス貝には安定供給が望まれます。
春と秋は身がプリプリ
年間を通して食べられるホンビノス貝ですが、その中でも春と秋は身の入りがよくなり、プリプリの食感が味わえます。これは、産卵前であることが理由です。
ホンビノス貝の下ごしらえ
スーパーマーケットや魚屋などで手軽に入手できるホンビノス貝。あまり砂を含まない貝なので、そこで購入したものは砂抜きをせず洗うだけで調理されるケースも多くあります。
しかし、潮干狩りで採った場合には砂抜きをして、貝から泥や体液を吐き出させ臭みを消すとよりおいしく食べられます。市販で購入した貝を念のため砂抜きする場合も、ほかの貝のように長時間おいたりせず数時間で良いとされています。
砂抜き・モヤ抜き
ボールに3%程度の食塩水(水1リットルあたり約30g)を作り、ホンビノス貝を入れて皿や新聞紙などで蓋をして数時間おいておきます。砂抜き不要とも言われているホンビノス貝なので、スーパーマーケットで購入したものは2時間から3時間が目安、潮干狩りで採ったものは4時間前後が目安とされています。
塩抜き
貝を水から上げて3時間ほどおいておくだけで塩抜きが行えます。また、新鮮なホンビノス貝は塩抜きした後に半日ほどおいておくとうま味成分がアップしておいしくなる、という声もあります。
時間は目安なので、抜けている海水の量を見ながら行ってください。塩を抜くだけで良いという場合には30分から1時間おいてから調理しましょう。
ホンビノス貝の食べ方
網焼きや酒蒸し
どんな料理でもおいしく食べられるホンビノス貝ですが、簡単な方法としては網焼きや酒蒸しが一番でしょう。
クラムチャウダー
ホンビノス貝は北米でクラムチャウダーの具として使用されているため、「本場の」クラムチャウダーを作るのもおすすめです。いわゆる「ボストン風」と呼ばれるオーソドックス作り方でもよいですが、トマトピューレを入れると「マンハッタン風」になり、どちらもホンビノス貝の風味とよく合います。
ちなみに、記事のはじめのコラムに、大きなホンビノス貝の別名が「chowder clam」になると書きましたが、これを入れ替えると「clam chowder」と、まさしくクラムチャウダーになります!
また、汁物でいうと味噌汁にもマッチします。身のプリプリ感を味わいたい場合には、熱湯の状態に入れると身が縮みにくいので旨みが凝縮されます。逆に、味噌汁の中にホンビノス貝の旨味を抽出したい場合には、水から入れるとよいでしょう。ただ、この場合身は縮んでしまうので、食感が硬くなってしまいます。
炒めものやご飯に混ぜても美味
ほかにもガーリックバター炒めやパスタの具材、ご飯に混ぜてもおいしくいただけます。和風・洋風・イタリアンの味付けにもよく合い、煮ても焼いてもおいしくいただけます。
ご飯に乗せる場合は、佃煮にするとより一層ホンビノス貝の旨味が引き立つでしょう。
ホンビノス貝の保存方法
すぐに使う場合は野菜室
砂抜きや塩抜きなどの下処理を行った後のホンビノス貝は、アサリなどの貝と同じような保存方法で問題ありません。すぐに食べる予定であれば、キッチンペーパーを軽くぬらしてホンビノス貝を包み、野菜室(7度前後)に入れます。
長期保存したい場合は冷凍庫
長期保存したい場合も冷凍保存が可能です。砂抜き・塩抜きを施してからペーパータオルでふき、冷凍用の袋に入れてしっかりと口を閉じてから、トレイの上に乗せて冷凍庫に入れましょう。1カ月ほど保存できますが、できれば2~3週間で食べきりましょう。
ホンビノス貝を千葉県が積極的にアピール
千葉ブランド水産物認定制度に認定
海の幸が豊富な千葉県は「千葉の魚の認知度を高めて県内外にアピールを」と、2006年(平成18年)に「千葉ブランド水産物認定制度」を開始しました。これは、優良と認められた水産物を重点的にPRし、消費の拡大と水産業の振興などの推進を図るものです。
「千葉ブランド水産物認定制度」に認定されているのは2016年(平成28年)3月の時点で22点。2017年(平成29年)には「三番瀬ホンビノス貝」を含めた6点が認定されました。
「生鮮水産物」「水産加工品」「ふるさと品」のグループに分かれており、生鮮水産物には「勝浦産ひき縄カツオ」や「外房あわび」、水産加工品には「金田産一番摘みあま海苔」や「九十九里いわしのごま漬」、ふるさと品には「房州産鰹節・花かつお」などが認定されています。
千葉ブランド水産物の特徴
「千葉ブランド水産物」の認定を受けるためには多くの条件と決まりがあります。
それぞれのグループごとに申請資格があり、千葉の特徴をアピールでき、市場性が高く、発展性があることなどが条件となります。さらに、千葉県内での水揚げや千葉県産の原材料の使用といった多くの細かい基準が定められています。
黒潮キッチン ホンビノス貝
房総半島の新鮮な海産物を販売している「黒潮キッチン」。さまざまな商品がありますが、ホンビノス貝はテレビで紹介されたこともある人気商品です。
港で漁師から直接買い付けたホンビノス貝は、選別の後にサイズ別にいけすに入れられて砂抜きされます。そのため手元に届いてからの砂抜きは不要。すぐに調理することができます。
4cm〜5cmセンチのものから約8cm以上までの4サイズがあるので、人数や用途に合わせて選べることもポイント。自宅で食べるほか、バーベキュー用として利用されることも多い商品です。
三番瀬ホンビノス貝を潮干狩りで
東京湾の奥にある広い干潟・浅海の三番瀬は、江戸時代に幕府に魚介を納める「御菜浦(おさいうら)」として指定されていた漁場です。この三番瀬にある「ふなばし三番瀬海浜公園」では野球やテニス、バードウォッチングなどのさまざまなアクティビティーを楽しめますが、夏季には干潟を活かした潮干狩りをすることもできます。
ホンビノス貝だけでなくアサリを採ることもできる人気のスポットですが、ホンビノス貝は重いので、持ち帰る際のことも考慮して楽しみましょう。
外来種ではあるものの、手軽でリーズナブルに入手できるおいしいホンビノス貝。砂抜きも楽で調理がしやすいため、さまざまな料理に活用してご自宅の定番を増やしてみてはいかがでしょうか。